2030年までが大学経営改革の正念場、教職員の意識改革が課題に(カレッジマネジメント Vol.239 Jan.-Mar.2024)

初めての理事長調査から見えてきた強い危機感

 本格的な人口減少時代を迎えて、大学経営は転機を迎えている。2023年度入学者における定員未充足の私立大学は、初めて5割を超えた(日本私立学校振興・共済事業団)。日本人の18歳だけを対象とした従来の日本型大学の在り方では、存続自体が危うくなっていくのは明白である。折しも文部科学省中央教育審議会では、「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について専門的な調査審議を行う」ことが諮問され、大学分科会に「高等教育の在り方に関する特別部会」が設置された。

 そこで、今号では、大学を持つ学校法人の理事長にアンケートをお願いし、将来の学校経営に関する課題認識と検討中の施策についてご回答頂いた。一言で“大学を持つ学校法人”といっても、その実情は非常に多様であること、理事長向けの調査はあまり事例がないことから、どこまで全体像を示すことができたのかは不安ではあるが、自ら学校法人経営に尽力されている東京家政学院理事長の吉武博通先生に多大なるご協力を頂き、できる限りの分析を実施した。アンケートにご協力頂いた皆様には改めてお礼を申し上げたい。

 では、初めての理事長調査から見えてきたものは何だったのか。誤解を恐れずに大きくまとめると以下のようになる。

1.回答者の9割が、淘汰・再編は避けられない認識
2.小規模法人は直近5年以内に危機感、中規模法人以上は10年を見越した危機感
3.様々な施策を実施しているが、十分な評価・検証はまだできていない。
4.緊急の課題は学生募集、教育力向上、広報・ブランディング
5.今後の課題として重要なのは、資金面に次いで教職員の意識改革・能力開発

法人内で改革推進の組織文化をどのように醸成していくか

 仕事柄、全国の大学を訪問して気づいたことがある。それは、大学における改革の組織文化である。改革を進めている学校法人は、PDCAサイクルを回し、その成果を実感しているので、改革を止めることが怖くなる。一方、改革・改善をしていない学校法人は、改革を特別のものとして捉えており「改革は失敗できない」「改革は疲れる」「評価されるのは嫌だ」といった組織文化が定着してしまっているため、改革・改善すること自体が怖くなってしまっている。これが、5年、10年続けば、両者の間に差が出てくるのは当然である。早期に改革を進めたほうが、失敗も含めてその成果を実感しやすいし、リカバリーも可能だ。そう考えると、今回の調査結果において、理事長が考える今後の課題として、教職員の意識改革が資金面に次いで上位にあがっているのは理解できる。

 2024年度入試は18歳人口が一時的に底を迎える。しかし、その後2030年頃までは、18歳人口はほぼ横ばいで推移する。まさに、文部科学省が言うところの「改革集中実行期間」と合致する。この期間に改革を実施しなければ、人口減少フェーズに入り、何をやっても成功が難しい時代に入ってくる。まさに、この5年間が大学経営改革の正念場となるであろう。

 

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リクルート進学総研所長・カレッジマネジメント編集長

小林 浩

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