目指す教育内容等から逆算し、全日制県立高校全ての再構築を計画/富山県教育委員会

 少子化のさらなる進行、産業構造の変化や社会課題の複雑化に伴う育成すべき資質・能力の変化、生徒の多様化等を受け、高校教育の改革が喫緊の課題である。2026年2月には文部科学省から「2040年に向けた『N-E.X.T.ハイスクール構想』」が公表され、さらなる改革が求められることとなった。

 こうした状況において、各自治体はどのような方針と計画で高校教育改革に取り組んでいるのか。近年の状況変化を受けて具体的な計画を立て、実行に移している教育委員会の構想をご紹介したい。

POINT
  • 2038年度までに目指す教育内容と学校規模を描き、将来の県立高校を7つに類型化。全日制県立高校34校全てを「移行準備校」とし、新たな20校の「新時代とやまハイスクール」に再構築する計画を策定
  • 生徒の多様な興味・関心、背景等に応じた教育を提供するべく、大規模校や中高一貫校の設置、グローバル教育、情報教育、基礎学力定着を図る学び直しが可能なカリキュラム等、将来を見据えた新たな環境や教育内容も整備していく


富山県教育委員会 教育みらい室 県立高校改革推進課 参事・課長 丸田祐一氏、富山県教育委員会 教育みらい室 課長(高校教育充実強化担当)武末宏和 氏


全日制県立高校34校全てを20校程度に再構築

―富山県では、2025年3月に「新時代とやまハイスクール構想」の基本方針を、翌2026年1月には実施方針を策定されました。その内容は、2038年度(令和20年度)の教育内容と学校規模、そして「目指す姿」を描き、生徒数の減少に鑑み34校ある全日制県立高校を20校に再構築するというものです。どのような背景からこの構想を策定されたのでしょうか。

丸田:当県ではこれまで、生徒数の減少を受けて2016年と2020年に県立高校の再編統合を行ってきました。他方で、社会の変化が非常に速く、科学技術もグローバル化も進展しているなか、「単に小規模化した高校を近隣の高校に統合するだけでよいのか」というご意見を頂くようになってきました。

 そこで、2021年から外部の有識者の方々も交えて今後の県立高校のあり方について検討を開始し、2022年に実施した中高生やその保護者、県内企業等へのアンケート調査等も踏まえて議論を重ねるなかで一致してきた方向性が、「まず検討すべきは、将来どのような教育を提供していくかではないか」ということです。

 そして、2024年には県内各地域で県立高校の目指す姿についてワークショップや意見交換会を行い、そこで出た地域ごとの特性を生かした教育のアイデア等も取り込んで策定したのが「新時代とやまハイスクール構想」です。検討時に生まれた子ども達が高校入学を迎える2038年度までに実現を目指す教育内容や学校規模と、そこから5年程度ごとにバックキャストして目指す学校配置を描きました。34校を20校にするに当たっては、近隣校同士を統合するのではなく、34校全てを「移行準備校」とし、各校で行われている教育も踏まえながら新たな20校の「新時代とやまハイスクール(新時代HS)」に再構築します。

―構想では、新時代HSの7つの類型を示されています。どのようなお考えから7つに整理されているのでしょうか。

丸田:将来提供していきたい教育内容を整理し、大規模、中規模、小規模の3つの学校規模で組み合わせて特色ある20校を作るという方針のもと、その組み合せを整理したのが7つの類型です。

 まず、将来提供していきたい教育内容として、普通系学科では、共通教科の学習を主体とする教育内容を「スタンダード」として全ての普通系学科に共通する教育の基本と位置づけるとともに、「STEAM」「グローバル」「未来創造」「地域共創」「エンパワーメント」という5つの区分を設けました(図表1)。「未来創造」は、スポーツ、芸術、情報等の5つにさらに細分化しています。また、各職業系専門学科のこれからの教育内容の方向性も整理しています。


図表1 普通系学科の教育内容の区分
図表1 普通系学科の教育内容の区分

 そのうえで、学校規模との組み合せを整理したのが7つの類型です(図表2)。今後、2038年度までを3つの期に分けて20校の新時代HSを設置していきますが、各校の詳細を検討していく際には、この7類型をどのように組み込んでいくかも含めて議論していきます。


図表2 新時代HSの7類型
図表2 新時代HSの7類型

科目の選択肢が多様な大規模校等、今ない環境・教育づくりも計画

―構想のなかで特に力を入れていくものはありますか。

丸田:1つ、トピックとして挙げられるのは、本県に今ない教育や環境を作り、提供していくということです。具体的には、大規模校と中高一貫校の設置を計画しています。

 まず大規模校は、生徒の興味・関心が非常に多様化していることを受け、多数の教員による多様な科目を設け、生徒数も多く、部活動の種類も豊富な環境で、生徒が学びたい科目を選んで時間割を組み、やりたいことに向き合える学校を作りたいという思いから計画しています。現状、本県では1学年あたり320名が最大規模ですが、大規模校は480名規模とする案としています。また、教育内容としては、「スタンダード」に加えて「未来創造」のスポーツや芸術を組み込み、さらに職業系科目もある程度選択できるようにしたいと考えています。

 次に中高一貫校ですが、本県にはまだ公立校がないため、まずは1校設置する計画です。6年間という時間のなかでやりたいことに打ち込み、継続した学びによって進路選択の幅が広がっていく可能性に期待していますし、中学生と高校生が同じ学校の中で直接交流する仕組みを作ることで、ほかの県立高校における中高連携の仕組みづくりにも波及できればと思っています。教育内容は、「STEAM」について継続的かつ計画的に学べるようにする計画です。

 また、小規模校の設置も考えています。通いやすさ等の観点から小規模校であっても必要な学校として4校程度設置予定です。

―第1期(2029年度ごろまで)には、グローバルハイスクール1校と未来探求ハイスクール4校の設置が計画されています。この2つの類型の学校をまず設置する背景を教えてください。

丸田:構想では、第1期では速やかに対応すべき教育課題の解決を図る中規模校を設置し、第2期(2033年度ごろまで)には中小規模校の充実を図り、その一環として先述した中高一貫校を設置します。そして、第3期(2038年度ごろまで)に大規模校の設置も含めて全ての新時代HSの設置を完成させる計画です(図表3)。


図表3 目指す姿から考える各期の姿
図表3 目指す姿から考える各期の姿

 第1期に速やかに対応すべき教育課題として、グローバル化の進展に対応したグローバル教育の充実、科学技術の進展に対応した情報教育の充実、部活動等を理由とした県外進学者の増加への対応、不登校生徒や外国人生徒の増加を踏まえた誰一人取り残されない教育の実現の4つの優先度が高いという考えから、これらを解決するための学校として設置します。

 なお、未来探求ハイスクールは、やりたいことや得意なことが明確な生徒がそれらを生かした専門的な学びに取り組む学校と、それらを探っている最中にある生徒が多様な科目から学びたい内容を選ぶなかでなりたい自分を見つけていく学校という2タイプを設ける方向で議論を進めています。前者では、部活動を目的に県外進学を志向する生徒の受け皿として部活動の充実も図り、後者では、外国人生徒に係る特別入学枠の設定や基礎学力の定着を図る学び直しも実施して誰一人取り残さない教育も実現させていきたいと考えています。

―「N-E.X.T.ハイスクール構想」については、どのように受け止めていますか。

武末:本県の構想の実施方針を示したすぐあとのタイミングで策定され、手厚い財政支援も含めて本県の高校改革を進めていくうえで追い風になると受け止めています。これまで、国による公立高校への支援は限られていましたが、今回のいわば攻めの改革に対する積極的な支援を、ぜひうまく活用して新たな学びのパイロットケースを作り、本県の構想を形にしていくなかに組み込んでいければと思っています。

―改革先導拠点として、類型2(理数系人材育成支援)の拠点に魚津高校(魚津市)が、類型3(多様な学習ニーズに対応した教育機会の確保)の拠点に小杉高校(射水市)が採択されています(2026年6月30日時点)。どのような観点で申請校を選定されたのでしょうか。

武末:国が示した3つの類型の学びをどの学校で展開するのが良いかという観点で選定しました。

 類型1のアドバンスト・エッセンシャルワーカー等育成支援の改革先導拠点2校は採択が見送られたため、再申請を行います(※)。

 類型2の魚津高校は、かつての理数科設置校で理数系教育の土台があることが選定理由の一つです。加えて今回、理数系人材の裾野拡大をテーマにしており、近隣に中学校があって協働学習等にも取り組みやすいことからも適していると判断しました。

 類型3の小杉高校は、総合学科で柔軟な教育課程への転換を進めやすいことや、すでに地域の高等教育機関等との連携が進んでいること、また、同校が位置する射水市は外国人住民の割合が県内自治体のなかで最も高いことから、多様な背景を持った生徒達のニーズに応える教育内容の展開が適しているのではないかと判断しました。教育課程の柔軟化や外部専門人材を活用した多様な学びの拠点の整備等により、多様な背景を持つ生徒の主体的な学びを実現するパイロットケースを作っていきます。

※2026年9月、高岡工芸高校、富山商業高校が追加採択された。

文/浅田夕香(2026/9/25)