価値創出のドメインを選び教育・研究・社会貢献の3軸から地域課題を解決する/長岡大学

長岡大学キャンパス



村山学長

 長岡大学は新潟県長岡市に2001年開学し、経済経営学部に1学科5コースを擁する小規模大学である。文部科学省「地(知)の拠点整備事業(COC)」に2013年採択された「長岡地域<創造人材>養成プログラム」が5年間実施され、並行して2016年には後継となる「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」に採択された「NIIGATA COC+」(新潟県内の就職率向上と国内外からの人口流入実現を目指す地方創生事業)の参加校となっている。「地域で役に立ち、頼りになる大学」を目指す大学創りについて、村山光博学長にお話を伺った。

活力ある地域を再構築するために

 まず、COC事業を概観したい(図)。長岡市は2005~2010年に11市町村が合併した新潟県第二の都市である。

 主要産業は機械工業や食品製造、農業等だが、グローバル化の進展に伴い競争相手が国内のみならず海外にも拡大し、競争劣位な状況が続いている。また、合併したことで中山間地域から市街地、海岸まで包含する自治体となり、広範な市はエリアごとに特徴も環境も人口分布も、当然課題感も多様だ。その中から大学の介在価値を発揮できる3点を選び、その打ち手を講じた。課題について詳細を見ておこう。


図 長岡地域<創造人材>養成プログラム全体図


 まず、「産業活性化」である。苦戦する産業の構造改革のみならず、産業を牽引する人材育成、起業・創業の促進まで、スコープは広い。新潟県は起業も廃業も少なく、産業の新陳代謝が悪い。外部環境が変化する中でよりイノベーティブな風土醸成が必要であり、経済経営学単科の大学としても、学んだ内容で事業を興す学生や社会人の循環拠点となる必要があった。

 次に、「市民協働」である。少子高齢化、過疎化に伴う諸問題は、行政が動けば解決するような簡単な問題ではない。市民が当事者意識を持って取り組むための場作りやスキームを大学が「地の拠点」として講じる。そうした動きが、第三の課題である「地域・コミュニティの活性化」にもつながるという発想だ。地域の活力が減退すれば地域が持つ良さや文化も損なわれてしまう。地元に愛着ある市民が減少すれば、機能面で勝る都市部への人口流出は免れず、街は衰退の一途を辿る。きっかけは一人ひとりの当事者意識であり、幅広い世代の中で音頭を取れるリーダー育成が必要なのである。

 以上3点に対し、大学として「教育」で学生が地域に出ていき、地域から人を集める循環づくりを、「研究」で地域課題に即した研究実施や共同研究を、「社会貢献」で地域活性のための場づくりや人づくりのスキームを構築したのがCOC事業の概観である。キャッチコピーは「現代の『米百俵の精神』の実現をめざして」。これは明治期の越後国長岡藩士であった小林虎三郎が、「教育こそ人材を育て、国やまちの繁栄の基となる」という教育第一の思想から、戊辰戦争後の困窮に対するお見舞いに送られた米百俵で学校を建てた逸話に由来する言葉だ。困難にあってこそ、目先の食料ではなく「国家百年の計」である教育により優れた人材を輩出することが、ゆくゆくは国・地域のためになるという考え方である。

地域課題に対し大学の介在価値を最大化するための方策

 長岡大学のCOC事業には前身がある。文部科学省「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」に2006・2007年に採択された内容がそれだ。2006年採択は「産学融合型専門人材開発プログラム‐長岡方式」で、地域の事業体との産学連携体制構築と、学生の資格取得対応カリキュラム構築をうたう内容。2007年採択は「学生による地域活性化提案プログラム‐政策対応型専門人材の育成」で、長岡市の10年総合計画から自分達の取り組むテーマを決め、学部3年次以上の学生が属するゼミで1年間取り組み、行政に提案を行うという内容だ。地元のリソースと密に連携し、学生が具体的にアクションするスキームを整備したこの2つの事業は、長岡大学の教職員にある種の実績として刻まれた。この前例があったからこそ、先述した地域課題に対して3本柱で臨むという躯体を構想し、推進力高く実現できたと言えるかもしれない。

 村山学長は、「地域の課題に取り組む座組みですが、大学側にも大きな課題がありました」と当時を回顧する。長岡大学の建学の精神は「幅広い職業人としての人づくりと実学実践教育の推進/地域社会に貢献し得る人材の育成」である。まさに「地域の大学」を標榜する内容だが、具体的に「地域の大学たるにはどうすればよいのか」の軸足が定まっていなかったという。そんな折、前述した現代GPプログラムで地域との横断連携が考案・実践され、手ごたえを得た。そのうえでのCOCだったのである。先行した事業で見出した大学の方向性は、COC事業が志向する方向性と合致していた。「書かれている要件がほぼ本学がやりたいことでした」と村山学長は言う。

事業の評価:PDCAサイクルの構築

 大学側の教育・研究・社会貢献について、各部門で掲げる内容の調整等の陣頭指揮を執ったのは地域連携研究センターである。COC事業の補助金から人件費を捻出し、教職員約10名で構成された部署だ。センター内では毎週打ち合せを行い、細かく進捗確認をしていたという。

 一方、全体の推進・評価体制については、学内は地域連携研究センターが計画の主体となり、その下に運営委員会・運営部会が実務調整を行う。そうした躯体に地域に設置された地(知)の拠点整備事業推進協議会(長岡市、長岡商工会議所、NPO法人長岡産業活性化協会NAZE等)及びその下部組織である地域課題調整部会が対応・評価する体制を整えた。大学をハブにした場を創り、地域課題について学内外を含めてフラットにつながった場でチューニングを行っていたのである。

COCを土台に大学の独自性を模索する

一連の取り組みの成果について伺うと、「具体的なアクションや人材交流を経て、地元に『地域の大学』と認知されたことが一番大きい」と村山学長は言う。地域の大学としてCOCの方向性を整理しつつ強化していく必要があるのは間違いない。その一方で、2021年で大学設立20周年を迎えるに当たり、ほかにない独自性を構築したいという意向もあるという。「COC的な動きは地方大学の前提になりつつあり、それだけでは選ばれない。本学は学生の性質も多様で、必ずしも学力の高い学生ばかりでないのが実情です。しかし、どんな学生でも成長できる教育を提供する大学でありたい。いかに学生の成長に地域連携をつなげられるか、教育の質保証の観点を強化し、独自性につなげていきたい」。村山学長の言葉は力強い。

(文/鹿島 梓)


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