【研究リポート】探究学習の現在地/中編:制度設計から見る探究学習の定義
研究員 鹿島 梓
本稿では、上中下編にわたり、「探究学習の現在地」の整理を試みる。
中編では、制度的位置づけから探究の現状に迫りたい。
- 課題解決学習から生き方を考える「総合的な学習の時間」、自己の在り方生き方に関連する課題を探究する「総合的な探究の時間」
- 「総合的な探究の時間」は特定の教科・科目に分類されない独立した独自の領域として設定
- 探究の実質的開始から30年が経過し、現在は多様化が進むなか、全体推進力のさらなる強化が必要な段階として、次期改訂議論が進んでいる
総合的な学習の時間から総合的な探究の時間へ
1998年改訂で生まれた「総合的な学習の時間」(以下、総学)は、学習指導要領総則において、「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てること」「学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の在り方生き方を考えることができるようにすること」と、現在の探究学習のベースとなる狙いが定義された。
上編で見てきたように、この背景にはそれまでの詰め込み教育の弊害として、子どもの「学びへの意欲低下」「指示待ち姿勢」「登校拒否やいじめ問題」等が深刻化し、「生きる力」を呼び覚ます教育の必要性が問われていたことがある。また当時、環境問題、国際化、情報化等、特定の単一教科だけでは解決できない横断的・総合的な現実社会の課題が顕在化したこともあり、教科の枠組みを超えた横断的・実践的な学びの場が必要とされた。
1998年改訂の総学解説において、「①課題の設定→②情報の収集→③整理・分析→④まとめ・表現」のプロセスが明示された。これがそのまま2018年改訂の「総合的な探究の時間」(以下、総探)でも採用され、図1に示す「探究プロセス」が標準的な型として示された。一部の意欲的な高校だけではなく、全国津々浦々の多様な高校全てが取り組むために、こうした模式図による共通認識化は一定の役割を果たしたと言えそうだ。
図1 探究における生徒の学習の姿
出所:高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総合的な探究の時間編
課題解決学習から生き方を考える総学、自己の在り方生き方に関連する課題を探究する総探
総学と総探の比較にも触れておきたい(図2)。現行課程で総学が総探に変更になったのは高校のみである。これは初等中等教育の集大成としての位置づけで、小学校・中学校では引き続き総学が設置されている。
解説によると、総学と総探の一番の違いは、時間の目標において、「課題解決していくなかで自己の生き方を考えていく」か、「自己の在り方生き方と不可分な課題を発見し、解決していく」かだという。字面の通り受け取るならば、課題が自分にとってどのような意味を持つのかに大きな差があるということになる。図2下部に示す「課題と生徒との関係イメージ」も合わせてご参照いただきたい。
図2 「総合的な学習の時間」と「総合的な探究の時間」の違い
出所:高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総合的な探究の時間編
教科と全く異なる総探の制度上の位置づけ
総探は教科・科目とは制度上の位置づけが明確に異なる。現行学習指導要領によると、高校の教育課程は、教科・科目、総合的な探究の時間、特別活動の3つで構成されており、総探は特定の教科・科目に分類されない独立した独自の領域として設定されている。図3に教科との差異を示した。
学習内容は生徒自らが設定した課題と探究の進め方による。検定教科書は存在せず、教えるべき知識が決まっていないため、テストによる点数化(評定)もない。日本の教員免許が教科・科目ごとの発行であることの裏返しとして、当然総探を教える専門教員も存在しない。こうした様々な事情により、誰がこの時間を責任持って成立させるのか等は現場の分掌やマネジメントに拠るところが大きく、組織的な対応が指定されていないため、これからの時代に必要な資質・能力を育むこの時間を有意義なものにしようとする、意欲ある一部の教員の負担が大きくなりやすい構造がある。
そもそも目標や内容が学習指導要領で定められている教科に対し、総探は図2上部に示した「第1の目標」を踏まえつつ「各学校の総合的な探究の目標や内容を適切に定めて、創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する必要がある」ことから、何のためにこの場があるのか、そこで何をなすのかを学校として意思決定する必要があり、その実質化にはばらつきがある。
教科のように「教員が定めた答えや知識を一方的に教えてテストで評価する」ものではなく、生徒自身が教科の枠を超えて横断的に学ぶプロセスそのものを重視するため、あえて教科から外した「時間(領域)」という枠組みになっているのだが、一般的な教科・科目とは異なるこうした扱いが、現場やステークホルダーの混乱を生んでいる側面もあろう。生徒ごとに異なる課題設定や探究進捗状況をマネジメントする必要があるほか、生徒が何を課題視してもきちんと探究的な学びが成立するように対話・目配りする必要がある等、指導上の難易度も高い。
図3 教科学習と「総合的な探究の時間」の違い
出所:文部科学省中央教育審議会初等中等分科会教育課程部会 生活、総合的な学習・探究の時間WG(令和8年3月10日)資料2「総合的な学習・探究の時間における評価等について」
あるべき探究学習の実現には未だ距離がある現状
現在議論中の次期改訂に向けた議論では、高校の探究学習における現在の課題を以下のように整理している。
- 生徒が自ら課題を設定する取組が少しずつ定着しつつあるものの、総合の本来の趣旨とは距離のある活動が依然として残る。
- 課程(定時制、通信制等)や学科(普通科、専門学科等)の違いに加え、統廃合等による生徒集団の多様性の拡大も相まって、目指す探究の姿を各学校が試行錯誤する必要があり、取組状況に大きなばらつきがある。
- 授業時間数には限りがある中、カリキュラムが過密であることもあり、学校外をフィールドにした大胆な取組が行いにくい。
- 校務分掌や伴走体制、地域資源の活用が必ずしも進んでいない中、一部の担当教員に大きな負担がかかっている例もある。
こうした課題感に基づき、検討資料においても、探究に関する様々な概念や整理が登場している。その一部をご紹介したい。以下は全て、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会 生活、総合的な学習・探究の時間WG(令和7年12月26日)の資料1「総合的な学習・探究の時間に関する目標・内容の構造化等について(前提となる諸論点の整理)」からの引用である。
課題感に基づく探究の概念解釈、多様化する探究の整理
まず、探究の概念整理についてのイメージ図だ。これは、現行課程で「問題解決的な学習が発展的に繰り返されていく」「物事の本質を自己との関わりで探り見極めようとする一連の知的営み」と整理していることについて、「表現が抽象的」「教科等との関係が十分整理されていない」との指摘があることから考案されたもので、「実社会・実生活との関わりの中で見出す自己の興味・関心や問題意識に基づき課題を設定し、教科等の学びを必要に応じて活用し、試行錯誤しながら、課題解決を通じた新たな価値の創造を繰り返していくプロセス」と再整理している。
図4 探究のイメージ
探究のプロセスについては前述した通り、図1が標準的な型として共有されている。このプロセスが社会全体で共有されたことは大きな意義がある一方、「4つのプロセスを、順を追って回すことが目的化しているケースがある」「同一のプロセスでは十分に捉えきれない探究がある」といった指摘があり、プロセスを辿ること自体が目的ではなく、課題・プロセス・成果の質をどのように向上させるかが必要との観点が加えられている。
図5 探究のプロセスについて
次に、学習者の裁量を軸に探究的な学びを整理した図だ。
総探と各教科探究について、①課題 ②手続き ③成果 の視点から、学習者が自己決定できる裁量の度合いに応じて探究的な学びの度合いを中心に整理を試みたものである。
これによると、パターン4であり、①課題が自己の興味・関心や問題意識に基づく ②手続きが試行錯誤を伴う ③成果として新たな価値の創造を目指す ものを総探で目指す探究とし、そのいずれかにおいてグラデーションがあるものを探究的な学びとして整理している。
図6 学習者の裁量に着目した「探究的な学び」の整理
そして、多様化する探究の在り方について、活動のプロセスから整理を試みた図だ。
前述した通り、総探の目標や内容は学校が教育目標に照らし設定するとされているなか、総学創設から約30年が経過し、多様化する探究の在り方について、3つの類型を示した。これまで国がこうした「探究の在り方」を示すことはしてきていないが、次期改訂においては、こうした類型を参考資料として提示するという。
図7 様々な探究の在り方と探究のプロセスについて
最終的なとりまとめにおいてどの図がどのように位置づけられるかは追う必要があるが、本稿では議論のなかで現状の探究学習の推進課題に基づき考案されたものとしてご紹介した。
参考文献・引用
- 高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総合的な探究の時間編
- (令和7年12月26日)資料1「総合的な学習・探究の時間に関する目標・内容の構造化等について(前提となる諸論点の整理)」
- (令和8年3月10日)資料2「総合的な学習・探究の時間における評価等について」
文部科学省中央教育審議会初等中等分科会教育課程部会 生活、総合的な学習・探究の時間WGより
