グローバル人材育成のための教育手法の類型化と学修成果の可視化に取り組み、教育の質を高める/宮崎国際大学

宮崎国際大学キャンパス



 宮崎国際大学は国際教養学部比較文化学科と教育学部児童教育学科の2学部2学科を有する大学である。1994年の設立当初から、国際社会に貢献する人材の育成を目指し、リベラル・アーツに基盤を置き、アクティブ・ラーニングを通してクリティカル・シンキングの力や英語スキルを養う教育に取り組んできた。ローカルで活躍する人材育成を掲げる地方大学が少なくないなか、なぜグローバルへと視野を広げたのか、また、今後目指していく方向性について、山下恵子理事長に伺った。

山下恵子理事長

アクティブ・ラーニングによりクリティカル・シンキングの力をつける

 宮崎国際大学が設立時より掲げていたのは、日本語と英語のコミュニケーション能力と豊かな教養を備え、グローバル社会で貢献できるリーダーの育成。国際教養学部においては、日本語教育とキャリア教育を除く全ての授業を英語で行う(全授業の88%)、2年次後期の海外留学を必修とする、全ての授業をアクティブ・ラーニング形態で実施する、クリティカル・シンキングに基づく学修が行える科目を設置する等の取り組みを設立当初から行っている。さらに、国際教養学部の外国人教員比率は82%で、外国人教員1人当たりの学生数は20.4人と、「学内は日本という雰囲気がしない」(山下理事長)環境で学生達は学んでいる。その結果、TOEIC®Testのスコアは、入学時の平均334点から4年次には平均661点に伸びる等、大きな成果を挙げている。

 これらの特長の背景には、「地方だからといった考えからではなく、創設者の『この宮崎の地から世界へ発信したい』という願いがある」と山下理事長は話す。さらに、クリティカル・シンキングの力をつけることを重視したのは、「多様な角度から課題を見つめていく思考法で、正解のない課題が多数ある国際社会で活躍する人材に必要な力だから」とのことだ。「クリティカル・シンキングの力はアクティブ・ラーニングという手法によって効果的に高められることから、アクティブ・ラーニングによって、英語“で”思考し、物事を多面的に見て考える人を育てることを目指し たのです」と山下理事長。14年に設置された教育学部においても同様で、全ての授業形態をアクティブ・ラーニングとし、クリティカル・シンキングも取り入れながら、小学校教諭、幼稚園教諭、保育士養成に取り組んでいる。

アクティブ・ラーニングの類型化と学修成果の測定方法の開発に挑戦

 そして、この教育手法を加速させたのが、「大学教育再生加速プログラム(以下AP)」への挑戦だった。テーマI 「アクティブ・ラーニング」とテーマⅡ「学修成果の可視化」の「複合型」カテゴリーにおいて採択を受け、14年から19年にかけて、クリティカル・シンキングと英語スキル向上の可視化を行い、これらの修得を最大化させるアクティブ・ラーニング手法の開発と実践、および体系化に取り組んだ。複合型に応募した背景として、山下理事長は「創設以来続けてきたアクティブ・ラーニングが学修成果への効果があるのか、その有無を測定し、明確化することに挑戦したかった」と話す。

 6年間の取り組みの結果、これまで手掛けてきたアクティブ・ラーニングの類型化や、クリティカル・シンキングを測定する独自ツール(テスト)の開発等に成功。最終年度の2019年度に卒業した学生には、学修成果の証として、e-ポートフォリオをデータ化した学修成果の一覧「ディプロマサプリメント」を成績一覧とともに渡すに至った。さらに、学生の学修においても、TOEIC®Testのスコアやクリティカル・シンキングテストのスコアが向上。「全授業をアクティブ・ラーニングで実施することの成果が明確になった」と山下理事長は振り返る。

 「思考力を高める場合、プレゼンテーション能力を高める場合等、目的に応じたアクティブ・ラーニングの手法を類型化し、学内で共有できたことが最大の成果です。また、学修成果の可視化方法を検討する過程で、測定ツールは様々に用意できるし、アセスメントポリシーに基づいて多面的に評価していくことが大事だと気づけたのも収穫でした」。

 また、コロナ禍でのオンライン授業への迅速な切り替えという副次的な効果も生み出した。「対面授業中止の決定から2週間で、オンライン授業、しかも、アクティブ・ラーニングによる双方向授業に切り替えられました。これは、APの取り組みのなかで必要な機器を揃えられていたこと、また、アクティブ・ラーニングの手法を全教員が既に実践できるようになっていたからこそです」と山下理事長。APは終了したが、今後も可視化の質やツールの検証を続けていくという。


図1 国際教養学部 TOEIC®スコア伸び率、図2 国際教養学部卒業生満足度調査における
「本学で身についたと感じるもの」


実践する教育と時代のニーズがマッチした

 これらの取り組みを経て、長年苦労してきた定員充足という課題も改善。ここ数年、毎年、過去最多の受験者数を記録している。「教員間では、『やっと時代が追いついてきたね』という話がよく挙がっている」と山下理事長は話す。

 「設立当初は『英語でリベラル・アーツ』という考え方が先進的過ぎて地域での理解が進まず、定員を充足できない時期が長く続きました。それが今、文部科学省がクリティカル・シンキングの重要性を謳い、アクティブ・ラーニングを推奨するようになったこともあり、県内の高校の先生方が注目してくださり、本学が高校生向けに行っている1日体験入学「ENGLISH DAY」や、高校への出前授業等への申し込みが大幅に増えています。その機会が高校生の認知のきっかけになり、受験生増につながっています」。

 今後はさらに、地域との連携を深めながら教育の質を高めていくという。これからの地方大学のあり方として、「個々の大学の特長や良さ、できることをより尖らせることが重要ではないか」と山下理事長は話す。

 「本学では、グローバル教育と教員養成をより良くすることを追究していくことが、私たちに課せられた課題だと認識しています。そのためには、教職員が『目の前の学生が育つ教育とは何か?』ということを検証し続けることが重要。教職員が学び合える集団となること、さらには、地域の様々な企業や人と連携交流しながら学生の学びを深め、地域と一体となって育てていくことを目指していきたいと思います」。

 今後、宮崎国際大学からどのような人材がグローバル社会に輩出されるか楽しみだ。


(文/浅田夕香)


【印刷用記事】
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