カレッジマネジメント Vol.220 Jan.-Feb. 2020

中期計画で実現する大学の未来

編集長・小林浩が語る 特集の見どころ

改めて大学の個性や価値を真剣に話し合い、
教職員が“当事者意識”を持てるかが中期計画成功のカギ

 「大学経営はタンカーの舵取りのようなものである」。私は常にこのように考えている。舵を切っても急には曲がれない。例えば、大学にとって学部・学科は企業の商品ラインアップに当たるが、構想→学部新設→完成年度までを考えると、成果が出るまで最低5〜6年はかかってしまう。

 国内の18歳人口は、2040年には88万人にまで減少すると推定される一方で、グローバル化や第4次産業革命と呼ばれる技術革新の影響で、大きな社会変化が予想される。そのため、新しい時代に対応した、経営戦略、人材育成への対応が急務となる。まさに、環境が大きく変化するなかで、将来の大学(学校法人)のありたい姿をイメージし、そこに到達するための道筋を主体的に描く(デザインする)工程表が求められている。そのため、文部科学省は2020年4月より私立学校法を改正し、中期計画の策定を義務付けることになったのである。

 今回は、改正私立学校法の施行に先立ち、各大学の中期計画の策定状況について、東京大学大学院教育学研究科両角准教授と合同で、調査分析を実施した。ご多忙のところ、本調査にご協力頂いた大学・学長に感謝を申し上げたい。

 その結果を見ると、大学の中期計画の傾向が見えてくる。そのなかでも、特に中期計画が成果を上げている大学に共通する要因は何か、というのが今回の調査研究の最重要ポイントである。その要因を分析したところ、以下の6点がポイントではないかという結論にいたった。

 まず、前提として重要なのは、改めて大学のミッションを確認し、将来に向けて個性や強みを明確化して、本学はどのような価値を提供していくのかを議論することである。そのためには、議論をするに足る十分な情報収集・分析が必要である。その際に重要となるのが将来の環境分析、そして過去の中期計画の振り返り、学内に蓄積された情報等の分析である。

 次に重要なのは、教職員の当事者意識の醸成である。これが成否のカギを握ると言っても過言ではない。そのためには、プロジェクト等の推進体制の組み方、経過報告、学内外の意見収集といった策定に向けてのプロセスを考える必要がある。その際、中期計画と各組織や個人の目標、行動とどのようにリンクさせるかがポイントとなる。そして、中期計画をいかに、教職員に共有・浸透させていくかである。誰かが作った計画を“やらされる”のではなく、自分事化して当事者意識を持って“主体的”に推進していることが、中期計画の成功に向けた大きな要因となる。中期計画を絵に描いた餅にしないためには、ここが重要である。

 さらに、中期計画の検証プロセスを策定時に組み込んでおくことである。変化の激しい時代のなかで、一度策定した中期計画を見直さないということはあり得ない。見直しは必然と考え、うまく進んでいない項目をそのままにしないためにも、検証のプロセスの中に、見直しも含めた組織全体としての工程表を作成しておくことが、中期計画を実質化するためのポイントとなる。

 最後に、中期計画の今後に向けた残された課題は、社会への公開である。それは社会に対する説明責任を果たす、ということだけではない。今回の調査では、社会一般に中期計画を公表・説明している大学ほど、教職員への浸透度も高くなっていることが分かった。大学の現状や目指すべき姿や取り組みを分かりやすく社会に説明するためには、ポイントを明確にしなければならず、それは学内の教職員の理解促進にも効果的であるように思われる。また、学外の視点や社会からのフィードバックを計画に反映することも、重要なポイントとなってくる。

 私立学校法で義務化されたからではなく、全学を挙げて、将来環境を予測し、いかに教職員の当事者意識を醸成しながら、中期計画を自分事化できるか、これが中期計画に向けた成功のポイントである。

リクルート進学総研所長・リクルート『カレッジマネジメント』編集長 小林 浩