入試は社会へのメッセージ[18]全学で推進する社会連携教育や専門教育へのレディネスを問う/関東学院大学 総合型選抜「探究評価型」

アドミッションズセンター長 准教授 奈良堂史 氏/アドミッションズセンター 鈴木 亮 氏


 関東学院大学は2025年度の新課程入試のタイミングで、総合型選抜「探究評価型」を導入している。その狙いや背景について、アドミッションズセンター長の奈良堂史准教授(経営学部)に伺った。

大学教育につながる主体性と伸びしろを探究学習から見いだす

 同大学では、2027年度入試の総合型選抜で6つの選抜部門を設定している(図1・2024年度までは3種類)。

 「本学の総合型選抜は、『高校までに頑張ってきたこと』を生かして受験できる区分です」と奈良氏は述べる。そこに探究評価型が加わった経緯については、「高校の学習指導要領で探究学習が推進されていることを踏まえ、本学の高大連携活動のなかでも、探究学習の受け皿となる入試を設計してほしいという要望は多く頂いておりました。ただ、本学はその声に応えるためというより、大学側からの『攻めの一手』として積極的に設置しました」と説明する。

 即ち、高校までに探究に深く取り組み、大学での4年間を経て、その集大成である「良い卒業論文を書きそうな学生」を積極的に獲得することを目的としているという。評価対象は、端的に言うならば大学での学びに対する「主体性」と入学後の「伸びしろ」だ。


図1 総合型選抜の6 つの部門図2 社会と連携して学びの順序を変える


最重視する「問いを立てる力」

 具体的には、高校の探究学習における ①課題設定 ②情報収集 ③整理・分析 ④まとめ・表現 に揃えたうえで、大学独自の評価項目として⑤その他(出願時に提出する「探究学習報告書」に関する評価項目等)を加えて点数化し、ルーブリック評価を行っている。探究学習のなかで、テーマに対する興味関心、課題発見力、調べ学習での粘り強さ、仮説のユニークさといった点から、「4年後にきっと良い卒論を書きそうか」という観点を重視している。探究学習の成果よりもプロセスに着目した評価方針である。そのなかでも、特に重視するのは①課題設定であるという。

 「外部コンテスト等で高い成果を出している生徒が主体的なプロセスを回しているかというと、必ずしもそうではありません。主体性を育むための探究学習を、『受動的に』取り組む生徒も多い。一方で、与えられたテーマでも自ら問いを立てていれば良い探究学習をしている生徒もいます」。テーマと問いは異なる。「例えば、海の環境問題の1つである海洋プラスチックについて、ビーズに再生させて文化祭で販売をした生徒がいました。この活動が入試に使えるかをオープンキャンパスの個別相談で聞かれたため、海に滞留しているプラスチックの出所や、人間にとって何が問題なのかを聞くと、詰まってしまった。恐らくこの生徒は、教師や大人から与えられたテーマに取り組んでいるだけで、そのテーマに関して自ら立てた問いがない状態だったのでしょう。これでは自由研究やレポートです。本学がやってほしいのはリサーチです」(奈良氏)。探究学習においては問いを探究しているのであって、テーマを掘り下げればよいというものではない。「一所懸命調べた」という域を出ないものは対象外で、自ら立てた問いがあり、その観点が優れているかを評価する。良い問いには、「何が問題か(What)、なぜそうなっているのか(Why)、どうすれば解決できるか(How)」の3点が揃っているという。

 一方で、高く評価された探究の例として「100円ショップの研究」がある。この生徒は、「自分がよく行くいくつかの店舗で、なぜコスメの品揃えがこれほど違うのだろう」という、日々の生活に根差した自分ならではの疑問から問いを立てて探究を行っていたという。「このような、自分の心の中に湧いた『なぜ』を起点に課題を設定し、探究のプロセスを回す力こそ、本学が最も重視しているポイントです。この学生は入学後も高い成績を修めており、目的意識を持って自走できる人材である証拠となっています」(奈良氏)。

 なお、同入試の評価観点は公開ルーブリックとして、高校生対象のガイダンスや教員対象説明会、さらにはオープンキャンパス等で積極的に公表し、指導の参考に供している。その意図を奈良氏は「大学が高校の学びにリンクする評価基準を設定することで、高大接続が図られると考えています」と説明する。

図2 社会と連携して学びの順序を変える

「学びの順序(シーケンス)」の独自性と社会連携教育

 では、同大学がこうした「問い」の観点を評価するのはなぜか。それは、前述した「良い卒論を書く人材を選ぶ」ことと合わせて、全学的に推進する「社会連携教育」への接続を考えてのことだと奈良氏は話す。

 「一般的な大学のカリキュラムと比較した際、本学の『学びの範囲(スコープ)』自体は大学教育として標準的ですが、『学びの順序(シーケンス)』に大きな特徴があります。従来の大学教育では、まず教室で理論を学び、その後に実務へ応用するのが一般的です。しかし、例えば経営学部の場合、働いた経験のない18歳の学生がいきなり高度な経営理論(コーポレートガバナンスや多角化戦略等)を学んでも、理解することは容易ではありません。

 そのため本学では、学び方について逆の順序を採用しています。つまり、まず企業や現場に出向いて現場の人の声を聞いたり、飲食店やコンビニ等の身近な企業の実例に触れたりして、企業が抱えるリアルな課題を頭の中にインプットします。次に、それを解決するためのツールとして教室に戻り、理論や分析枠組みを学びます。そしてその後、プロジェクトベースで再び現場に戻り、学んだ理論を提案として実践します。この循環が学びのプロセスです」。

 奈良氏は、社会連携教育で成長しやすい属性について、「社会に出ることを厭わず自ら半歩前に出る行動力、問いを立てて他者を巻き込み協働する力、コミュニケーション力、ストレス耐性やレジリエンス」を挙げたうえで、以下のように補足する。「本学の社会連携教育が最も効果を発揮するのは、『現場から始める学びに興味はあるが、まだ自分一人では自信がない』『友達と一緒であれば一歩を踏み出せる』といった学生で、このような学生に対し、大学側が手厚くサポートし、手を引っ張って一緒にプロジェクトを動かしていくことで、学生は見違えるように成長します。教員側の準備や資料チェック、学生のサポートや企業との調整等には、従来のゼミ(輪読形式等)と比較した場合、教員の肌感覚として10倍ほどの手間がかかりますが、それに見合う確かな手応えが得られています」。

 手応えとは、主には企業からの評価の向上だ。「近年では、これまでの偏差値帯では内定が出なかったような企業への就職や、偏差値上位校の学生が並ぶ大手企業への就職実績も増えてきており、確かな教育効果を実感しています」と奈良氏はまとめる。

 高校時代の探究学習で「(与えられたテーマの中であっても)自ら問いを立てる」ことを起点にトレーニングしてきた生徒は、こうした教育に馴染みやすい。社会で試行錯誤し、自分なりの仮説を検証してきた学びを、より高度化させるのが関東学院の社会連携教育とも言えるだろう。

 高校側が評価してほしい観点と、大学側が大学教育・研究にとって必要な人材を見極めるための観点が、どこでクロスするのか。関東学院の場合はそれが特に課題設定に表れると考えており、その先に社会連携教育と、卒業論文があるのだ。

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生成AIが当たり前の時代に有効な手立て

 では、この入試経由の入学者に何を期待するのか聞いた。「今の学生は、卒業後に生成AI前提の社会で働くことになります。AIにできず人間にできる力として、社会に問題を発見する力、同じ問題に取り組む仲間を巻き込む力、AIを使いこなしながら効率的に高い成果を上げる力等がより一層求められるようになるでしょう。だからこそ、本学の社会起点の学びのスタイルが有効だと考えます」と奈良氏は述べる。課題や現場を知り、問題意識や困っている人に共感してこそ、自分が何をできるか考え、働きかける一歩を踏み出すことができるし、その使命感や当事者意識があるからこそ、その課題解決ツールである理論・モデル・分析枠組みという大学の学びを「自分事化」できる。AIの使いどころも見えてくる。そうした「自分でなんとかしたい」という気持ちが具体的な探究トレーニングを経て「自分なら何かできるはずだ」という自己効力感にもつながる。

 奈良氏は、「探究評価型で入学する生徒にはこうした社会連携教育が各学科やコースで展開されるなかで、他の学生を引っ張る存在になってほしいと考えています」とまとめる。

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成績のバラつきと特性の評価が次の課題

 では、現状の課題は何か。「総合型選抜全体で見ると一般選抜の入学者と比較しても見劣りしない水準のGPAを獲得していますが、『探究評価型』単独で見ると一部で振るわない層がおり、成績の差があるのは課題です」と奈良氏は述べる。

 この原因として奈良氏は、大学として求める特性を持つ探究型学生(教わるより自分でやってみることが得意という学生)が、初年次教育の「教養科目」や、100分間ひたすら講義を聞きノートを取り続ける伝統的な講義形式の授業に適応できず、移行期にリアリティショック(大学の学びに適応し、社会化する過程で起こる本人の認識と現実とのズレ)を起こしている可能性を指摘する。社会連携のプロジェクト型授業(例:経営学部の1年生が全員でビジネスプランを競う『K-biz』)では抜群の成績を修めるものの、外国語や教養等の必修科目や選択必修科目を落として全体のGPAを下げているケースが推測されるという。

 「探究評価型に期待されている『社会連携教育への適合力』『専門教育において良いアウトプット(卒業論文)を出す将来性』からすると、初年次教育だけで何かを判定するのは酷かもしれません。しかし、大学のお作法に慣れてもらう必要も当然あるので、そのあたりをどう見るのかが難しいところです」と奈良氏は補足する。

 そのため、全体のGPAや修得単位数だけで学生を一律に評価するのではなく、特定の象徴的な科目(マイルストーン科目やキャップストーン科目)での成果に注目し、学生の特性を正当に評価・追跡できるような「教学・入試・教務の連携システム」を考案していくことが、今後の重要な課題であるという。

異質な学生が混ざり合うコミュニティーの意義

 入試段階を多様化させ、様々な背景や得意分野を持つ学生を確保することには大きな意義がある。大学の学びでは、「誰から教わるか」よりも「誰と一緒に学ぶか」が成長において決定的に重要になると奈良氏は指摘する。

 「社会連携教育ではグループワークやPBLが中心となるため、同質的な学生が集まるよりも、少しでも異質な経験を持つ学生達が混ざり合い、刺激を与え合う疑似社会的な環境(コミュニティー)を作ることが、学生の成長を最大化させます。そういう意味で、本学は総合型選抜だけでなく入試設計全体で多彩な属性の学生を確保し、大学教育を豊かにしていきたい」。

文理選択の弊害打破への挑戦

 多様性確保に関連して、関東学院の入試・広報におけるもう一つの大きな挑戦が、3年前から実施している「理工系体験プログラム」である。その背景には、同大学の理工学部における募集上の課題だけでなく、日本で理系志望の生徒が増えないという深刻な危機感がある。

 アドミッションズセンターの鈴木 亮氏は、以下のように説明する。「多くの高校へのヒアリングを行った結果、本学のボリュームゾーンにあたる偏差値帯の生徒の中で理系選択者が増えない最大の障壁は、高校1年生の極めて早い段階で行われる文理選択にあるのではないかと仮説を立てました。ある高校では、教科書の発注の都合(9月締切)から文理選択時期を6月にしており、高1の初夏に数学への苦手意識だけで、消去法的に文系を選択してしまう生徒が後を絶たないのが実情です」。

 こうした状況を打破するため、当初高校1年生を対象に行っていた理系体験を、中高一貫校の中3をターゲットに実施するようにしたという。この取り組みを3年間継続した結果、対象の中高一貫校における理系選択者の人数が1.2倍に増加するという大きな成果を上げた。「これまで生徒が思い描く『理系』は情報系か医療系に限定されがちでしたが、このプログラムを通じて『初めて土木という分野を知った』『電気系を女の子が目指してもいいんだと気づいた』と進路選択を変更する生徒が実際に現れています」(鈴木氏)。

 文科省が2026年4月に発表した「人材育成システム改革ビジョン」でも、2040年までに普通科高校の文理比率を半々にすることが明記されている。「本学としては、初任給が30万円を超え、30代で年収1000万円プレーヤーを目指せるような理系・ものづくりの魅力を、今後も待遇面や社会的意義を含めてリアルに発信していきたい。そして、日本全体の『文理選択』という概念そのものを無くしていく先進的なフックにしていきたいと考えています」と鈴木氏。

 探究学習の評価、文理選択の弊害の打破。高校の今に力強く伴走し、大学教育に接続する関東学院大学の今後にも注目したい。


(文/鹿島 梓)


【印刷用記事】
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