カレッジマネジメント Vol.219 Nov.-Dec. 2019

進路の意思決定を科学する―高校生は何を見て、どう行動しているのか―

編集長・小林浩が語る 特集の見どころ

進路選択に使われ始めたアドミッション・ポリシー
個性や特色、メッセージは高校生に伝わっているか

 高校生は、一体どのように進路選択を行っているのだろうか。リクルート進学総研では、なかなか掴みづらい高校生の進路選択行動の実態を把握するために調査を実施し、「進学センサス」として発表している。今回は、3年ぶりに調査を実施、どのように進路選択行動に変化があったかを整理した。今回の主なポイントは3つに集約できる。

 まず、1つは進路選択行動の早期化である。今や進路選択の最大のポイントとなるようになったオープンキャンパス。高等教育機関への進学を希望する高校生の95%(ほぼ全員)が参加するようになっている。ここでは、高校生の言葉を借りると「雰囲気」を見に行くのである。この「雰囲気」を馬鹿にしてはいけない。高校生の言う「雰囲気」には様々なものが含まれる。キャンパスの雰囲気、教職員の雰囲気、授業体験、在校生の雰囲気、卒業生の雰囲気、クラブ・サークル活動等、2年間あるいは4年間過ごすキャンパスの活動全般について、全てを称して「雰囲気」と言っているのである。数年前は、オープンキャンパスは高校3年生の夏休みと相場が決まっていたのだが、今回の調査でははっきりと2年生がメインになっている。7割超が2年生で参加しているのだ。これには、高校の進路指導も影響している。受験に向かう前に生徒に高等教育機関を体感させて、進学へのモチベーションを高めるため、オープンキャンパスへの参加を夏休みの宿題としている高校が少なくない。その内容についても、以前は学校側が一方的に説明するものが主流だったが、現在では大学・専門学校と高校生との双方向コミュニケーションの場となっている。ある意味オープンキャンパスは、それほど意識が醸成されていない高校生に、大学等の魅力をどのように伝えていくか、その設計が鍵を握るようになっている。

 次に、アドミッション・ポリシーが、思いのほか高校現場で活用されているということだ。2017年に3つのポリシーの策定が義務化されたが、今回の調査では高校の進路指導で想定以上に活用されているという感触を得た。進路検討時に知りたかった情報としてアドミッション・ポリシーを挙げた高校生は14%に過ぎなかった。しかし、大学進学者の51%が個別大学のアドミッション・ポリシーを調べており、特にAO・推薦入試利用者では61%に上っている。別の調査で高校教員に進路指導でのアドミッション・ポリシー活用度を聞いたところ、57%が活用していることが分かった。つまり、高校生が最初からアドミッション・ポリシーを知っていたわけではなく、高校現場でアドミッション・ポリシーを調べるような進路指導が行われることで高校生もアドミッション・ポリシーに注目するようになるのである。そう考えると、各大学のアドミッション・ポリシーが、進学を考える高校生にとって分かりやすい表現となっているかどうか、大学に入る準備(カレッジ・レディネス)のための情報が示されているかどうか、もう一度読み返してみることが必要ではないだろうか。

 そして、3つ目は大学の特色や個性、教育内容は伝わっているかどうかという点である。大学・短大・専門学校に進学を決めた生徒に、それぞれの学校種に進学することのメリットを聞いている(P13図表7)。すると、「そこでしか学べない内容がある」という項目は、専門学校しか上位に挙がってこない。専門学校には偏差値が存在しない。そのため、学校の個性や特色、教育方法を熱心に伝えている。一方、大学はこれまで偏差値という絶対的な軸があったため、大学の特色や個性、教育内容について、あまり熱心に伝えてこなかったのではないだろうか。全入時代を迎え、選ばれる大学になるために、各大学の個性や特色をどのように伝えていくか、これが最も重要な課題である。

 

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リクルート進学総研所長・リクルート『カレッジマネジメント』編集長 小林 浩