学修成果の可視化とキャリア支援で個別最適化を目指す/尚絅学院大学

尚絅学院大学キャンパス



合田学長

 大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングといった座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働と、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。

 この連載では、この「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目しながら、学長および改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく。各大学が活動の方向性を模索するなか、様々な取り組み事例を積極的に紹介していきたい。

 今回は、仙台市に隣接する名取市に立地する尚絅学院大学で、学修成果の可視化とキャリア支援について、合田 隆史学長にお話を伺った。

小規模だが総合大学のような学びの広さを

 尚絅学院大学は、2019年度に1学部から3学群5学類へと大きな改組を行った。合田隆史学長はその目標を「ベーシックな体制づくり」とし、「それで問題が解決するということではなく、改組をしたうえで、どういう教育をするのかが問題」と語る。

 「どういう教育をするのか」の方向性を示すのが、2019年度から6カ年計画で推進中の「第4次中期計画」だ。これからの時代を生き抜く「実力」(陳腐化しない普遍的なスキル《コンピテンシー》、強みとなる専門分野と幅広い視野)を身につけることを謳い、3つのビジョンと19の重点課題を「Mission 19 Goodness~時代を生き抜く力~」の形にまとめている。

 この改革で打ち出したい「尚絅らしさ」としてはまず、ミッション系スクールとしての伝統・建学の精神が挙げられる。4年制大学としては2003年に女子短大から転じ比較的新しいが、1892(明治25)年に現在の仙台市内で女学会として創設以来、長い歴史がある。

 「初代校長はアニー・ブゼルという女性宣教師で、開校から20年近く校長を務めました。その教育理念は『教育とは、単に物知りを養成するのではなく、時代の要請に応えることが出来る人物を養成することである』というもので、非常に実践的な教育方針をとってきました。今もその伝統がずっとあって、学生が社会に出て、地域に貢献できる、そういう力をもった人づくりを目指しています」。「他者と共に生きる」というキリスト教主義の精神を土台として、学生も「地域など自分の周りの役に立ちたい。そのために懸命に自分にできることを探すタイプが多い」と合田学長は見る。

 打ち出したいもう1点は、「中規模校らしい大学づくり」だ。学生数2000人という小規模校でありながら、人文社会系を中心に理工系、心理・教育系、健康栄養系と幅広い分野をカバーする総合大学的な面もある。「大規模校にはない、きめ細かい少人数教育と同時に、小規模校にはない幅広さも持っており、この規模感を生かして、学生一人ひとりの興味関心、資質適性に応じた学修の個別最適化を目指しています」。

小規模だが総合大学のような学びの広さを

 現在取り組んでいる改革内容の一つとして、「学修成果の可視化」がある。「2014年に私が学長になって、若手教職員を中心とした将来構想プロジェクトを立ち上げた。そのなかで出てきたのが、2016年度から実施している『SPレーダー』です」。

 SPレーダー(Student Progressレーダー:学修到達度評価)とは、ディプロマ・ポリシー(DP)に対応する12または13の軸のレーダーチャートを使って、学生が自身の成長と学修成果を可視化する仕組みだ。DPのうち9項目は批判的思考力、協働力など全学共通の汎用的能力(コンピテンシー)で、3または4項目は専門分野の特質に応じて学類(従来は学科)ごとに定め、12または13項目のDP全体がカリキュラムマップと連動している。これを指標として、アセスメントポリシーに沿ったルーブリックを使って5段階で自己評価し、レーダーチャートに落とし込むことで、自己の特性が分かりやすく可視化され、確認できる。また自己評価に当たっては、なぜその段階と判断したのか、自分なりの根拠を記述することとしており、入学から卒業まで年に1回ずつ計4回の自己評価が、定性的にも学びを振り返る機会となる。

 また、「学びの最適化」をするために2019年に導入したアドバイザー制度に基づき、アドバイザー(教員)が学生へフィードバックを行っている。教員1人当たり平均で学生7、8人を担当し、SPレーダーの結果をもって個別に面談することで、SPレーダーの実効性を高めている。


図 SPレーダーとは


SPポイントで学生のやる気を引き出す

 もう一つ尚絅学院大学独自の取り組みとして、チャレンジ精神・やる気を引き出す狙いのSHOKEI POINTプログラム(SPプログラム)がある。インターンシップ、ボランティア活動など、授業外の活動を申請するとポイントが獲得でき、15ポイントたまると「チャレンジポートフォリオ」という共通教育の単位(1単位)に換算される。

 実はこのSPプログラムは、2012年頃にスタートした当初はあまりうまくいかなかったという。単位は授業で取ればよいと、ボランティアなどに参加はしても、ポイントの申請はしない学生が多かったようだ。

 「単位になるというだけでなく、就活時に自己PRをするポートフォリオ作りに役立つということに、学生が目覚めてきたようです。それがメインのエンジンになって、キャリアとあまり関連のない分野も含めて、ポイントを申請する学生が増えてきたと思います。

 SPレーダーでも、この活動でポイントを獲得したということは、自己評価の根拠にできます。そのように、SPレーダーと重なってSPプログラムが実質的に動き始め、噛み合ってきたのがここ数年です」。

教職協働での授業改善

 キャリア教育に関しては、1年次必修「キャリアデザインI」から始まって、2年次・3年次の選択科目、SPプログラムによる「チャレンジポートフォリオ」と、手厚いキャリアライフデザイン科目が用意されている。また、キャリア形成に関連する資料を1年次から専用のファイルにファイリングして就職活動に備える「キャリアデザインポートフォリオ」も、2015年度後期から導入した。

 ただ、合田学長が「本学のキャリア教育の特長」とするのは、こうした科目のラインナップではない。4年制大学になった2003年からの蓄積で、授業がブラッシュアップされ、外部講師も厳選されていっていることだ。

 「企業の人事担当者、地域の方、キャリアカウンセリングの専門家など、外部の色々な方にキャリア科目の講師をお願いしています。その授業を進路就職関係部署の職員が見て、いいと思った方に本学の教育方針や学生の特質をよりよく知ってもらい、本学の学生向けに授業を改善してもらうことを積み重ねています。その結果、いわゆる『滑る』ことがなく、しっかり『引っかかっている』と自負しています」。

 ここからも分かるとおり、尚絅学院大学で職員の存在感は大きい。教員と職員の距離も非常に近いという。「組についても、教授会ではなく事務職員も入った全体会で説明し、意見交換もして理解を浸透させました。また、教務部長、学生部長などの先生方は、その元で仕事をする事務方からの信頼度も参考にして登用します。そういうこともあって、非常に良好な関係ができています」。

課題となる人口減少への危機感の醸成

 1キャンパス1学部体制が長かったためか、教員のまとまりも比較的よく、改革に当たり特に困難はなかったという合田学長だが、「もし難しいところがあるとすると」と挙げたのは、学生募集に関する危機感の伝わりにくさだ。東北地方でも18歳人口の減少が顕著であることを、合田学長は非常に深刻に捉えているが、近年の志願者増もあってか、学内の空気は「今までどおり一生懸命やればなんとかなるだろう」だという。

 「高校生の数が1割減ったときにどの大学も志願者が1割減るのなら、あまり怖くはない。しかし、減らないところは減らない、つまり、集中的にどこかの大学で減る。これはすごく怖いことです」。

課題となる人口減少への危機感の醸成

 数字に表れた19年改組の成果として、まず志願者の増加がある。また、学生アンケートの満足度も高い。卒業時の満足度は98.1%、在学生全体では約85%だ。就職率も、就職希望者に対する比率が98%、卒業者全体に対する比率は93%~96%と、高率を維持している。

 個別の施策として「SPレーダー」の成果を尋ねると、合田学長は「まだ成果とは言えないものの、手応えは感じている」と答えた。「手応え」の1つは卒業生アンケート(満足度調査)だ。「自由記述欄に書いてもらった満足度の理由に、『尚絅でこれができるようになった』『こういう力がついた』、だからよかったというタイプの、しっかりした回答が増えてきた実感があります」。

 概ね成果が上がっているなかでの今後の課題は、「19年改組以降の1期生の進路が、2023年3月にどういう結果として出てくるか。それも踏まえて改革をどうチューニングしていくか」だという。「尚絅が新しくなったことに対する社会的な評価を浸透させ、信頼度を向上させていくために、次の一手が大事と考えています」。

 改組の学年進行完成後を見据えて、将来構想のプロジェクトを再び立ち上げ、この中でいくつか学長として重視したいと考えていることがあるという。その1つはSDGsの推進だ。「SDGsのゴール達成もさることながら、SDGsを通じて大学としての人間教育を実施できればという意図です」。

 2つ目は、大手の伝統や知名度のある大学と戦ってもう一段上を目指すために、「ピーク」を作ること。心理・教育学群には保育者・教員養成や心理学、健康栄養学群には管理栄養士養成と、それぞれ「ピーク」があるので、人文社会学群にも「ピーク」を作り、3学群でラインナップを整えたいという。もう1つの「ピーク」が国際交流だ。留学に行く学生・来る学生共に多くはないが、「それでも東北のこの規模の大学としては光っているというポジションはつくれる」と合田学長は意欲を示す。

 3つめに挙がっている柱が「地域」だ。学生の多くが東北6県の出身で、就職先も約8割が東北ということから、「地域から来た学生を地域に帰す」役割を今後も担っていく。社会人教育において地域から大学に寄せられる期待も感じているという。合田学長からは、「地域と『共に生きる』ことを大切にしてきた大学です」と、ミッション系スクールらしい言葉も聞かれた。



(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)


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