【寄稿】第4期の大学評価に向けて大学は何をすべきか/千葉大学 名誉教授 前田早苗


千葉大学 名誉教授 前田早苗


認証評価の20年を振り返る

 認証評価が開始されてからはや20年。認証評価は7年以内ごとに受審しなければならないので、既に3回の認証評価を経験している大学も相当数に上る。

 その認証評価の評価方法がどのように変化してきたのかを最初に確認しておこう。

 第1期(2004~2010年)は、何かを重点的に評価するというより、認証評価機関は大学設置基準の順守状況を中心に、比較的網羅的な評価を行っていた。既に独自に大学評価を実施していた大学基準協会の評価を受けた大学以外の大学にとっては、外部評価を受けるための自己点検評価報告書をまとめるだけでも大変な作業だっただろう。

 第2期(2011~2017年)になると、教育の質への関心が高くなったことを背景に、シラバスの全科目についての記載確認、厳格な成績評価、単位の実質化等、設置基準への適合性の評価がより詳細かつ厳格に行われた。大学院についても、学位論文審査基準の明示、研究指導計画に基づく研究指導、学位論文作成指導等が新たに評価の対象となった。

 第3期(2018~2024年)には、評価の方向性が大きく変わった。認証評価機関の活動を規定する「細目省令」(学校教育法第百十条第二項に規定する基準を適用するに際して必要な細目を定める省令)に「内部質保証」が加わり、認証評価機関は「内部質保証」を重点的に評価することとされたからだ。第2期で厳格化された法令順守事項等はデータとして提出を求めるものの、評価の中心は大学の内部質保証体制の確立とその機能の有効性の確認へと移行した。さらに、内部質保証の中心は教育の質保証であり、学位授与方針、教育課程の編成実施方針、学生の受け入れ方針を設定し、その方針に従って学修成果が得られていることが教育の質の証左であるという、一見すると分かりやすく論理的な質保証の筋道が出来上がった形だ。

 このように認証評価は、設置基準のチェックの厳格化から、大学による自律的な内部質保証の取り組みの評価重視へと変化していった。

第3期の評価結果から見えてきたこと

 大学は内部質保証重視の評価にどう対応できているのだろうか。認証評価機関が内部質保証を評価する際に評価基準に示した共通する基本的な要素は、①内部質保証についての方針が明文化・規定化され、②その方針に基づく内部質保証体制が確立され、③その体制が有効に機能していることである。この要素について、具体的に評価結果を公表している認証評価機関の評価結果から確認してみよう。

 表1は、大学基準協会と日本高等教育評価機構の2023年度の4年制大学の評価結果から内部質保証について指摘のあった大学の数を表にしたものである。現在、4年制大学の認証評価機関は5機関ある。先述の認証評価機関以外の大学改革支援学位授与機構及び大学・短期大学基準協会は、2023年度の受審大学が少数であったため、また、大学教育質保証センターは評価基準の構成が他の認証評価機関とは異なり、①~③の要素が明示されていないため、作表しなかった。


表1 2023年度認証評価受審大学における内部質保証の評価結果

 表1によれば、大学基準協会の受審大学は、日本高等教育評価機構に比して、①内部質保証の方針や規程について、②内部質保証の体制の確立について、いずれも指摘数が多い。これに対して、③内部質保証の機能性については、日本高等教育評価機構の方が圧倒的に指摘数が多くなっている。その要因の一つが、大学基準協会の場合は、①と②が万全でなければ当然③もできていないと考えているため、改めて③の指摘をしていないからである。一方、日本高等教育評価機構は、大学設置基準等の法令要件を満たしていない事項(例えば定員管理)については、該当する基準(例えば学生受け入れ)で指摘したうえで、内部質保証が不十分であるとして、重ねて指摘しているからである。ただし、肝心の③内部質保証が機能しているとされた大学は両機関ともそれほど多いとはいえない。①②に問題がなくても③で「機能している」と明言はされない状況だ。とりわけ、長所として評価された大学は両機関ともごくわずかである。大学の評価例を掲載したのが表2である。


表2 2023 年度認証評価受審大学で内部質保証が機能していると評価された例

 次に、かなり詳細な評価結果を公表している大学基準協会の評価結果から見える課題をあげてみよう。

 質保証が機能しているとする評価が少ないのは、まだ①と②をやっと整備したところで③について評価するまでに至っていないというケースが多く見られた。また、内部質保証のための体制を確立したものの、既存の会議体と重複した構成の内部質保証の会議体がいくつも設置され、実際には、既存の会議体が機能していて内部質保証の会議体が形だけになってしまっている場合も少なくない。それではやっと作り上げた内部質保証システムが形骸化してしまう。

 自己点検チェックシート等、内部質保証のプロセスで何らかのシートを用いる大学も多い。それなりに成果が出ている大学ももちろんあるだろう。しかし、各学部・学科、研究科等の組織ごとの膨大なシートをどのような組織が分析し、いかに改善に結び付けているのか、さらにシートを作成した部署にとってどのように有意義なのかまで見通せている大学は多いとはいえない。認証評価で「評価疲れ」があるといわれてきたが、ここでも「内部質保証疲れ」が起こっているようにも思える。

 それでは大学は第4期に向けてどのような準備をするべきだろうか。

第4期の認証評価に向けて

 2022年10月に、基幹教員制度の導入や単位の計算方法の柔軟化等、学修者本位の大学教育の実現に向けて、大学設置基準の大幅な改正が行われた。一方、細目省令には、新たに「継続的な研究成果の創出のための環境整備」とともに「学修成果の適切な把握及び評価」を認証評価の基準に入れることが規定された(2024年3月)。認証評価では、内部質保証に加え、学修成果を評価することが明文で規定されたことになる。

 大学の自由度が増える方向での改正に即して、認証評価では学習成果が出ているのか、それは内部質保証体制によって裏付けられているのかが求められることになった。これは、外部からの強制ではなく、大学が構築した体制や取り組みが有効であることについての大学自身の説明責任がより大きくなることを意味している。

 では大学はどのように対応していけばよいのだろうか。内部質保証の「全学的な新体制」や学修成果把握のための「全学一斉」の取り組み等は、外向きには説明しやすい。しかし、現場の教職員の声がどれだけ反映されているのだろうか。まず、第3期の認証評価で半ば強制的に求められた内部質保証の体制に関し、そこに費やされた労力と有効性について今一度振り返ることが必要であろう。

 第4期に新しく評価項目に加えられた学修成果の把握・評価については、授業科目ごとのルーブリックや各種アンケート、大学が明示した身につけるべき資質・能力と実際の成績の関連づけなど、これまでも様々な試みがなされてきた。しかし、これらの取り組みが実施のみに終わってその有効性について確認にまで至っていないことも多い。学位授与方針を軸とした成績評価のグラフ化に終始したり、回収率が高いとは言えない学生アンケートに頼るだけではなく、学生の意見を直接取り入れる仕組みを作ることも極めて有効と考える。コロナ禍を経て、授業内容・方法、成績のあり方について見つめなおしている学生も少なくないからだ。

 そうした個々の努力が、大学が掲げる理念・目的や教育方針の実現に向けて着実に歩みを進めることにつながっているのか確認し、まずは学内に説明できることが肝要だ。

 最後に、今次の大学設置基準改正に合わせて制定された教育課程等に係る特例制度について触れておこう。大学等による先導的・先進的な取り組みの促進を目的として新設された制度であり、それ自体は推奨されるべきものであろう。ここで注目したいのが、申請する前提として、内部質保証の体制が十分機能していることを求めている点である。

 特例制度の運用にあたり、内部質保証体制が機能しているという判断を、誰がどのように行うのかについては、公表資料からは明らかではない。その判断基準がいつ明らかにされるのかを注視するとともに、それが明らかになった時点で、形式的な対応が大学の間に流布しないことを祈るばかりである。

 なお、中央教育審議会大学分科会質保証システム部会による審議まとめ「新たな時代を見据えた質保証システムの改善・充実について」(2022 年3月)では、認証評価機関の多様性への配慮という記述がある。内部質保証が日本の大学の質の根幹をなすのであれば、認証評価機関には、最低限の評価の質を揃える努力を望みたいし、認証評価受審大学からの申請に対して評価を行うだけでなく、内部質保証やその重要な要素となる学修成果の把握・評価について、日本の高等教育機関全体の質保証という観点から、各認証評価機関を通じて一定の見解の統一をしてほしい。シンポジウムを開催するだけでなく、また、型にはまった指導をするのではなく、大学が自ら考え、選択できるような多様な資料を積極的に提示する等、大学への支援活動をぜひ期待したい。




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