工業の知識・技術を用いて新たな価値を創出する人材を育成/静岡県立浜松工業高等学校

- 静岡県浜松市にある1915年創立の県立高校。全日制8学科(システム化学科、デザイン科、建築科、土木科、機械科、電気科、情報技術科、理数工学科)と定時制工業技術科からなる。1学年あたりの定員は、機械科80名、他学科各40名。
- 2013年度よりスーパーサイエンスハイスクール(以下「SSH」)の指定を受け、技術的センスと科学的分析力を併せ持ち、新たな価値の創出やイノベーションを起こすことができる人材の育成を目指して指導方法や教材・カリキュラムの開発に取り組んでいる。
- 2024年度からのSSH第Ⅲ期では、学科や教科を横断した学びの実現と、工業高校ならではの専門的な設備等を生かした他校や大学・企業等との研究交流に取り組んでいる。
静岡県立浜松工業高等学校(静岡県浜松市)は、2013年度よりSSHの指定を受け、新たな価値の創出やイノベーションを起こすことができる人材を育成するための指導方法や教材・カリキュラムの開発に取り組んできた。2024年度より指定第Ⅲ期を迎えた同校の取り組みについて、教頭の秋月竜也氏とSSH推進室長の山口 剛氏に伺った。

実習による実感を科学的に分析し、問題解決への着想につなげていく
同校は、育成を目指す人材像を「人間性豊かにして、勤労を尊び、知性と創造性に富む工業技術者」とし、「確かな技術力」「分野横断的な応用力」「鍛え抜かれた実践力」「科学に基づく思考力」を身につけることをスクール・ミッションに掲げている。2013年度から取り組んでいるSSH事業においても、技術的センスと科学的分析力を併せ持ち、新たな価値の創出やイノベーションを起こすことができる人材の育成を目指してきた。
その核として取り組んできたのが、同校が「RACE(レース)」と呼ぶ学習プロセスの実践である。「実感(Realize)」「分析(Analyze)」「着想(Conceive)」「評価(Evaluation)」のサイクルにより問題解決の力をつけていくというものだ。その狙いを山口氏は次のように説明する。
「工業高校では、基礎となる数学や理科の知識が十分でない段階から専門科目を履修するため、専門科目では体験的に学ぶべく実験や実習を多く行います。そこで得た実感を、後に数学や理科の学習が進んだときに数学的・理科的に分析して問題解決への着想へとつなげ、その着想を評価することでさらなる着想につなげていく。このプロセスを生徒一人ひとりが実践できるよう指導方法や教材・カリキュラムの開発に取り組んできました」
その成果の一つとして、同校が独自に開発した「デジタル版RACE学習ノート」がある。各科目の学習活動を生徒が任意に記録できるWebシステムで、「R」「A」「C」「E」のカテゴリーに分けて記録していくことで、実習等で生じた問題を分析する力や解決に向けて着想する力を鍛えていくものだ。
学科横断の取り組みにより、専門分野を超えた問題解決を目指す
こうした取り組みに続き、SSH第Ⅲ期の指定を受けた2024年度より力を入れているのが、学科を横断する学びによるイノベーションの創出と、他校や大学・企業等との研究交流「浜工ラボ」等である(図表1)。
特に学科横断の学びによるイノベーションの創出は、「専門科目で得た知識や技術は、実社会では当該分野以外での活用機会のほうが多いため、活用の場の広がりを知り、実際に活用していく視点を持ってほしい」(山口氏)という課題意識から第Ⅱ期より重視しており、工業に関する課題の探究と解決に取り組む専門科目「課題研究」(3年次、3単位)において、学科横断での研究を推奨してきた。
2024年度からはさらなる取り組みとして、1・2年次に課題研究の準備段階として3年生の課題研究について学科を超えて知る時間「課研開発」(課題研究を開発する、の意)を設け、生徒一人ひとりが自学科での学びを他学科の分野に応用する視点を培っている。2025年度の課研開発の内容は図表2を参照いただきたい。
図表2 「課研開発」2025年度実施内容(全4回)
こうした取り組みの狙いを秋月氏は次のように説明する。
「課題研究は、自らテーマを設定して身につけた知識や技術を応用しながら研究を進め、新しい成果を生み出す『総合的な探究の時間』と同様の狙いを持った科目です。工業科ですから何かしらの完成物を作る生徒が多いですが、ありきたりなものを作るのではなく、基礎的な知識・技術をしっかりと身につけたうえで、他学科の協力も得ながら幅広い考え方や視点を得て新しいものを発想してほしい。それはテーマ設定においても同様で、自学科を超えた広い視野から社会の問題を捉え、それを改善していくにはどうすればよいかを考えられるようになることを期待しています」
生徒が自ら社会の課題を見つけ、探究する力をつけることが課題
加えて、同校が力を入れているのが、生徒が自ら課題を見つけ、課題研究のテーマを設定する力の育成だ。その理由を山口氏は次のように説明する。
「本校の生徒達は、課題や実験・実習を通じて試行錯誤することを鍛えられていますし、SSHの取り組みを通じて『作りたいものをなんとなく作ったらうまくいった』で課題研究を終わらせるのではなく、『なぜそうなるのか?』と仕組みや原理を分析し、『それならこうすればもっと良くなるのではないか』と考え、試作や実験を重ねて研究を進める、いわゆる問題解決の力もついてきています。他方で、自分の視点でテーマを見つけて取り組む点には課題があり、教員がある程度視点やきっかけを提供するケースが多いため、その力をつけていきたいところです」
そのために2026年度から始めたのが、1年次から探究活動の基礎を学ぶ取り組みだ。課研開発を1・2年次の2年間で1単位の学校設定科目とし、1年次には社会全般の課題を、2年次には各学科の専門分野における課題を自分達で見つけ、テーマを設定して解決方法を考えることを通じて基礎を固めていく。「探究の基礎的な知識・技能をしっかりと固めたうえで課題研究を進めるカリキュラムによって、課題研究が、生徒が自分で様々な情報を集め、広い視点から社会の課題を発見し、その解決に向けて探究的に新しいものを生み出す活動になっていくようにしていきたい」と秋月氏は意気込む。
発想の力を発揮する生徒も
カリキュラムの改善を進めるなかで、社会課題の解決に資するテーマを設定し一定の成果をあげたり、新たな価値の創出に必要な発想の力を発揮したりする生徒も出てきているという。
例えば、2025年度には地元の菓子メーカーとロボット開発企業が共同で進めるイチゴの自動栽培システムの研究に機械科の3年生のグループが参画し、生育時の光の均等な照射等のために手作業で行われてきたイチゴの生育ポットの回転作業を機械化する装置を発案・開発。2026年度は後輩達がそれをコンピュータで制御するシステムの開発に取り組んでいる。また、2025年度には情報技術科3年生のグループが、地震の際に家屋の下敷きになった人の位置をスマートフォンのBluetooth(R)の電波をもとに推定するシステムを考案・開発した。課研開発の充実等により、こうした取り組みが一層増えていくことが期待される。
(左)機械科の生徒達が開発した生育ポットの回転装置/(右)建築科1年次の木工の実習。どの学科も3年間、多様な実習を通じて当該分野の課題解決のための技術や見方・考え方を身につける。
また、同校は2026年7月に「N-E.X.T.ハイスクール構想」に基づく高等学校教育改革促進事業における改革先導拠点にも指定された。「産業イノベーション人材育成に向けたスタートアップ教育の拠点育成」をテーマに、地域の企業等の課題の解決策を製品として形にすること等に取り組んでいく計画だ。「学んだ知識や技術をしっかりと活用して地域や社会に貢献していく人材を育てていくという本校のSSH事業の元々の課題意識と、N-E.X.T.ハイスクール構想が目指すものには重なりがあります。今後、改革先導拠点として、さらに実践的な学びを進めて製品を開発し販売する活動まで行っていくことになるため、その進め方等を今、地元企業の方々と検討しているところです」と秋月氏。同校の今後に期待が高まる。
文/浅田夕香(2026/9/25)

