【TOP INTERVIEW】創立100周年に向けて真のグローバル理工系大学を目指す/芝浦工業大学学長 山田 純
芝浦工業大学学長 山田 純(やまだ じゅん)
1959年生まれ
1978年 大阪星光学院高等学校
1982年 ヤマハ発動機株式会社研究部研究員
1988年 東京工業大学理工学研究科博士課程中退
1988年 東京工業大学工学部生産機械工学科助手
1995年 山梨大学工学部機械工学科助教授
2005年 芝浦工業大学工学部機械工学科教授
2008年 芝浦工業大学学長補佐
2011年 芝浦工業大学評議員
2015年 芝浦工業大学工学部長
2018年 芝浦工業大学理事
2021年 芝浦工業大学学長
大学改革先進校“芝浦工大”の軌跡
本学は1927年、創立者有元史郎により設立されました。東京の芝浦、豊洲、埼玉の大宮に3つのキャンパスを持ち、工学部、システム理工学部、デザイン工学部、建築学部の4学部1研究科、約1万人弱の学生を擁する理工系大学です。
有元が唱えた「実学重視の技術者育成の理念」を継承し、建学の精神「社会に学び、社会に貢献する技術者の育成」と、教育理念「世界に学び、世界に貢献する理工学人材の育成」を人材育成目標に掲げています。
私は2005年に山梨大学から本学へ移り、今年4月、学長に就任しました。この16年間の改革の歴史で一番大きかったのが、2007年に実業界から柘植綾夫先生が学長に就任されたことです。柘植先生は大学のミッションとして3つの柱(教育、研究、社会貢献)をクリアに発信し、企業の運営方法であるPDCAサイクルを大学運営に取り入れました。私は当時学長補佐をさせていただき、組織の運営とはこうやって行うのかと初めて実感し、学長室周りの教職員の意識が変わっていったのを覚えています。
次に、本学の卒業生で実業界出身の五十嵐久也理事長がガバナンス改革に着手します。就任時の2010年にガバナンス検討委員会を設置し、2014年度よりガバナンス改革を断行しました。理事会を最高意思決定機関とし、学長選考も教職員による選挙方式を廃止、教学トップを公正に審査できる選考委員会方式としました。同時に、2012年から9年間続くことになる村上雅人学長の体制に入り、教学の内容については学長が決めてそれを理事長がサポートするという、学長付託型ガバナンスが実現し、より迅速な意思決定ができる組織ができ上がってきました。
スーパーグローバル大学創成支援(SGU事業)採択
2014年には理工系私立大学で唯一、スーパーグローバル大学創成支援(SGU事業)に採択されました。今振り返ってもそこから大学の雰囲気が一気に変わり始め、今日の基礎が築かれたと感じています。
本学のSGU事業の取り組みは、教職員と学生が協働し「価値共創型教育による実践型技術者の育成」を行うとともに、世界水準の大学制度を整備し、グローバルな研究・産学連携の場を東南アジアに提供するためのコンソーシアム(GTI:Global Technology Initiative)を運営するものです。1993年のマレーシア留学生受入制度「マレーシア・ツイニング・プログラム」に始まり、2006年のSEATUC(東南アジア工科系大学コンソーシアム)、「Go Global Japan」等、本学の長年のグローバル化の取り組みを結実しながら、世界水準の大学制度作りや学生の英語力向上策にも取り組んでいます。事業が終了する2023年度のKPIは、①外国人等教員(海外留学・就業を持つ日本人教員を含む)の割合60%、②外国人留学生の割合29.4%、③日本人学生の留学経験者 100%、④TOEIC®テスト550点以上の学部生の割合82.2%等、高い目標となっており、学内ですぐには理解が得られませんでした。ただ、海外協定校と実施するアクティブラーニング「グローバルPBL」の全学展開などによって学生の成長の度合いを目の当たりにすることで、「これはやらないと」とSGU事業の推進に反対する教員は減少しました。2019年度の海外派遣学生数はコロナ禍で対前年減の1455人(日本人学生の16.9%)だったものの、この12年間で約40倍に増加。留学生受入数は1690人(全学生の18.3%)と目標の14.8%を大きく上回り、第一回中間評価ではA評価、第二回ではS評価を受けています。
SGU事業以外にも、文科省の競争的資金に対しては積極的に取り組むというのが基本的な姿勢で、2015-18年の獲得件数は10件と私立大学トップクラスです。村上前学長には、事業が公募されると、大学全体で取り組む方向性を発信し空気作りをしていただいた上で、やり方は各学部の現場で検討し実施するという進め方をしてきたことで、教職員の各事業に対する協力が得られたのだと思います。
志願者数過去最高を牽引する建築学部
2017年に設置した建築学部は、工学部の中の建築学科と建築工学科に、デザイン工学部の都市計画の視点を合わせた新学部です。それまで工学部の中にあった「いかにつくるか」という建築だけでなく、都市や人の生活、自然を考え「何のためにつくるか」を重視する、自然科学や人文社会科学を含んだ学際的視点からの建築学を見直したことが、新しい学部領域の開拓に繋がりました。建築学部の志願者増が大学全体の志願者増というシナジーを生み、本学のブランドイメージの牽引役を果たしてくれています。実際に2019年度一般入学試験の入学志願者数は全学で4万6505人と、2年連続過去最高を更新しました。
長期ビジョン「Centennial SIT Action」
2027年の100周年に向け、長期ビジョン「Centennial SIT Action」を宣言しました。グローバル理工系大学を目指し「アジア工科系大学のトップ10に入る」という目標を掲げ、①教育(理工学教育日本一)、②研究(知と地の創造拠点)、③グローバル(グローバル理工学教育モデル校)、④多様性(ダイバーシティ推進先進校)、⑤教職学協働(教職協働トップランナー)の5つの課題に取り組みます。
なかでも④多様性では、SGU事業による外国人等教員と留学生増加に加え、2012年に男女共同参画推進室を設置し、女性教員を戦略的に積極採用しています。女子学生のキャリアパスやロールモデル提示の意味でも、女性教員がいないところに女子学生は来ないと考えたからです。2015年には文科省女性研究者研究活動支援事業で13機関唯一のS評価を頂き、2016年に東京都女性活躍推進大賞を受賞。2020年時点で女性教員数は65人(20.8%)と、日本の工学系学部平均11.6%を圧倒しています。
ビジョン達成が学長として一番のミッションなわけですが、私は特に研究力に注力し、理工系大学として研究力で全国区のブランド力を築きたいと思っています。SGU事業の推進により実学と研究力強化が同時に進められるようになり、論文数も工業系国立大学に遜色ないところまで増えて来ています。
さらに、⑤教職学協働を拡張した「ステークホルダー満足度向上」にも着手します。コロナ禍の就職で校友会に随分サポートを頂き、ステークホルダー一丸となって大学を盛り上げる気運になっています。教職学による学生参加型の大学作りと、それを通じた学生満足度の向上を目指し、次の100年へと向かっていきます。
(撮影 冨永智子)