【interview】駆動力を磨く探究を高大7年間で構築

本稿では探究学習の今とこれからについて有識者・実践者にインタビューし、質の高い良い探究とは何か、どのように実現できるのか、推進校の特徴は何か等を探る。
- 探究学習は、いわゆる探究プロセスを経て「日常の生活の感性や感覚を育てること」がゴール
- 良い探究とは、「自分の駆動力になる問いに基づく探究」であり、「生徒自身が好きなことや興味のあること、深掘りできるテーマ」が問題意識となり、自発的に課題を解決しようとする強い「駆動力」へと変わっていく
- 大学のリソースを使えば、探究や研究に高い意欲を持つ若者を継続的に支援する仕組みを構築することは可能であり、重要なのは属人化せず仕組みで担保すること
- 成長した生徒を大学で伸ばすには、初年次から専門教育へのアクセスを確保する必要がある
- 特に地方では、地域を支える人材育成の文脈で、大学が高校と連携して役割を果たす必要がある

崇城大学
入試広報部長
山本朝昭 氏
高校教諭時代に探究学習の取り組みを企画・実践。熊本県立八代中学・高等学校(中高一貫教育校)・熊本県立第二高等学校(SSH先導的改革Ⅱ期)校長を経て2021年4月より現職
―探究学習が必要とされている背景や意義をどのように見ていますか。
探究学習は、「日常の生活の感性や感覚を育てること」が最終的なゴールだと私は考えています。生成AIが急速に進歩する現代社会においては、膨大な量の情報の真偽や物事の本質を見極める能力が極めて重要になります。日頃から問題意識を持ち、何が正しいのか、何が本質なのかを捉えるアンテナの感度を高めるスキルを修得するために、探究は非常に有効なアプローチです。
また、従来の日本の高校教育は、どうしても「知識伝達」に偏りがちでした。知識を持っている側である教員が、持たない側である生徒に一方的にレクチャーするスタイルです。教員がそのスタイルから一歩抜け出し、探究学習のノウハウや価値を身につけることは、結果として自身が担当する教科の指導にも大きく生きてきます。知識を教えること自体をゴールとせず、それをどう活用するかという観点で学ぶプロセスそのものに探究の価値があります。
―探究学習について、高校現場では受験勉強との両立や、「問いの立て方」についての課題感が大きいようです。
確かに、全国的な温度感として、探究学習が非常に進んでいる学校がある一方で、進め方に迷っている学校も多く、二極化が見られます。
高校現場では、「探究活動に時間を割くことで、受験に必要な学力を修得する時間が奪われてしまうのではないか」という懸念が未だに根強く存在します。しかし、探究推進と学力修得は決して相反するベクトルではありません。インプットした知識を自分の中で咀嚼し、加工・可視化してアウトプットする発展的な営みは、本質的な学力向上と直結しているため、これらを切り離して考えるべきではないでしょう。
また、自身で探究学習をやったことがない先生方にとっては、探究サイクルのうち「問いを立てる」行為が最も難しいとされます。私自身が高校教員であった1997年当時は「総合的な学習の時間」が創設される前でしたが、先取りする形で実施していた「探究活動」の取り組み(グループ研究・個人研究プロジェクト)で問いに悩む生徒達に対し、研究大学のウェブサイトに掲載されていた卒業論文のデータベースを活用するよう促したところ、生徒達は「研究の問いとはこういうものなんだ」「こんな身近なものが大学の卒論のテーマになるんだ」と、問いの具体的なイメージをすぐ掴むことができました。正体不明だからこそ迷ってしまうのであり、身近な先行事例を提示してあげることで、生徒は「これでいいんだ」と納得し、自分の興味・関心からテーマを引き出せるようになるのではないでしょうか。
―生徒にとっての良い探究とは何でしょうか。
私は、良い探究とは「自分の駆動力になる問いに基づく探究」だと思います。
探究学習において、単に「総合的な探究の時間が面白かった」という一過性のイベントで終わらせてしまっては意味がありません。そうなってしまうかどうかは、何よりも「生徒自身が好きなことや興味のあること、深掘りできるテーマ」に出会えるかどうかにかかっています。それが問題意識となり、自発的に課題を解決しようとする強い「駆動力」へと変わっていきます。
昨今の国の議論等では、教員が「探究のサイクルを回すこと」自体を目的化してしまっているケースが多い点が懸念されています。目的はあくまで日常の感性を引き上げ、自らの生き方に反映させていくことですが、初期段階において「訓練的なものとしてサイクルを何度も回してみるプロセス」自体は、探究の手法を自分の中に染み渡らせ、日常化するためのセンサーを磨くうえで必要不可欠だと思います。幼少期からの蓄積が高校生段階での個人差となって現れるため、長いスパンでの経験の繰り返しが重要です。
図1 教員の介在と生徒の自律性のバランス(イメージ)
―高校時代に自発的な問いを立て、駆動力を持って伸び始めた生徒たちを、大学側がどのように受け止め、評価・支援していくべきでしょうか。
崇城大学では、高校時代の探究・研究活動を評価し、受け止める二つのルートを2023年度から実践しています
(https://souken.shingakunet.com/higher/2023/07/6-4066.html)。
ベースにあるのは熊本県内のSSH校コンソーシアムに対する2021年度からの高大連携協定です。高校側の探究学習に大学が伴走し、長期的視野に立った研究の深化や高度化に寄与します。
図2 SSH校のニーズに寄り添う崇城大学のアプローチ
そのうえで、まずプログレス入試(7年間一貫成長プログラム)は、本学の教員に継続的に指導を受けたい生徒を対象に、活動実績報告書や研究成果プレゼンテーション等で選抜するもの。高校・大学の垣根を取り払い、長期的な時間軸の中でハイレベルな理数系人材を育成する枠組みです。大学での研究テーマを想定している入学者は、その研究を継続できるように支援教員の研究室に所属できます。大学の研究室という「環境」の特権を生かし、4年間という長い時間軸の中で「いくらでも失敗を経験させ、そこから試行錯誤をさせる余白」を保証することが最大のメリットです。
次にアピール選抜です。これは、本学教員の研究支援の有無に拘わらず、探究活動を頑張った全ての高校生を対象として、高校時代の活動履歴(探究学習)を評価する入試方式です。「入試で評価されないから探究に力が入らない」といった高校生に対しても「探究学習を進めていくインセンティブとなるように」という明確なメッセージを込めています。結果として自分の高校時代の活動(探究への取り組み)に自信や達成感を持ち、次の学びへの意欲と自己効力感の高い高校生が志願してくれています。
―入学後、専門教育との親和性が高い探究型生徒が、初年次教育等で意欲を削がれ、離脱してしまうケースも出てきています。何か打つ手はあるのでしょうか。
これについては、意欲ある生徒のために教養教育と同時並行で専門に触れられるような「バイパス」を設計しておく必要があるのではというのが私の意見です。
崇城大学では、学科の枠にとらわれずに1年生の段階から専門的な探究・学習にアプローチできる、先進的な横断型プログラムをいくつか整備しています。半導体学修プログラムや化粧品学修プログラム等がそれで、一定のルールのもと、自分の所属学科とは別に、共通科目とそれぞれの基礎・専門科目を履修することで、最先端の専門人材を1年次後期から育成できる仕組みを構築しています。
また、今年度からは次世代女子育成プログラムもスタートしました。理工系分野においてグローバルな視野と高度な専門性を身につけ、将来、研究・産業・社会の第一線で活躍したいと考える女子学生を応援するためのプログラムで、海外研修への奨学金支援や、専門性を高める特別セミナー等、一人ひとりの成長段階に応じた多彩な支援を行います。九州各県から非常に意欲的な女子学生が集まりました。
大学のリソースを使えば、探究や研究に高い意欲を持つ若者を継続的に支援することはできます。そうした動きを個々の教員の特性に委ねるのではなく、仕組みとして整えることで、若者はシームレスに成長していけるのではないでしょうか。
―関連して、大学も含めた地域全体で探究学習を盛り上げていくには、どのような仕組みや第一歩が必要でしょうか。
探究学習を地域全体で盛り上げていくためには、大学・高等学校・教育委員会の「三位一体」の連携が不可欠です。特に地方では、地域の維持のための人材育成が必須です。まずは各大学が地方自治体や教育委員会との連携を強化し、日頃の関係性を築いたうえで、教育行政の課題感を共有するとともに、何らかの打ち手を考えることが大事だと思います。本学の所在する熊本県においては、教育委員会が強力にバックアップを行い、県全体の方向性と課題感を大学側と密に共有できていることが成功の基盤となっています。
SSH指定校は外部連携が圧倒的に多く、企業や大学といったところの学外人材とのつながりによって研究のクオリティーを高めています。その学外活動に参加した生徒が、知らない大人に認められて自己効力感を高め、戻ってきたあとに「メッセンジャー」として、学校内で探究の面白さや手法を周囲と共有する機会が生まれます。最も重要なのは、生徒が外に出ていく時間や機会を学校が保証するのと同時に、生徒達が戻ってきてからその経験値を周囲と共有し、相互に還元し合える「場」を設計することだと思います。
取材・文/研究員 鹿島 梓(2026/8/25)
