学ぶと働くをつなぐ[53]函館×商学の実践教育で地域人材を育成/函館大学


地方では足りていない文系人材
1965年開学の函館大学は、商学部商学科のみの単科大学。野又淳司学長は、「母体となる学校法人野又学園は昭和13年の『函館計理学校』からスタートし、現在に至るまで一貫して商業教育を行ってきました」と説明する。函館という街は北海道のなかでは早く開けた地域であり、高等教育に対する市民のニーズは高かった。そして現在も「函館で商学を学びたい」というニーズは根強い。
国の高等教育政策では理系分野へのシフトが推奨されている。しかし野又学長は、地方の現場で直ちに必要とされているのは、文系人材や医療・介護などのエッセンシャルワーカーだと指摘し、「本学が地方で商学教育を継続する意義は、開学以来変わらず『地域社会から切実に必要とされているから』に尽きます」と強調する。
地域に根差した商業教育を象徴するのが、1・2年次必修のPBL(課題解決型学習)科目「商学実習」だ。1年次の「商学実習I」では、国際観光都市・函館を主な舞台に、「観光客の誘致拡大」や「冬の魅力の発信」といった観光関連のテーマが多く設定される。およそ10名で構成されるグループワークで1年間かけて取り組み、毎年11月に開催される「合同学生成果発表会」での発表を目指す。
2年次の「商学実習II」では指導教員の専門性を反映した学びへと発展し、3年次以降への専門ゼミナールへとつながっていく。
1年次からの実践的な学びで自己効力感を醸成
こうした「商学実習」をはじめとする地域での実践経験は、学生のキャリア形成に大きな成果をもたらしている。大都市圏の企業連携では、ある程度規模の大きな企業で担当社員が配置され、用意された企画に対して学生が参加するという整った形式が多いと考えられる。しかし函館大学の環境にそうした「お膳立て」はない。学生が自ら考え行動し、具体的に提案していくことで初めて取り組みが展開していく。野又学長は「現場は『行き当たりばったり』の連続」と表現するが、こうも言う。「そうした経験を経ることで、学生は『この会社でなければ嫌だ』『この地域や業種でなければならない』といった狭小なこだわりやわがままを言わなくなっていくのだと感じています」。
かつての商学教育は講義形式が中心だったが、そこに学外での実践的な学びを、しかも1年次という早期から加えたことで、教育効果に大きな差が生まれていると野又学長は言う。多様な社会人と直接接する機会を重ねることで、働くことの実態を捉えることができるようになっていく。その結果として「どのような職場・職種であっても、自分にはやっていける力がある」という自己効力感が醸成され、自分の可能性を柔軟に考えられるようになる。
こうした健全な就業観は、就職内定率の高さを支えていると同時に、学生一人ひとりの就職後の幸せにも寄与すると野又学長は考えている。「ホテルで働く観光の仕事は忙しくて大変、小さい自治体の公務員は地味でつまらない、などと思って嫌々働くのでは成果も上がらないし、本人も不幸です。どんな仕事にもそれぞれの良さを見いだし、楽しいと思って働くことができる。そんな態度や能力を身につけさせるのも教育の役目だと思います」。

道内就職率が4割から75%に
高い就職実績を維持するなかで、近年力を入れているのが「地元・北海道内への就職推進」だ。
若者の価値観の変化により、東京などに出ていかず「函館で働く」という選択肢はネガティブなものではなくなってきたと野又学長は見ている。「仕事」「家庭・友人」「自分自身」の3つの要素でみたとき、「仕事」への重みが相対的に下がってきているとも言う。「であれば、地元や近隣での就職をより強化していくべきと考えました」(野又学長)。
そこで打ち出したのが、あえて「札幌圏での就職支援」を強化する方針だ。函館と比べて企業数が圧倒的に多い札幌に向けての強化策が、地元函館の人材確保策として機能することを目論んでいる。「札幌の企業に就職した場合、函館支店へ配属される可能性もありますし、車で4時間程度の距離で、親や友人と会える圏内であるため、将来、地元へ戻ってくる確率が非常に高いのです」(野又学長)。
札幌の就職支援事業者との連携や、学内企業説明会での札幌企業の比率引き上げを実施した結果、かつて4割程度だった道内就職率は75%まで上昇した。一度札幌へ赴任したとしても、将来的に函館へ戻ってくる流れを作る着実な手応えを得ている。
商学×GXで新たなビジネスの変革を学ぶ
今後の改革として始まっているのが、再生可能エネルギーのポテンシャルが高い道南地域の特性を生かした「グリーントランスフォーメーション(GX)」に関するプロジェクトだ。文部科学省の「私立大学等戦略的経営改革支援事業(キラリと光る教育力)」に選定され、2024年度から5年計画で取り組んでいる。GXに取り組むといっても「風力発電学部」のような専門学部を新設するものではなく、従来の簿記・会計の科目に、温室効果ガスの収支を管理する「カーボン会計」を導入するなど、商学部ならではの内容だ。
GXは単なる工学・技術的なアプローチにとどまらず、経済構造やビジネスの仕組みの変革を意味し、あらゆる文系分野・ビジネス分野が関与すべきテーマだ。「『商学』を基盤に時代の要請に応える先進的な教育を展開することで、全国から若者を引き付ける大学を目指していきます」(野又学長)。
(文/松村直樹 リアセックキャリア総合研究所)
