カレッジマネジメント Vol.226 Jan.-Feb. 2021

大学経営を支えるミドルマネジメント

編集長・小林浩が語る 特集の見どころ

 人口減少、技術革新、グローバル化等大学を取り巻く環境が大きく変化しており、こうした大きな変化に対応した大学改革への期待が高まっている。そうした中で、2020年4月から私立学校法が改正され、学校法人には中期計画の策定が義務付けられるようになった。カレッジマネジメント20年1月発行号で、中期計画の実現に向けた特集を組んだところ、頂いた質問で多かったのが、中期計画を推進し、ありたい姿を実現するためには、「トップダウン型」「ボトムアップ型」どちらのマネジメントスタイルが良いのか、というものであった。

 トップダウン型、ボトムアップ型どちらも良い点、悪い点がある。トップダウン型は強いリーダーシップを持ったトップが経営判断を行うため、意思決定のスピードが速く、機動力という点で優れているが、トップの指示なくしては組織が動かなくなり、組織全体が弱くなるという側面がある。一方ボトムアップ型は、現場からの意見やアイデアを重視した経営を行うため、現場のモチベーションは維持しやすいが、意思決定に時間がかかり、施策も中庸なものになってしまいがちという側面がある。

 そこで、その弱点を補うものとして注目されているのが、野中郁次郎氏が提唱した「ミドル・アップダウン型」のマネジメントである。このマネジメントスタイルは、現場のミドルマネジメント(主に部課長職)が主体的に動き、経営トップのメッセージを分かりやすく現場に伝えたり、逆に現場の声を吸い上げて経営に提言することが特徴となる。変化が激しく、迅速な意思決定が求められる環境下で経営成果を上げるために有効とされ、組織的に知的創造し、事業の発展を目指す経営スタイルであるといわれている。以前は、「中間管理職」として、上司と部下に挟まれる役割というイメージがあったが、そのミドルマネジメントの主体的な活動が組織の知的創造の鍵となるというものである。

 そこで、今回は、「ミドル・アップダウン型」のマネジメントに注目し、中期計画の推進や大学改革の中核を担うミドルマネジメントについて特集を組んだ。東京都公立大学法人理事・筑波大学名誉教授の吉武博通氏の監修のもと、学長からみた職員及びミドルマネジメント(部課長職)への期待と評価をアンケート調査し、“変革を主導するミドルをどう育てあげるか”という観点から、その現状と課題の分析を行った。ご回答頂いた学長の皆様には感謝を申し上げる。

 今回の調査の詳細は吉武教授の詳細分析をお読みいただきたいが、ざっくりとしたまとめを下の表に記した。学長からみたミドルマネジメントは、業務に関する知識を持ち、教員とも協働しながら、的確かつ効率的に業務を遂行している。その一方、柔軟な発想で新たな課題に挑戦をしたり、情報収集・分析に基づいて企画・構想をする力、配下職員の育成等については、不足を感じているということが判った。こうした現状への打ち手としては、学内的には目標を明確にした業務運営の実施や、挑戦的な課題の賦与を行うとともに、学外研修への参加を促して、情報収集や視野を広げる機会を用意したいと考えている。

※クリックで画像拡大学長のミドルマネジメント(主に部課長職)に対する現状認識の概要

 特集を通じて感じたのは、多くの学長が職員の役割が高まっていることを認識し、今後も役割がさらに高まっていくと予想しているものの、まだまだ大学においてはミドルマネジメントの役割や期待が明確でなく、有効な育成方策が確立されていないということだ。

 大学改革が進んでいる大学ほど、職員や部課長層が期待した役割を果たしているとの回答が多く、まさに職員力が大学改革の成否を決めるといっても過言ではない時代になってきた。特にミドルマネジメントは中期計画の中核的な推進者というだけではなく、次世代の経営者予備軍である。今回の特集を機に、大学においてもミドルマネジメント(主に部課長職)の役割や育成について議論が巻き起こることを期待したい。

リクルート進学総研所長・リクルート『カレッジマネジメント』編集長 小林 浩