カレッジマネジメント Vol.222 May-Jun. 2020

教育改革を実現するキャンパス戦略

編集長・小林浩が語る 特集の見どころ

教育理念と経営戦略を融合した中長期的なキャンパス戦略を

 今や大学進学者の94%(※)が参加し、高校生の進路選択プロセスの中で、重要な位置を占めるオープンキャンパス。高校生が知りたかったことのトップは「キャンパスの雰囲気(73.6%)」。そして、実際に行ってみて良かったことの上位は「キャンパスを見られたこと(87.4%)」「施設・設備を見られたこと(58.9%)」となっており、キャンパス見学が大学選びに大きな影響を与えていることが分かる。

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進学先の大学が主催したイベントの「良かったところ」(大学進学者のうち進学先イベント参加者/複数回答)

 もちろん、学部・学科の中身や教育内容が重要なのは言うまでもない。しかし、進路選択行動は年々早期化しており、71.3%は高校2年生までにオープンキャンパスに参加している状況である。まだ、大学で学ぶことについての具体的なイメージがしづらい時期であることは間違いない。そこで、キャンパスを見学し、その雰囲気から、その大学の教育理念や学風、自分がそこで学ぶ姿を想像し、自分に合致する大学か否かを見ているのである。

 海外の大学では、キャンパスマスタープラン(以下、CMP)と呼ばれる、アカデミックプランと経営戦略を融合した長期的な施設計画を策定するそうであるが、これまで日本でCMPを持つ大学は多くなかった。しかし、昨今は日本でも18歳人口減少下での生き残り戦略の一環として、耐震工事や建て直し、周年事業のタイミングにおいて、CMP的な考え方を取り入れる大学が増えている。特に、大学改革・教育改革が進められる中で、それぞれの大学において、「主体的で対話的で深い学び」にどのように取り組んでいくのか、あるいは教育理念をどのように具現化していくのか、という観点からのファシリティの見直しが進んでいる。

 今回の特集を通して感じたのは、教育改革をどのように実現していくかが、キャンパス戦略に大きく反映されているということである。ポイントは以下の3点に整理できるのではないか。まず、「学修者本位の教育の実現」である。ラーニングコモンズやグローバルコモンズの新設、図書館の見直し、実験場の充実等によって、“主体的な学び”をどう引き出すかである。次に「縦割りから融合へ」である。学部単位、研究室単位、文系・理系といった縦割りのキャンパスから、文理融合、研究室間の壁の撤廃、学部間連携等といった形で、横串を通すように、新たな社会課題への取り組みを推進していこうというものである。3つ目は「教育理念の具現化」である。これは、もともと建学の精神や教育理念といった形にならないものを、もう一段かみ砕き、キャンパスのあり方といった形で示し、大学の個性を分かりやすく社会に具現化するものである。

 特に、大きなテーマとして、グローバル化に対応した教育、第4次産業革命といったICTへの取り組み、産学官・地域との連携といった、今後の社会課題に対応した人材育成を、どのように大学として取り組んでいくのか。それをキャンパス戦略に分かりやすく反映させるのである。

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教育改革を実現するキャンパス戦略の考え方

 2020年4月から大学は中期計画の策定が義務付けられた。中長期計画の中で、どのように教育・人材育成の理念、そしてその大学の個性をCMPに組み込んでいくか、ファシリティにも大学の戦略的発想が問われる時代がやってきている。

※リクルート進学センサス2019

リクルート進学総研所長・リクルート『カレッジマネジメント』編集長 小林 浩