地方創生に資する魅力ある地方大学の実現に向けて

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局次長 行松氏


地方大学が迎えている重大な局面

 新型コロナウイルス感染症による人口減少スピードの加速化やデジタルトランスフォーメーションの急激な進展により、地方大学もグローバル競争にさらされることとなり、大学の存続に関わり得るような極めて重大な局面を迎えつつある。こうした危機感の下、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局では、昨年「地方創生に資する魅力ある地方大学の実現に向けた検討会議」(座長:坂根正弘 コマツ顧問)を立ち上げ、地方創生に資する魅力的な地方大学を実現するという観点から、地方大学が目指すべき方向性と国における対応について闊達な議論を行っている。その内容について、昨年12月22日に取りまとめが行われたところであり、ポイントは次ページの表の通りだが、本稿ではその内容をもとに、地方大学への期待と、地方創生に資する魅力ある地方大学の実現に向けた方策についてご紹介したい。

 なお、本検討会議において「地方大学」とは、「東京圏以外に所在し、地方創生への貢献をそのミッションとする大学」を指すものと定義している。


地方創生に資する魅力ある地方大学の実現に向けた検討会議 取りまとめ【ポイント版】


地方創生に資する地方大学が目指すべき方向性

 地域の教育・研究拠点でもある大学は、地域に相当なインパクトを与えており、大学が地域から消えるということは、地域から若者や教職員が消え、彼らにまつわる消費や雇用が失われることを意味する。また、大学という「知の拠点」を失うことは、地域の経済的・社会的価値を成長させていくための重要な存在を失うことにつながる。このように、大学の存続は地域全体の課題であり、大学の将来に係る危機感を、大学だけではなく、首長をはじめとする関係者が強く認識し、具体的なアクションにつなげていくことが求められている。

 理想的には、地方創生への貢献を大学のミッションとして掲げる全ての地方大学が、魅力的な存在になり地方創生に資する大学として成長することが望まれるが、まずは、地方創生に資する大学として本当に変わろうとする大学、あるいは個別の大学の中で特区的にでも地方創生に資する改革を進める主体を見いだし、改革をサポートすることで、地方創生に資する地方大学づくりを先導していくことが提言された。地方創生に資する地方大学のモデルとなる事例をスピード感を持って生み出し、その成果を他の地方大学に波及させていくことにより、地方への若者の流れを促していきたいと考えている。

 地方創生に資する魅力的な地方大学とは、その魅力故に学生を惹きつけ、学生の将来の活躍の場としてワクワクするような産業・雇用を創出し、地域における人の好循環を生み出すハブとして機能する大学である。こうした地方大学の実現に向け、地方大学が目指すべき方向性として以下の3点が示されている。

  • ニーズオリエンテッドな大学改革
  •  今後の18歳人口減により、大学の置かれている状況がより厳しくなることが想像に難くない。本検討会議においては、2030年には定員500人規模の中堅大学が160校消滅する可能性があるといった試算も紹介された。こうした状況も踏まえ、他大学との差別化に徹底的に取り組み、各大学のオンリーワンの価値を最大限に高めることで、「選ばれる大学」を目指すことが求められている。これに当たっては、地域の産業構造や、それぞれの産業の市場動向も見極めながら、人材に係るニーズを踏まえた検討が必要不可欠である。ただし、ニーズとトレンドが異なることには注意が必要である。社会に求められる人材を育成していくことはもちろん重要であるが、表層的なトレンドを追うのではなく、研究を通して社会の本質的ニーズに応えつつ、次のニーズをリードできるような人材を育成していくことが理想である。

  • 地域でのプレゼンスの発揮
  •  地方大学は、様々な観点で地域でのプレゼンスを発揮することが期待されている。なお、ここでいう「地域」とは、必ずしも「地元」に限られず、県境や国境を超える連携も考えられるが、そのような場合であっても結果的に大学の力を「地元」に裨益させる可能性を模索する姿勢を欠いてはならない。

     大学の持つ知的・人的リソースの地域産業への貢献という意味では、まず地域産業の第二創業的なイノベーションにつなげる等、地域産業の磨き上げに資することが考えられる。地域産業には高い潜在力を持っている企業が少なくないので、その潜在力を引き出すことで、魅力ある地域産業を創出することも可能である。また、地元地域の産業が必ずしも成熟していない場合には、大学自ら新産業の創出につなげる等、新産業創出の原動力としての役割を果たしていく可能性も考えられる。

     「産学連携」は研究だけではなく教育面でも重要であり、質の高い人材育成につなげる視点も重要だ。キャンパス外の実践的な課題に触れることで、いわゆる「文理融合」の可能性や必要性に学生が気づき、学ぶことの意義は非常に大きく、STEAM教育を契機に、産業連携を進めることも考えられる。

     各大学が時代に応じた教育研究を行っていくためには、民間の力の活用や、国公私を超えた大学連携が必要となる。今後の18歳人口減を踏まえれば、大学は厳しい競争関係にさらされていく可能性が高いが、「地域連携プラットフォーム」の構築や「大学等連携推進法人」の導入等により、協働関係を築いていくことが求められる。

  • 大学改革を実現するためのガバナンス改革
  •  大学が直面する今後の厳しい状況を見据え、強みを伸ばすことだけが求められるのではなく、スクラップが必要になってくる。スピードの速い社会の変化に対応し、組織の新陳代謝を促すためには、一定の痛みを伴う真の改革に乗り出すトップの覚悟が欠かせない。そして、この覚悟を学内に浸透させることが必要不可欠であり、多様な専門性を持つ教員が同じ方向を向いて改革に取り組むためのマネジメント面での工夫も求められる。

     また、社会の変化やニーズを適切に捉えるためにも、教員や経営陣として民間人材を積極的に登用することが効果的と考えられる。その際、能力や成果に応じた待遇という価値観を臆せず取り入れ、民間からの教員に対し高い給与を支払う前提でのクロスアポイントを進めることも新たなチャレンジを促す重要なインセンティブとなるだろう。

     本検討会議では、本質的な大学改革が進んでいない理由として、学部・学科間の横並び意識に基づく「悪平等」も指摘された。「悪平等」から脱却し、まずは特色的な改革を部分的に着手しながら、その改革マインドを全学に波及させる工夫を施すことで、大学内の事情に偏った大学改革とは一線を画した、真の改革を期待したい。また、「教員ガバナンス」によった学長選考プロセスを早急に見直すことも指摘されている。

地方国立大学における特例的定員増

 本検討会議の検討事項の一つとして、地方国立大学の定員増が挙げられる。これまでの運用においては、国立大学の定員を増加させることは認められておらず、組織改革を行う場合にも大学内でのスクラップ&ビルドを前提に進めなければならなかったが、これがともすると旧来組織の看板の架け替えにとどまってしまう大きな要因ではないかとの指摘もあった。このため、地方創生に資するかどうかなど、適切に審査・選定を行った上で、特例的に地方国立大学の定員増を認めるべきとの考え方が示された。かかる定員増は、地方大学がこれまで述べてきたような様々な改革を進めた上で、さらに魅力ある大学となるための手段の一つであるが、18歳人口減の傾向も踏まえ、極めて限定的に、特例として認められるに相応しいプランに基づくものでなければならないとされたことに注意が必要である。

 具体的な審査の流れについては、以下の図に示した通りであり、文部科学省と内閣官房が連携しながら、特例的な定員増に関する審査・選定を進めていくことにしている。地方国立大学の定員増の要件については、中央教育審議会における議論を踏まえ、文部科学省と連携しながら、今後詳細について検討を進め、早急に各大学に対してお示ししたいと考えている。


地方国立大学の定員増に関する今後の流れ


 各地方国立大学において、地方公共団体等のステークホルダーとも連携しながら、各大学・地域の創意工夫がいかんなく発揮された、真に地方創生に資する定員増のプランを練り上げ、申請いただけることを期待したい。国においても、これを価値あるものとするよう、厳正に、そして本気で審査を行ってまいりたい。

 また、本検討会議においては、定員増を伴う改革については、

  • 従来の運営費交付金とは切り分けて質の高い教育・研究を行うために必要な経常的支援を行うべきであること
  • 大学にミッションや5年程度の目標を明示させたうえで、中長期的に大学側に大きな裁量権を与えるとともに、結果責任を問うような、包括的で結果管理型の契約的な考え方を取り入れるべきであること
  • 等が提言されている。裏返せば、こうした結果管理型の長期契約的コミットメントに耐えられるだけの意志と能力とガバナンスを持った地方大学こそが、定員増を認めるに相応しいと考えている。

     なお、包括的で結果管理型の契約的な考え方として提言された内容については、今国会に提出された国立大学法人法の改正法案にも反映されており、既に改革が進み始めている。

    国における今後の対応

     上述の地方国立大学の特例的な定員増のほかにも、本検討会議では内閣官房及び文部科学省に対し、地方大学の本質的な改革を促すための提言もなされている。

     例えば

    • 大学設置基準第19条に規定する「自ら開設」の原則などについて、デジタルトランスフォーメーションを踏まえた、大学の改革を後押しするような制度・運用の新たな在り方を不断に模索すること
    • 地方大学に対して、地域への貢献に係る期待をミッションとして明示すると同時に、そのための必要な環境整備として、運営費交付金の追加配分の可能性も含めて検討を行うこと
    • 大学が自由裁量で活用できる補助金枠を創設することなど、根本的な運営費交付金の在り方も含めた見直しの検討を行うこと
    といった内容が挙げられる。こうした点については、今後の文部科学省における検討に適切に反映されるよう、引き続き本検討会議との連携を図っていくこととしている。

    おわりに

     本稿でご紹介させて頂いた通り、本取りまとめが結果的に地方国立大学に焦点を当てたものとなったのは、地方国立大学が乗り越えるべき課題が大きいことが明らかになった結果であり、地方を支える知の拠点として公立・私立大学が重要な役割を果たしており、今後さらなる飛躍が期待されていることは、しっかりと明記されている。

     国公私を問わず地方大学が、地方創生に資する大学を目指して改革を進め、地方創生を進める駆動力としてさらに魅力的に発展するために、本取りまとめを役立てて頂ければ幸いである。


    内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局次長
    行松泰弘

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