【寄稿】第4期認証評価の方針と特質/公益財団法人 大学基準協会 常務理事 事務局長 工藤 潤


公益財団法人 大学基準協会 常務理事 事務局長 工藤 潤


はじめに

 2004年から開始された機関別認証評価は、2025年度から第4期目を迎える。大学基準協会(以下、本協会という。)は、次期認証評価の方針として以下の6点を掲げ、評価基準、評価方法等の見直しを行った。

  • 学習成果を基軸に据えた内部質保証の重視とその実質性を問う評価
  • 大学の取り組みの有効性・達成度を重視する評価
  • オンライン教育の動向を踏まえた評価
  • 学生の意見を取り入れた評価
  • 特色ある取り組みの評価
  • 効果的・効率的な評価の実施
以下、各方針について解説したい。

1. 学習成果を基軸に据えた内部質保証の重視とその実質性を問う評価

 近年、急激な少子化が進行する一方、大学進学率が一定水準で推移する中で、大学に入学してくる学生の多様化が一層進展している。入学者選抜という「入口管理」での学生の質の確保は困難な状況にあり、人材育成教育を一層充実させ「出口管理」によってそのことを担保していくことが必要とされている。また、国の高等教育政策は、「学修者本位の教育」の実現が指向されており、学生の学習成果の達成に結びつく大学教育を実施するために、大学は自主、自律を基盤とした内部質保証体制の確立とそのシステムの機能的有効性を向上させていくことも不可欠となっている。

 こうした背景を踏まえ、本協会は、次期認証評価においても内部質保証を評価の要とし、「学習成果を基軸に据えた内部質保証の重視とその実質性を問う評価」を目指すこととなった。本協会は、内部質保証の実質化を、「学生に身につけさせる能力等の明確化、それに基づく教育課程等の整備・実施、達成度の把握、そして教育システムの検証と改善・向上という一連の流れが適切に実現できている」ことと捉えており、こうした「一連の流れ」を、評価を通じて促進させていくことが、次期の目指すところである。従って、大学は「基準4 教育・学習」の内容を十分意識して内部質保証を展開させていくことが必要である。

 また、「基準4 教育・学習」では、教育システムの側面だけでなく、新たに学生の学習にも焦点を当てているのも次期の特徴である。例えば、「評価の視点」において、「授業の履修に関する指導、学習の進捗等の状況や学生の学習の理解度・達成度の確認、授業外学習に資するフィードバック等などの措置」等を付け加えた。


図表 学習成果を基軸に据えた内部質保証の重視とその実質性を問う評価

2. 大学の取組の有効性・達成度を重視する評価

 これまでの評価では、大学の種々の取り組みに関する設定状況(インプット)、実施状況(プロセス)の評価に力点が置かれていたが、次期では、各取り組みの成果や有効性(アウトプット、アウトカム)にも焦点を当てた評価を実施する。その評価にあたっては、大学の目的や方針に照らした評価が基本となるが、例えば、「基準6 教員・教員組織」における「評価の視点」では、「教員の教育能力の向上、教育課程や授業方法の開発及び改善につなげる組織的な取り組みを行い、成果を得ているか。」「教員の研究活動や社会貢献等の諸活動の活性化や資質向上を図るために、組織的な取り組みを行い、成果を得ているか。」などを設定し、FDの効果を問う評価を取り入れた。

3. オンライン教育の動向を踏まえた評価

 コロナ禍の中、オンライン教育が格段と進んだが、ポストコロナ時代においても、オンライン教育は展開されていくことを視野に入れて、「基準4 教育・学習」「基準7 学生支援」において、新たな「評価の視点」を盛り込んだ。例えば、「基準4 教育・学習」における「評価の視点」では、「ICTを利用した遠隔授業を提供する場合、自らの方針に沿って、適した授業科目に用いられているか。また、効果的な授業となるような工夫を講じ、期待された効果が得られているか」等を設定した。

4. 学生の意見を取り入れた評価

 現在の認証評価における学生意見の聴取は、実地調査時の学生インタビューだけである。次期の評価では、認証評価をより開かれたものとし、大学教育と学習環境を学生の視点から把握することを通じて、大学の現状をより深く理解することを目的に、学部1年次生を除く学部生・大学院生を対象としたアンケート調査を実施することとしている。アンケートは、5月初旬に大学に依頼し、5月下旬に学生から回答を得ることを予定している。なお、学生からの意見は、評価の直接的根拠資料にするものではなく、あくまでも大学の状況を理解し、確認事項の抽出、整理の活用にとどめるものとする。

5. 特色ある取組の評価

 大学の評価の最大の目的は、質の保証と質向上である。すなわち、単に、期待される教育水準や質を満たしていることを保証するだけでなく、大学の個性・特長が伸長され、多様な発展を遂げることができるよう、評価を通じて大学をエンカレッジしていくことも、評価の重要な役割と考えている。

 次期においては、これまでの「長所」に加えて、「特に優れた取り組み」を新たな提言に加える予定である。「特に優れた取り組み」については、「長所のうち、一定の成果があり、かつ、先駆性や独創性、独自性が見られる、または他大学の参考になり得る要素が見られるもの」と定義して、こうした取り組みを発掘していく。また、「特に優れた取り組み」を大学間で共有していくことが「質の向上」において極めて重要であり、今後は、共有のための具体的方策の検討を進めていきたい。

6. 効果的・効率的な評価の実施

 評価における負担軽減は、日本だけでなく海外でも度々指摘されている。評価水準を維持したまま、大学側及び評価者側の負担をいかに軽減させていくか、極めて重要な課題である。次期は、評価における重複などを可能な限り減らすことにしており、例えば、評価項目は、全体として47項目から34項目に縮減させた。

 また、中教審大学分科会質保証システム部会の「審議まとめ」(2022年3月)で提言された、内部質保証の体制・取り組みが特に優れていると認定された大学に対する弾力的措置について、本協会はその実施を決定した。紙幅の関係から、弾力的措置の具体的内容は割愛するが、一定の要件を満たしている大学に対して、評価項目ごとの自己点検・評価を求めることはせず、中期計画、方針、目標との関連で種々の取り組みの有効性の点検・評価を基準単位で求めていくこととしている。

おわりに

 本協会の次期認証評価では、「1.学習成果を基軸に据えた内部質保証の重視とその実質性を問う評価」が基本かつ重要な方針となる。大学は、主体的に内部質保証を展開して、教育の充実と学生の学びと成長を図ることができるか。本協会は、認証評価を通じてこれらを後押ししていきたいと考えている。




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