【interview】越境と共創を伴う探究が育む自分軸の人生


本稿では探究学習の今とこれからについて有識者・実践者にインタビューし、質の高い良い探究とは何か、どのように実現できるのか、推進校の特徴は何か等を探る。 

POINT
  • 自分の進路・人生を踏み出す高校生のタイミングで、自分のホーム(既知・日常)からアウェイ(未知・非日常)に出る越境体験で価値観が揺さぶられ、そこで共創に身を投じることで自分軸の存在を認識・更新するために、探究学習は重要
  • これまでの自分の延長線上にない考えや在り方に到達する自己変容こそが探究学習の醍醐味
  • だから生徒を越境に導くコーディネート機能が探究学習における一つのソリューションとなる
  • 高校の教科学習と探究学習は起点・目的が別物と捉えるべし。ゆえに教科学習と探究学習の橋渡しと共創が重要となる

(一財)地域・教育魅力化プラットフォーム 代表理事

岩本 悠氏

東京生まれ。学生時代にアジア・アフリカ20カ国の地域開発の現場を巡り、その体験学習記『流学日記』を出版。その印税等でアフガニスタンに学校を建設。幼・小・中・高校の教員免許を取得し、卒業後はソニーで人材育成・組織開発・社会貢献事業等に携わる。
2007年より隠岐島前高校魅力化プロジェクトに従事。2015年から島根県教育魅力化特命官として教育と人づくりを推進。2016年第一回特別ソーシャルイノベーター最優秀賞(日本財団)受賞。2017年に一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム(※)を設立。文部科学省中央教育審議会委員。
共著に『未来を変えた島の学校 -隠岐島前発ふるさと再興への挑戦(岩波書店)』『地域協働による高校魅力化ガイド -社会に開かれた学校をつくる(岩波書店)』

※一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームとは
「意志ある若者にあふれる持続可能な地域・社会をつくる」ことを目指し、教育を核とした地域創生(高校魅力化)を全国規模で展開する組織。2017年に設立。 都道府県の枠を超えて、日本各地の公立高校へ越境進学(国内留学)できる仕組みを提供する地域みらい留学、高校教育改革や地域と学校の協働を推進するための調査研究・伴走支援事業であるみらい共創ラボ、企業と地域・教育の現場をつなぎ、社会課題の解決と企業価値向上を両立する共創プロジェクトを推進する事業共創を主な事業として活動している。
https://c-platform.or.jp/index.html


―探究学習は何故必要なのだとお考えですか。

 唯一解が存在しない事象に対峙し、そこに自ら問いや課題を設定して解決に向かう営みは、「正解のない時代」と呼ばれるこれからの社会で必須の総合的な資質・能力を身につけるトレーニングになります。教科学習において問いや課題は教員から提示されることが多く、解決プロセスも答えも規定されているものが多い。しかし探究学習は社会が舞台で、誰も答えを持っていないことも多い。正解がある教科とは別物として捉える必要があります。

―そうしたトレーニングが高校教育段階で重要とされるのは何故なのでしょうか。

 高校時代は、生徒が自分自身の進路を考える重要なタイミングです。高校卒業後の進路は大学だけでなく多岐にわたります。そうした進路を主体的に切り拓くために、探究が果たす役割は大きいと思っています。成年年齢も18歳に引き下げられ、高校時代はちょうど自分の人生を踏み出すタイミングでもあります。

 探究学習は教科学習と違い、学習指導要領に内容が規定されていないので、生徒は自分を軸に模索することが求められます。正解のない問いに対峙して試行錯誤するなかで、自分が頭で考えた問いを検証するために現場に行って見聞きしたり、様々な情報に当たり、自分は本当にこう思っているのか、この問いはこの人達の役に立つのかといった迷いが生まれたり、影響を受けたり、価値観が揺さぶられたりする。学外で活動すると、安全・安心な学校の中にいたのでは分からなかったことがしょっちゅう起こります。でも社会とはそういう場所です。そうした活動のなかで、自分の問いや価値観を考えるようになるのです。もし探究がなかったら、偏差値だけで進路が決まってしまうかもしれない。そうした軸では、往々にして入れるところ、入りやすいところを選びがちです。自分を蔑ろにした選択で自分のキャリアを主体的に生きることは難しいでしょう。

 自分の問いに直結する大学での研究テーマを見つける、という直線的なつながりだけではなく、探究活動のなかで出会った普段会わない人達、行かない場所、考えない事象等から、「自分もこういう働き方がしてみたい」「自分はどうもこれが嫌いだ」「なぜか分からないがこれに心動かされる」といった心の動きが生まれ、「じゃあそれを実現できそうな生き方は何だろう」と自分に引き寄せて考え、自分にとっての興味の種や大事にしたいことを見出して次を選ぶという動きも、大切な自分軸の発見だと思います。

 若者が自分らしい人生を送れるように、大学でもそれをさらに育めるようにしてほしいです。

―自分軸を育む探究に必要な要素は何でしょうか。

 探究において大事な要素を、私は「越境」と「共創」の2つと置いています。

 自分軸を発見するには、自分の世界から出ることが大事です。ホームである教室にいるだけでは出会えない人や事に直面し、そこで自分の日常や当たり前が決して当たり前ではないことに気づくのです。既知から未知へ、日常から非日常へ。だから探究学習においては学外に出て、アウェイ経験を積むなかで自分の価値観が揺さぶられ、改めて自分軸を考えるのが大事になります。これが越境です。違う世界を知るなかで、今まで気づいていなかった日常側の「当たり前」について問い直しが起こり、「何で自分はこうだったんだろう」「どうなったらいいんだろう」「次はどうしようか」と、既存の延長線上の生活を送っていたのでは浮かばないような多様な問いや内省が生まれ、自分を考えるようになるわけですね。

 そして、越境によって新たな場に出向くと、そこにいる方々と新たに関係性を築き、自分の望む成果を得るために協働していく必要があります。ホームにいる時よりも感性も鋭くなり、その環境で生きていくための様々な能力が総合的に発揮されていく。

 さらに、既知と未知だけだと比較や対立構造にもなりやすいですが、複数の未知と遭遇すると、それぞれの良さや違いを認め、対立の先へ、いわゆるアウフヘーベンしながら新たな価値を創造していくようになります。これが共創で、越境と共創は切っても切り離せないものです。自分の価値観だけの世界から解放されると俯瞰や相対化が起こり、多様性を受容できるようになる。同時に、共通性や普遍性、本質といったものを見出す視点も培われていきます。これは社会課題解決や価値共創においても大変重要な視点であると同時に、大学の学問にも通じる視野でしょう。

 高校生段階で世界を知り、越境と共創を経験するために、探究学習は非常に有効な手立てというわけです。

―それが、貴法人が掲げる「意志ある若者」にあふれる持続可能な地域・社会を作るためのプロセスというわけですね。良い探究とは、そうしたプロセスを踏めている探究ということになるでしょうか。

 そうなります。内向きの教育環境を越境し共創する。そうした揺さぶられる経験によって自分を見出していく。それが、自分軸で主体的に生きる「意志ある若者」への変容につながります。

 良い探究とは良い越境と良い共創を伴う「非連続で飛躍的な成長が生まれる」もの。言ってしまえば、探究によって「一皮むけた」状態になることです。よくある「自分の枠のなかにあることを確認する・なぞる」だけの探究ではあまり意味がありません。「こうだと思っていたのに違った」「やってみたらもっとやってみたくなった」「やりたいとも思っていなかったけど興味を持った」「すごく悔しかったので次はああやりたい」といった具合に、自己変容が伴うものが良い探究だと思います。


従来の内向きの教育環境を越境(圏域を超える)と架橋・共創(学校と社会をつなぐ)で改革

―そうした探究を実現するために、高校側に必要な点を教えてください。

 まず、教科学習とは別のものだと認識することです。それは、大事にする観点が全く異なるからです。

 教科学習で重視されるのは教科・科目の系統性と着実な積み上げです。それは、学校教育の基盤でもある重要な方向性です。そして、基本的に正解や解き方は用意されています。

 仮に教科教育がそうした系統的・計画的な積み上げによる縦軸の教育としたときに、探究学習は、枠組みや教科を横断し越えていく横軸の学びといえると思います。見方・考え方そのものや価値観を揺さぶるとはそういうことです。学ぶべき事柄が起点となっている教科教育と、生徒自身の問いや興味関心が起点となる探究学習は異なります。生徒や場合によっては教員さえ思いつかなかった世界へ結果的に動き出すように、イレギュラーなものを許容し、越境や共創の機会をコーディネートする必要があるわけです。

 教室とインターネットだけでほぼ調べ学習な探究をしているケースもありますが、机上の探究では価値観が大きく揺さぶられるまでには至らず、越境経験にはならないことがほとんどです。やはり人間は、体験や身体性を伴う時にこそ心が大きく揺さぶられるものなので、リアルな現場に出る経験は大事ですね。理論を突き詰めていくのは研究ですが、生徒が自分の次を見つけるのに数字や理論だけで考えていてはダメで、手触り感のある学びが次の目的意識につながると思うのです。それは、大学が高校生に求めるものの一つなのではないでしょうか。

―生徒を問い起点で学外へ接続するためのコーディネーターの育成・配置を貴法人では行っていますが、やはりコーディネート機能は探究の肝と考えてよいのでしょうか。

 ホームの枠の外へ、社会・世界に出ろと言われても、一般的に高校生は自分だけで出るのは難しいですから、架け橋となる機能は探究学習推進におけるソリューションの一つと言えます。生徒一人ひとりの興味・関心を引き出すことだけではなく、社会側にそれに応えるリソースがあるか解像度高く理解していなければ、つなぐのは難しいですし、高校教員の今の働き方や時間制約のなかでその機能を十分に担うのは難しいことが多い。そもそも教員は学校という場で教科を教えるプロフェッショナルであって、つながりを育むことが職務要件ではありませんから。もちろんそうした機能を果たしている方も一部いらっしゃいますが、現状の教員の働き方等をベースに考えるなら、コーディネーターは別で育成・配置するのが最適解ということになりそうです。

 一方で、高校教員の勉強会等でお話をすると、「教員も越境経験が必要だ」という話によくなります。私もそう思います。先生自身が社会や未知を知り、踏み出す勇気を持つことで、生徒を抱え込もうとしすぎずに、大海に生徒を送り出す寛容なスタンスも育まれます。生徒に求めるだけではなく、生徒に身につけてもらいたいと思う姿勢を、大人自身も率先して体現しようとすることが非常に重要です。探究することをやめてしまった大人が生徒の探究を指導しようとしてもうまくいかないでしょうし、生徒の探究に伴走する大人の在り方自体が問い直され、大人の探究が促されるところが、探究の一つの面白さだと思います。


取材・文/研究員 鹿島 梓(2026/10/9)