教えて!「『第12期中教審 』は何をするの?」

 中央教育審議会が3月15日 に第12期(任期2年間)初の総会を開催し、「堀川の奇跡」で知られる元京都市立堀川高校長の荒瀬克己・独立行政法人教職員支援機構理事長を会長に選出しました。小中学校を含めた教員出身の会長は初めてだといいます。今後どのような課題に取り組むのでしょうか。

「『第12期中教審 』は何をするの?」

 戦後の1952年に設置された「旧中教審」は、大学教授や学長が会長を務めるのが慣例でした。2001年の省庁再編に伴って教育課程審議会や大学審議会などを統合した「新中教審」の会長は、初代(鳥居泰彦・元慶應義塾長=故人、第1~3期)、第2代(山崎正和・元大阪大学教授=同、第4期)こそ学者が務めましたが、第5期からは三村明夫・元新日鉄会長が就任。第7期途中に三村会長が日本商工会議所会頭に転身したため副会長だった安西祐一郎・元慶應義塾長がワンポイントで会長を務めたものの、第8~9期は北山禎介・元三井住友銀行会長、第10~11期は渡邉光一郎・元第一生命ホールディングス会長と、長らく経済界出身の会長が続きました。

 第7代会長となる荒瀬理事長は、大谷大学や関西国際大学の教授を務めて いますが、京都市立伏見工業高校(現・京都工学院高校)の国語科教諭を皮切りに堀川高校長などを歴任した、生粋の高校関係者です。第11期では副会長・初等中等教育分科会長の他、同分科会「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会 」(学校教育特別部会)部会長、同特別部会「高等学校教育の在り方ワーキンググループ(WG) 」主査を務めるなど、高校教育のみならず初中教育全体のキーパーソンです。

 まだ注目すべき点があります。全国高等学校長協会(全高長)はもとより、全国連合小学校長会(全連小)、全日本中学校長会(全日中)の会長が、そろって総会メンバーである「正委員」に任命されたことです。新中教審では人数の関係から、学校種別の代表者(有識者として選ばれた校長は除く)は入ったとしても1人で、むしろゼロの方が多いくらいでした。つまり今期は会長人事も含め「初中シフト」が敷かれているとみることもできます。

 もう一つの注目点は、初中分科会の臨時委員だった奈須正裕・上智大学教授が正委員に昇格したことです。カリキュラム論などが専門の奈須教授は、これまで教育課程部会を中心に議論をリードし、学校教育特別部会「義務教育の在り方WG 」主査も務めています。

 文部科学省事務局が総会に示した「第12期における審議事項(予定) 」を見ると、初中分科会の関係では ▽個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実に向けた学校教育やそのための環境整備の在り方について ▽教師の養成・採用・研修の一体的改革に向けた取組について――が挙げられています。このうち後者は2022年12月答申の「実効性」ある取り組みを検討するもので、焦点の前者では義務・高校WGの「論点整理」等に基づいて検討を行うとしています。
 
学校教育特別部会をめぐっては、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI、議長・岸田文雄首相)が22年6月に決定した「政策パッケージ 」で、教育課程から学校の役割・教職員配置・勤務、教育支出の在り方まで検討すると位置付けられています。

 政策パッケージで27年に「改訂見込み」とされる「次期」学習指導要領は、現行指導要領(17年以降順次改訂)の例に倣えば、24年中には諮問される必要があります。それまでに学校制度や教員の働き方などもセットで準備作業を担うとすれば、相当大がかりなものになることが予想されます。
 
高等教育が軽視されているわけではありません。大学分科会では「急速な少子化の進行等への高等教育の対応方策について」も審議事項に挙がっており、生徒を送り出す側の高校現場としても無視できないでしょう。
 
いずれにせよ今後、「第12期中教審 」の動向から目が離せそうにありません。


参考)
https://souken.shingakunet.com/secondary/2022/02/post-2598.html

ttps://souken.shingakunet.com/secondary/2022/11/wg-1.html
https://souken.shingakunet.com/secondary/2022/03/post-2599.html


【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/