カレッジマネジメント Vol.228 May-Jun. 2021

地方大学の新たな選択肢

編集長・小林浩が語る 特集の見どころ

総花主義・平均主義・自前主義からの脱却
個性=VALUEを明確にして、選ばれる大学創りを

 2020年12月に内閣官房は「地方創生に資する魅力ある地方大学の実現に向けた検討会議取りまとめ」を発表した。そこには、「地方大学が大学の存続にも関わり得るような重大な局面を迎えつつあるとの強い危機感」が示されている。背景には、人口減少、地域間格差の拡大、グローバル化・デジタル化による競争環境の変化がある。

 2018年に取りまとめられた中央教育審議会答申「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」では、2040 年の18 歳人口を88 万人と予測しているが、2019年の出生数は86.5万人となり、2020年には85万人を下回るのではという予測が報告されており、大学経営にとってより厳しい現実が待ち構えている。そこで今回の特集では、「地方大学の新たな選択肢」と題して、様々な観点から地方大学のあり方についての検討を行った。

 これまで、大学生の都市一極集中の解消に向け、2016年には定員管理の厳格化が政策として実施されたが、この効果についての検証を、日本私立学校振興・共済事業団にお願いした。その結果、定員厳格化前の2015年と2020 年の定員充足率をみると、地方・小規模大学の定員充足率が高まっていることが明らかになった。しかし、これは政策的なバックアップあってのことであり、今後はさらなる人口減少が進むなかで、各大学の経営努力によって、差が出てくることが予想される。

 また、「地⽅創⽣に資する地⽅⼤ 学の実現に向けた検討会議」で座長を務めた坂根正弘氏(コマツ顧問)にその意図と方向性について伺った。内閣官房の取りまとめでは、「大学の存続は地域全体の課題」であり、「地⽅創⽣に資する地⽅⼤ 学のモデルをスピード感を持って創出」し、「他の地⽅⼤ 学に波及」させていくことを狙いとして、そのトリガーとして極めて限定的に、特例的にではあるが、地方創生に資するものであれば、審査のうえ、地方国立大学の一時的な定員増を認め、大学改革を促すことを提言している。コマツで改革を成し遂げた坂根氏は、日本企業の地盤沈下の要因を“総花主義”“平均主義”“自前主義”と指摘したうえで、これは大学にも当てはまり、今が「地方大学が元気を取り戻す最後のチャンスかもしれない」と指摘している。

 さらに、三菱総研の寄稿では、コロナ禍においてデジタル化が推進され、地方の中核都市への人口流入が見込まれていることから、社会人市場開拓を通じての新産業創出が提言されている。

 私自身も、「地⽅創⽣に資する地⽅⼤ 学の実現に向けた検討会議」の第2回で『選ばれる大学』というテーマで意見表明をさせて頂いた。最終的に、個々の大学が個性=VALUEを明確にし、地域に必要な機関として選ばれる大学になることが最も重要である。そのためには、大きく2つの方向性があると考えている。1つは地域のニーズに応え地域人材を育成する大学、もう1つは尖った個性を価値として全国あるいは世界から学生を集める大学である。そのためには、坂根氏が指摘する“総花主義”“平均主義”“自前主義”からの脱却は大きなテーマであり、大学が真剣に向かい合わなければならない課題である。

 地方大学の課題は、大学だけが抱える課題ではない。産業構造が大きく変化するなかで、人生100年時代を迎え、デジタル化も加速している。海外では、ITの地域に生まれ変わったシリコンバレーや、鉄鋼の町から医療の町に生まれ変わったピッツバーグ等、新たな産業構造の変化に対応した地域づくりの事例もある。その地域の職業やQOLを含めた魅力づくりに向けて、産・官・学・金が協力して進めることが肝要である。

リクルート進学総研所長・リクルート『カレッジマネジメント』編集長 小林 浩

<特集>地方大学の新たな選択肢
(1)Interview 地方大学の進化のための新たな視点
インタビュー

将来を見据えた「選択と集中」体力があるうちに大きな改革を
坂根正弘 内閣官房まち・ひと・しごと創生会議構成員 コマツ(株式会社小松製作所)顧問

(2)地方大学 2021年の現在地を確認する
寄稿

データからみる地方私立大学の入学定員充足状況──定員管理の厳格化は地方大学にどう影響を及ぼしたのか
新倉健二 髙橋一男 日本私立学校振興・共済事業団 私学経営情報センター

寄稿

地方の未来の姿と、大学が果たす役割
高谷 徹 山野 宏太郎 森 卓也 株式会社三菱総合研究所

寄稿

地方創生に資する魅力ある地方大学の実現に向けて
行松泰弘 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 次長

 (3)地方大学の選択肢
CASE 1 宮崎国際大学

グローバル人材育成のための教育手法の類型化と学修成果の可視化に取り組み、教育の質を高める

CASE 2 長岡大学

価値創出のドメインを選び教育・研究・社会貢献の3軸から地域課題を解決する

CASE 3 朝日大学

資格と企業連携で文系学部の学修成果を可視化。地域特性・ニーズに合わせた人材育成

(4)競争から協働・共創へ
寄稿

「地域連携プラットフォーム」の構築と活用──より良い活用に向けたガイドラインの解説
奥井雅博 文部科学省高等教育局高等教育企画課 課長補佐

事例

長崎県
地域の現状を冷静に捉え、地域の将来に主体的に向き合う

事例

ふじのくに地域・大学コンソーシアム
大学と地域との連携強化の取り組み ──ふじのくに地域・大学コンソーシアムの狙いと成果
森川正浩 公益社団法人ふじのくに地域・大学コンソーシアム 事務局次長

(5)公立大学の今後
寄稿

地域と共に考える地方大学の未来 平成期に急増した公立大学の設置政策が示すもの
中田 晃 一般社団法人公立大学協会 常務理事・事務局長