大学と地域との連携強化の取り組み ──ふじのくに地域・大学コンソーシアムの狙いと成果

地方、地域における大学の位置づけ、現状置かれている環境

 現在、静岡県の高等教育機関の数は25校であり、内訳としては、大学が15校、大学院大学が2校、短期大学部が7校、高等専門学校が1校となっている。

 2015年3月に県内高校を卒業した者のうち、大学進学者は54%であり、そのうち、28%が県内大学に、72%が県外大学に進学している。

 ただし、県内大学の入学定員に対する入学者数の割合としては、ほぼ定員を満たしており、キャパ的に受け入れられないという状況もある。また、県内大学出身者のうち8割が就職しているが、そのうち県内出身者は8割が県内に就職しているのに比べ、県外出身者の県内就職率は19%に留まっている。

 県外大学に進んだもののうち、77%が就職しているが、そのうち県内へのUターン率は38%であり、首都圏進学者のほうがその他地域への進学者に比べUターン率が低くなっている。

 こうした状況を踏まえ、県をあげて、県内への定着、特に一旦県外大学に進学した学生のUターン対策が進められているところである。

コンソーシアム設立の目的・狙い

「ふじのくに地域・大学コンソーシアム」イメージ画像

 本組織は2003年に発足した「大学ネットワーク静岡」という大学同士のネットワーク組織が発展したものである。

 2014年に静岡県からの提案により、社会貢献事業や教育連携事業の充実を図るため、一般社団法人として「ふじのくに地域・大学コンソーシアム」を設立し、翌年には公益社団法人化した。

 新組織である大学コンソーシアムは、大学間のネットワークを図りつつ、さらに、自治体や経済界を始めとする地域の色々な団体と連携を深め、教育力・研究力の一層の向上を図るとともに、県内全域への地域貢献のための活動をしていくことを目的としている。そのため、名称に「地域」が新たに入っている。

 会員としては正会員、準会員、賛助会員から構成され、総会での議決権を持ち、組織、事業等の運営を行う正会員のメンバーは、県内21高等教育機関と県を含む22の自治体、県教育委員会と県行政書士会となっている。また、準会員には議決権はないが事業に参加でき、現在のメンバーは3団体である。活動支援をする賛助会員は、現在7団体がメンバーとなっている。年々会員数は増え、現在56となっている。

具体的な事業内容と主な成果

 当コンソーシアムでは、展開する事業を7つに分類(教育連携、共同研究、地域貢献、国際交流、学生支援、機関交流、情報発信)し、様々な取り組みを行っている。大学間の連携が進み、会員も増えて事業も拡大していく中で、2019年3月、今後5年間の活動方針を示す中期計画を1年かけて策定したところである。2020年度、当コンソーシアムが実施した事業の中から主なものをいくつか紹介する。

【短期集中単位互換授業】
 「短期集中単位互換」とは、学生が他大学の科目を履修し、在籍大学の単位として認定するものである。静岡県にちなんだ、いわゆる「ふじのくに学」のテーマに沿った科目を提供し、フィールドワークを含む集中講義を開催することで、異なる大学生同士の交流を図り、県内への理解の促進、愛着心の醸成につなげる。2020年度、実施した授業科目は8科目であり、富士山やお茶など、本県を特徴づける科目を用意している。

【大学連携講座】
 大学の研究成果を地域に還元することを目的に、静岡県にちなんだテーマで、大学同士が連携して、県民への連続講座を行うものである。なるべく、大学のない地域での開催を組み入れ、複数回での連続講座となっている。

【共同研究助成】
 静岡県にちなんだテーマまたは地域課題の解決につながるテーマで、教員同士が連携した研究に助成し、その成果を地域に還元するものである。助成額としては共同研究が100万円、単独研究が50万円となっている。2020年度は、2カ年度に渡る研究も採択対象としたところであり、採択テーマとしては、過疎地での移動支援、富士山に関するもの、お茶・柑橘園に関するものなどがある。

【経済団体との包括連携協定の締結】
 2018年8月に、経済4団体(静岡県経営者協会、静岡県商工会議所連合会、静岡県商工会連合会、静岡県中小企業団体中央会)と包括連携協定を締結し、2019年度6月には学長たちと経済団体代表との意見交換を行った。なお、2020年度から、短期集中単位互換授業の科目で「静岡県の産業イノベーション」を実施している。学生が県内のベンチャー企業を知り、本県産業への理解を深める機会としている。

【ゼミ学生等地域貢献推進事業】(会員自治体との連携事例)
 この事業は、会員自治体などが提案した地域課題に、大学ゼミや学生団体が取り組み、それに助成金を支払うというものである。流れとしては、自治体から募集した課題を全大学に流してマッチングし、審査して決定を行う。活動した結果は、共同研究助成事業などと合わせ、2月の合同発表会で全員が発表する。

 合同発表会は「ふじのくに地域・大学フォーラム」として、ゼミ生や共同研究の教員が一堂に会して発表を行う。その際、高校生の発表なども盛り込み、40を超える事例の発表を行っており、毎年300~400人ほどが聴講している。

 なお、2020年度の合同発表会は、コロナ感染対策のため、当コンソーシアムのホームページに合同発表会の特設ページを設けて、オールオンラインで開催したところである。


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「ふじのくに地域・大学コンソーシアム」ホームページ
ホームページ https://www.fujinokuni-consortium.or.jp/


今後に向けた展望

  • ふじのくに学の体系化
    2015年度から進めてきた「ふじのくに学」について、ワーキングチームを立ち上げて体系化し、コンソーシアム事業における位置づけを明確にする。また、小中学生を含む若い世代を対象にした取り組みを進める。

  • 産業界等との協働体制の構築
    経済4団体との包括連携協定に基づき、相互理解を深め、協働した教育・研究体制を推進する。また、事業等の効率的・効果的な推進に当たって、適切な団体等との連携が取れる体制づくりを目指す。

  • 体系的・効果的な事業推進体制の整備
    各会員高等教育機関が、それぞれの強みを生かしながら主体的にコンソーシアム事業に参画し、市町、産業界等と連携できるような事業体制を構築する。また、事務局体制及び財源についても、随時見直し、効果的な体制とする。限られた予算やスタッフの中で、拡大していく事業をどう整理し焦点化していくかが今後の課題になっている。

公益社団法人ふじのくに地域・大学コンソーシアム 事務局次長
森川正浩


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