カレッジマネジメント Vol.224 Sep.-Oct. 2020
進学ブランド力調査2020
編集長・小林浩が語る 特集の見どころ
定員厳格化、入試改革、そしてコロナ禍
受験生の「不安」を解消するコミュニケーション戦略を
今回の進学ブラント力調査は、例年とは大きく異なる環境下でスタートした。調査期間は、まさに新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、緊急事態宣言まっただなかの4月。全国の小中高校では、3月2日から休校が続いている状況であった。
昨年の状況を振り返ると、2016年から続く大規模大学の定員厳格化により、高校生の進路選択に「安全志向」が現れる結果となっていた。定員厳格化により私立大学の難化が進んだことで、入試難易度で2段階程度落として受験するような傾向も見られ、高校生の言葉を借りると、まさに“偏差値が信用できない”状況であった。
今年の高校3年生が対象となる2021年度入試は、『入試改革元年』となる。大学入学共通テストが導入されるとともに、各大学の個別選抜も、各大学のアドミッション・ポリシーに基づき学力の3要素を重視したものに変わっていく。昨年末には大学入学共通テストにおける英語4技能や記述式の導入が見送られ、高校現場には大きな衝撃が走った。初めての大学入学共通テストは、出題傾向が読めず、対策がとりづらい状況となるなかで、さらに3月以降追い打ちをかけるように、新型コロナウイルス感染拡大の影響から、生徒は学校に通学さえできないという状況になったのである。
今回の調査結果を見ると、そうした影響を如実に受けていることが分かる。調査結果から見えた大きな傾向は以下の2点である。
<進学ブランド力調査2020の結果から見えた傾向>- 大学入試改革、特に新たに導入される大学入学共通テストへの不安等もあり、東名阪ともに国公立よりも私立志向が高まっている。
- 2016年からの定員厳格化の影響を受けての「安全志向」に加え、入試改革への不安から志願度ランキング全体において「超安全志向」が反映される結果となっている。
今後、さらに新型コロナウイルス感染拡大の影響から生じる5つの不安により影響が出ると想定している。
- 学力不安
2カ月以上の休校での学力低下、模試中止等で学力把握ができない - 新型コロナウイルス長期化への不安
大学入学共通テストや一般選抜実施への不安から、年内入試である総合型選抜、学校推薦型選抜へのシフトが進む可能性 - 各種大会・資格試験の中止、規模縮小への不安
学校推薦型選抜、総合型選抜への出願資格、調査書等に影響。文科省は受験生に不利にならないよう大学に十分な配慮を要請 - 家計の状況変化への不安
雇用状況の悪化による家計の急変等が進学先選びに影響を与え、地元志向が高まる可能性 - 志望分野への不安
デジタル化の進展により、情報系は文系・理系を含め増加傾向に拍車。今後、観光、国際、留学系への影響が懸念される。
今回の調査から見えてきたものは、私立大学の定員厳格化、大学入試改革、新型コロナウイルス感染拡大という3つの大きな状況の変化によって、今年の受験生が「とにかく不安」であるということである。一度収まったかに見えた、新型コロナウイルスへの感染は、夏になっても収まらず、高校現場での不安は高まるばかりである。受験生から寄せられたコメントを見ていると、「不安」から「怒り」、そして一部で「あきらめ」といった内容に変わってきており、Twitter上では一時期【#高3生の悲痛】がバズるといった状態であった。
そうした受験生(保護者、高校教員)の不安を解消するために、いかに丁寧なコミュニケーション戦略を構築できるかが、例年にも増して大きな課題となる。全体としての発信者目線ではなく、受験生目線でのコミュニケーション、“私が“この大学に進学してどうなれるのか、入学するための準備はどうすればよいのか、受験方法はどうなるのか、そうした受験生個人レベルでの「双方向コミュニケーション」を意識する必要があるだろう。
私は個人的に大学のブランド構築には、10年程度かかると考えている。コロナ禍は、これからの高校生・保護者・高校教員とのコミュニケーションのあり方を、根本的に変えてしまうことになるだろう。単に今年の募集戦略にとどまることなく、将来に向けたコミュニケーション戦略の再考が求められる。
リクルート進学総研所長・リクルート『カレッジマネジメント』編集長 小林 浩
<特集>進学ブランド力調査2020
調査報告
第1章 全体報告
第2章 高校生はどのような“軸”で大学を見ているのか
──イメージ項目から大学ポジショニングを分析する