カレッジマネジメント Vol.227 Mar.-Apr. 2021
ニューノーマルの学生支援
編集長・小林浩が語る 特集の見どころ
学生を「孤立させない」ハイブリッド型のコミュニティー創りを
ちょうど1年前、2020年2月28日に、文部科学省から全国全ての小・中・高等学校への休業要請が発出された。学校現場では大混乱が生じ、高校生の進路選択にも大きな影響を与えたことは、小誌225号の特集としてお伝えした。大学では、まず4月以降 “学びを止めない”ための授業のあり方が検討された。続いて、学生が自宅でオンライン授業を受けるための機器購入支援、そして困窮学生としての退学者を出さないための経済的支援が次々に打ち出された。
1回目の緊急事態宣言解除後は、オンラインとリアルの授業を混合したハイブリッド型教育の導入、オンライン留学や他大学との連携授業等の様々な工夫を凝らしてきた。様々な調査を見てもオンライン教育における学生の満足度は必ずしも低くなく、リアルの授業を上回る大学も出てきている。こうした大学関係者一体となった取り組みによって、“学びを止めない”ための授業のあり方は、この1年で大きく進化しているといえる。
一方で、キャンパスライフがなくなり、期待していた大学生活とのギャップに悩む学生の精神的な状態や支援については、大学のHP等からはあまり見えてこない。そうした疑問から、今回の特集を企画した。コロナ禍は、知識の修得だけでない、人間形成の場としての大学教育の価値をどう考えるのかという課題を浮き彫りにしたように思う。
特集のなかで、多くの寄稿や大学取材を通じて指摘されている課題は、キャンパスライフの喪失による「学生の孤立化」をどう防ぐかである。キャンパスライフのなかでこれまで自然にできていた、つながり・関わりが希薄になってしまっている。クラス、サークルの同級生という「横のつながり」、先輩との「縦のつながり」、そして友人の友人、職員、地域・産学連携といった「斜めのつながり」、こうした“3つのつながり”が失われたことである。こうしたつながりには、授業だけでは得られない、気づきや将来につながる人間関係の構築が期待できる。
そのためには、学生をいかにコミュニティーに所属させ、居場所を作っていくかにかかっているように思われる。多様な価値観や人間性を醸成していくためには、できれば、一つではなく、複数のコミュニティーに所属することが望ましいのではないか。平たい言葉でいえば、孤立させないために、大学が「寄ってたかって」つながりの場を強制的にでも作っていく必要があるように思われる。「安全対策」に加えて、学生の不安解消のための「安心対策」にどう取り組んでいくかである。
大学は知識修得の場であると同時に、10代終わりから20代初めといった人生の多感な時期に、社会に出るための様々な経験、人間形成をする場である。学生一人ひとりの成長機会が失われないようにする工夫が求められる。コロナ禍は、直近での収束の見通しが立っておらず、2021年度入学生も、恐らく限定的なキャンパスライフを送ることになるだろう。だからこそ、学生を孤立させないためのコミュニティー創りやつながる機会を、リアルだけでなく、ハイブリッド型、あるいはオンライン上でどう作っていくかが重要になる。言い換えれば、ニューノーマルにおける新たな大学ごとの学生支援のあり方は、単に面倒見がよい大学というだけではない、新たな大学の個性になっていくのではないか。
リクルート進学総研所長・リクルート『カレッジマネジメント』編集長 小林 浩
<特集>ニューノーマルの学生支援
寄稿
学生の学びと成長を止めないニューノーマル時代の学生支援
山田剛史 関西大学教育推進部 教授
寄稿
コロナ禍が学生の心理面に与える影響
高石恭子 甲南大学 教授・日本学生相談学会 理事長
REPORT
学生の学びと活動を止めない大学の取り組み
CASE 1 金沢工業大学
CASE 2 京都橘大学
学生の相互扶助という伝統のもと結実したオンラインでの学生支援
寄稿【大学の支援状況調査】
コロナ禍における学生支援・大学教育の取り組みと示唆
大学としての継続的・組織的な対応が課題
白川優治 千葉大学大学院 国際学術研究院 准教授
寄稿【学生の実態状況調査】
コロナ禍における学生の不安と支援のあり方
安全対策以上に求められる安心対策
濱名篤 濱名山手学院 理事長・学院長 関西国際大学 学長