カレッジマネジメント Vol.221 Mar.-Apr. 2020

教学マネジメント─学修者本位の教育への転換

編集長・小林浩が語る 特集の見どころ

入学時の偏差値による単純な序列化から、
卒業時の多元的な成果の尺度に向けたパラダイム転換へ

何故「教学マネジメント」が求められるのか
 今回の特集タイトル『教学マネジメント』は、新しい言葉である。なぜ、このような『教学マネジメント』が求められるようになったのだろうか。

 高校までは、学校教育法等に基づき、文部科学省が「学習指導要領」という各学校で教育課程(カリキュラム)を編成する際の基準を定め、生徒がどこまで修得したのかについて、各学校において到達度を測定することになっている。このように、各学校が設定する教育目標を実現するために、学習指導要領等に基づき教育課程を編成し、それを実施・評価し改善していく取り組みを、「カリキュラム・マネジメント」と呼んでいる。

 しかし、大学には学習指導要領は存在しない。従って、高等教育機関としての大学は、その大学のミッション、バリュー、特色に応じて、自ら「卒業認定・学位授与方針(ディプロマ・ポリシー)」として学修到達目標=何ができるようになるのかを明示することが重要になる。そして、それを実現するために、「教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー)」を策定し、それが身につくのは、どのような教育理念や方針に基づいて、どのような教育の仕組みがあるからなのかを示すことが求められる。さらに、「入学者受入れ方針(アドミッション・ポリシー)」において、求める人物像や入学後の教育を受けるために、学力の三要素に基づいて、どのような準備をしておく必要があるのかを明示する必要がある。これは、「カレッジ・レディネス」と呼ばれ、大学に入るためにどのような準備をしておく必要があるのか、高校生や保護者、高校教員にも分かりやすい言葉にして示すことが求められる。

 こうした、各大学の強みや特色が反映された「三つの方針」を実現するために、入学から卒業まで一貫した教育の取り組みが、今回の特集のタイトルとなる『教学マネジメント』となる。

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3つのポリシーに基づく一貫した大学経営と価値の浸透<大学教育のPDCA サイクルの確立>

TeachingからLearningへのパラダイム転換

 『教学マネジメント』の最も重要なキーワードは、“学修者本位の教育への転換”である。従って、学生一人ひとりが大学生活を通じて何ができるようになるのか、を考える必要がある。だからこそ、DP の実現に向け、学修成果をきちんと把握して、可視化することが求められるのである。これは、言い換えれば教える側を中心としたTeaching(input)から、学修者を中心としたLearning(outcomes)へのパラダイム転換である。さらに、これまで入学段階の偏差値の単純な尺度で序列化されていたものを、卒業段階の多元的な成果の尺度に変えていく、入学の国から卒業の国に変わっていく大きなパラダイム転換とも言えるのではないか。

わかり易い情報公表が鍵

 だからこそ、情報公表が重要になる。学修成果をどのようにエビデンスベースで示していくのか、各大学の個性や特色が問われるポイントでもある。よく説明責任といわれるが、情報公表をただ義務的なものと考えるのはもったいない。情報を公表することで、社会からのフィードバックをもらうという視点も重要となる。その社会からのフィードバックによって、さらに教育の質を高めていく、あるいは経営の質を高めていくための良い機会だと、前向きに捉えられるかどうかがポイントとなってくる。そのためには、いかに分かりやすく情報を開示できるかが重要である。これまで何度となく「伝える」と「伝わる」は異なると記しているが、まさにステークホルダーにきちんと「伝わっているか」を、大学側も把握しておく必要がある。

学長を中心に教職員全体での取り組みを

 最後に、高校までの「カリキュラム・マネジメント」では、「校長又は園長を中心としつつ、教科等の縦割りや学年を越えて、学校全体で取り組んでいくこと」が求められている。大学の『教学マネマネジメント』においても、学長を中心に教職員全体で取り組んでいくことが求められる。教学マネジメントの推進に向けて、圧倒的な当事者意識を持てるかどうか、これが将来に向けた大学改革の成功の秘訣となろう。

リクルート進学総研所長・リクルート『カレッジマネジメント』編集長 小林 浩