資格と企業連携で文系学部の学修成果を可視化。地域特性・ニーズに合わせた人材育成/朝日大学

宮崎国際大学キャンパス



 2019年の学校基本調査(文部科学省)を基にした地元残留率※が21.5%と、18歳人口の県外流出が顕著な岐阜県。そのなかで、法学部、経営学部、保健医療学部、歯学部の4学部5学科を持つ朝日大学は、全学部・学科で募集定員を充足している。1999年ごろから定員割れが続いていた法学部と経営学部をいかにして立て直したのか、また、今後、地方私立大学としてどのような価値創出を目指していくのか、大友 克之学長に伺った。

地元企業と連携し、授業の質向上就職力向上に取り組む

大友学長

 「地方私立大学が抱えている課題は、『ブランド力』『就職力』『経営基盤』の3つ。これらをどう成長のエンジンに変えていくかが、学長に就任した2008年以来苦労してきた点です」と大友学長は話す。なかでも最も力を入れてきたのが、就職力の向上、即ち「いかにしてより良い就職を提供していくか」だったという。

 「岐阜県は商業教育が盛んな土地柄。商業高校を筆頭に実業高校が生徒に様々な実践力をつけ、地元企業に就職させています。そのなかで、いかにして県民の皆さまに大学に進学する意義を理解していただくか。その方法の1つとして、学生の個性や力量と、企業が必要とする人材のニーズを見極め、大学が適切に介入してマッチングを行うことで学生の就職率を徹底的に上げていこうと決めました」。

 国家試験受験資格取得のためのカリキュラムが厳格に決められている保健医療学部、歯学部と異なり、法学部や経営学部は、学修成果が見えづらい。それは、学生と企業とのマッチングを進めていくうえでも障壁になる。そこでまず取り組んだのが、地元企業との連携だった。大垣共立銀行、十六銀行、西濃運輸、濃飛倉庫運輸等と連携協定を結び、寄付講座の提供やインターンシップ受け入れ等の協力を得た。

 「企業との連携において、学生が学びを深めていくには企業から寄付講座を出して頂くのが一番です。学生はより実務に近い学びを深められますし、企業も、受講した学生が、将来、自社やグループ企業、あるいは、取引先企業、メインバンク等に就職してくれることが期待できる。例えば、濃飛倉庫運輸さんには通関士資格取得のための全15回の講座を提供頂いていますが、学生が寄付講座を通じて通関士資格を取得し、濃飛倉庫運輸さんに就職するというのが理想型と考えました」。

 年1回、企業のトップと大学の執行部とで連携協議会を開き、講座内容の検証や今後の人材育成の方向性等に関する議論、受講生の就職先の確認等を行い、「昨年より今年、今年より来年、と講座の質を上げていった」という。「企業は大学とwin-winの関係を築けているかどうかを中長期的な目線でシビアに見ていますから、我々もできる限りの数字を提供しながら、学生の4年間の学びの質をいかに上げていくかに力を入れてきました」と大友学長は話す。

公認会計士と地方公務員試験対策を強化

 加えて、経営学部においては、2012年より、正規のカリキュラムの外に体育会系部活動の形で「会計研究部」を設け、無料の公認会計士養成講座を開設。毎週金・土曜日に中央大学経理研究所で指導実績のある会計士を招聘し、受講者には、机が1人1台備わり、現役公認会計士が常駐している「部室」を提供し、学内で自学自習ができる環境を整えた。結果、講座開設から9年で47名が公認会計士試験に合格。2021年は現役学生7名、卒業生2名が合格した。

 「当時、商業高校等を卒業して公認会計士を目指す生徒は、関東・関西の大学に進学して学ぶ流れがあったところにリーマンショックが起こり、県外進学に困難をきたす家庭の生徒が名古屋の会計専門学校に流れていっていた状況がありました。そこで、本学に学びの場を作ろうと検討を始め、県内の商業高校校長会で計画を話したところ、『4年制大学で学士を取り公認会計士試験に合格できるならそれに越したことはない』と賛同。県出身の子ども達が岐阜で学び、公認会計士まで取れることは、県内の商業高校の先生方の自信にもなっているようです」。

 経営学部の取り組みに刺激を受け、法学部でも、岐阜県弁護士会との連携協定の締結や、地方公務員試験対策に注力。21年春は、37名が公務員試験に合格し、卒業していった。

 「法学部の先生方も、県弁護士会の実務家の先生や企業の採用担当の方々と接するなかで、本学の学生がどういう企業・組織に求められているのかということを少しずつ理解してくださるようになった」と大友学長は振り返る。


図 改革トピックと志願者・入学者の推移


高校と企業をつなぎ、地元・岐阜県を支える大学でありたい

 こうした取り組みの結果、経営学部、法学部は定員割れを脱することができた。「取り組みがそう大きく間違っていなかったと感じています。特に、会計教育が良い切り口として機能しており、これまで関東や関西の大学を選択肢に考えてきた生徒が『朝日大学に行けば公認会計士試験に受かる』というイメージを持つようになってきていることを実感しています」と大友学長。一方で、「18歳人口の減少や都市と地方の格差拡大、地元残留率の低さという状況を考えると、今後10~20年はさらにシビアな状況となるでしょう」と、地方大学の将来には厳しい目を向ける。

 この状況をふまえて、今後強化していくのは、「地域の高校・企業との連携」と「リカレント教育の強化」だという。

 「岐阜で育った生徒が本学で学び、卒業後も県内で活躍し、家族を大切にしながら豊かに暮らす、そして地域社会をも豊かにするサイクルを目指しています。苦労して子どもを関東・関西へ出しても、戻ってこない。地元で老夫婦は二人暮らし、という労働力提供型の現状を見ていると、豊かさを再定義すべきです。高校や企業との連携をさらに強化し、地域特性を生かした教育を展開することで、ふるさとを大事にする心を育てていきます」。

 リカレント教育の強化にも既に着手済みだ。

 「うまく回っている実例として、地銀の大垣共立銀行と展開している医療経営士養成プログラムがあります。地元の医療法人や社会福祉法人の中堅職員を対象とした学び直しです。大学で学んだことは、10年も経てば陳腐化します。現場のニーズを汲み取りつつ、最新の知見を提供して参ります」。地域を支える実学を提供する─その取り組みに今後も注目したい。



※自県内(地元)の大学・短期大学入学者のうち自県内(地元)の高校出身の大学・短期大学入学者の割合(浪人含)



(文/浅田夕香)


【印刷用記事】
資格と企業連携で文系学部の学修成果を可視化。地域特性・ニーズに合わせた人材育成/朝日大学