入試は社会へのメッセージ[7]SSH指定校との高大連携/崇城大学

理数教育の充実と人材育成を 高大連携のスキームで実現

崇城大学 入試広報部長
山本朝昭 氏

高校側のSSHコンソーシアムに対する探究支援

 崇城大学は2021年12月、熊本県内のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)5校(第二高校、熊本北高校、宇土高校、天草高校、鹿本高校)から成る熊本サイエンスコンソーシアム(KSC)と、高大連携に関する協定を締結した(2022年に大津高校、熊本西高校、東稜高校も加入)。KSCの生徒の研究テーマに応じて、崇城大学の5 学部の教員が担当として指導を行い、大学の設備等も使いながら自らの研究を深めていく過程を支援するものだ。同年には探究活動を支援する2種類の入試も導入した。こうした一連の趣旨について、入試広報部の山本朝昭部長にお話を伺った。山本氏は2020年度まで第二高校の校長で、2021年度から崇城大学に赴任し、本事業の推進を図った人物である。

 「元々、崇城大学は県内SSH校の全てに運営指導委員を派遣する等、高校への支援に熱心でしたので、SSH校が連携しコンソーシアムを立ち上げることで大学からの支援がさらに充実すると考えていました」と山本氏は説明する。SSHは国際的な科学技術人材の育成を目的に2002年にスタートした支援事業だが、後に挙げるような課題を抱えていた。そこで、高大7年かけてシームレスな学生の成長を支援する仕組みとして発足したのが、今回の連携事業なのである。山本氏は、「1つの大学が1つの高校とだけ協定を結んでも持続性に欠けますが、5校のコンソーシアムと連携することで、大学への入学生も多くなり、実証する数字も大きくなるので、スケールメリットがある」と補足する。

高校側の課題を大学側のリソースで解消し、さらなる発展を目指した接続事業

 SSH指定校の課題は、主に3つあった(図)。

 まず、研究の質向上だ。毎年20億円規模の国費が使われているSSH事業では、そのアカウンタビリティとして「全国・世界レベルの研究成果」が求められている。また、各校に特有の長期的視野で育む「看板研究」の育成も必要だ。しかし、指定を外れれば支援が打ち切られるため、高校単独では、なかなか長期的視野に立った研究醸成が難しい実情がある。

 次に、科学的資質能力の向上である。SSH校は各校の取り組みでどのような資質能力を醸成するのかを定義している。そのため、成長過程の継続的可視化が必要となるが、そのためには高校だけではなく、大学での学修成果や社会に出てからの活躍も見据える必要がある。継続的な定点観測において、連携は必須と言えるのだ。

 3つ目は、新課程の存在だ。高校全体で探究活動が展開されることになり、高校教員が探究の指導力やファシリテーション力を備える必要が生まれた。大学による専門性提供や研究伴走といった営みは、そうした高校教員のリカレントニーズにも対応するのである。


図 高校の課題に対する大学のアプローチ


探究支援に入試を重ねて継続的な人材育成を実質化

 こうした研究連携の動きに入試設計が重なっているのが本件の特徴だ。探究活動プログレス選抜と、探究活動アピール選抜の2種類である。

 まず、プログレス選抜だ。前述した接続事業を始めとし、崇城大学教員の継続的な研究支援を受けた生徒が対象で、当然専願であり、選抜は活動実績報告書による書類審査と、研究成果のプレゼンテーション・その内容に関連した口頭試問を課す2段階選抜の総合判定。二次選考では文部科学省が示す探究サイクルの各段階、即ち「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」の4段階について、自分なりに軸足を決めてプロセス設計できているか、探究してきたか、その精度を評価する。こうした選抜を経て、自分なりの研究テーマを持って入学した学生は、冒頭に述べた趣旨に照らし、大学でもその研究を継続できるよう支援教員の研究室に配属し、学部学科との学びとは別に研究を継続することができる。大学のリソースで高校の研究を支援することで継続的な看板研究に寄与する仕組みとも言える。一方アピール選抜は、接続事業以外で、自らの探究活動や課題研究に注力した経験や成果をアピールするための選抜で、併願可である。探究活動を応援する立場にバリエーションの幅を持たせた形だ。

 こうした入試で入学する学生は、「明らかに今までとは違う層」だという。「やはり、自ら探究してきた経験と成果を持つ時点で、自らの学びに自信を持ち、主体的に大学4年間をデザインしようとしている学生が多い」と山本氏は説明する。受験時の学力で勝負したい人もいれば、大学に入ってから伸ばせるポテンシャルで勝負したい人もいる。こうした「進路選択の多様化」に対応し、機会を提供していくことが募集においても大切であり、同時に目的意識がある学生が増えるように入試を設計することで、偏差値ではない大学選びの支援ができるのではないかという狙いもある。

接続の起点は高校生が持つ「問い」

 本事業を展開するに当たり崇城大学が大事にしているのは、「大学教員側に寄せるのではなく、あくまで高校生に歩み寄り、高校生の発想を大切にすること」であるという。同大学は「学生一人ひとりを大切に育てる教育」をその中軸に置き、広報キャッチではそれを「心のやる気に火をつける」と言い換えている。従前より学長リーダーシップのもと、学生の主体性を引き出すためのLMSやチューター制度といった仕組みを整備してきた。それは、学生が卒業後社会で活躍し続けられる資質・能力を身につけることを教育の目的としてきたからである。そうした経緯からして、本事業においても大学教員のテーマに高校生が集うのではなく、あくまで主軸は高校生自身の「問い」と置き、KSC 加盟高校の研究支援依頼と大学として支援できるテーマリストを大学の地域共創センターがすり合わせ、マッチングしている。目標は理数系ハイレベル人材の育成プロセス研究を高大連携で進め、研究成果をパイロットモデルとして全国に普及すること。SSHの看板研究化も見据え、高校での探究・研究を大学で続けていくことができる枠を作ったとも言える。

 「高校から大学に来て、高校側の課題感を持ったまま大学を見たときに、大学のリソースがあれば高校側の課題解決が進むと思った」と山本氏は回顧する。まずは、高校教育の現状理解と、その結果本学にどのような影響があるのかという考察から。崇城大学の事例から学ぶべきことは多い。



(文/鹿島 梓)


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