新世紀のキャンパス 多摩美術大学/上野毛キャンパス

本部棟・講堂の外観。独創的ながらも既存の棟や、近隣の構造物と自然に調和する。
2026年3月、多摩美術大学の上野毛キャンパスに、創立90周年記念事業として進めてきた新棟(本部棟・講堂)が竣工した。この新棟は、1935年の創立以来、同大学の教育・研究の要となってきた上野毛キャンパスの再整備プロジェクトであり、2026年度より利用が開始された。
再整備の背景には、校舎の老朽化や耐震性への対応といった物理的な課題に加え、現代のアート・デザイン教育に求められる「創造環境の変化」への適応、そして「地域に開かれた大学」としての役割を強化するという狙いがある。
設計は、建築家の内藤 廣氏が担当。設計の礎となったのは、青柳正規理事長が、依頼時に内藤氏に伝えた『雨露を凌ぎ、凍てることなく鉛筆が持て、熱中症の心配なく、友と師とふれ合い、競い合い、絆を結ぶことのできる清朗な覆いさえあればいい』というメモの一節である。このコンセプトを具現化し、新棟は学生を優しく守る「大屋根」と、可能性をどこまでも広げる「高い天井」を備えた、簡素ながらも力強い空間として構成されている。なお内藤氏は、設計の途中段階から、多摩美術大学の学長に就任(2023年4月)している。
新棟は本部棟と講堂の2つの棟から成り、教育・展示・交流の3つの機能を軸に、以下の特徴を持つ。
1. 創造活動を支える教室・スタジオ
平面、立体、映像等多様な表現に対応できるよう、高い天井高を確保。自然光を効果的に取り入れ、学生が制作に没頭できる環境を整備。本部棟2~4階。
2. 地域に開かれたギャラリー「サーラブルゥ(Sala Blu)」
環状8号線に面した、天井高約6mの大空間。可動パネルにより柔軟な展示が可能で、学生の作品発表の場であると同時に、地域住民が気軽にアートやデザインに触れられる交流拠点としての役割を担う。本部棟1階。
3. 独創的な講堂「オクルスホール(Oculus Hall)」
環状8号線と駒沢通りの交差点に面した緩やかな曲線を描くドーム型の外観が目を引く。「オクルス(眼)」の名の通り、ドーム頂部の天窓からは柔らかな光が差し込む。木質の内部壁には吸音材が施され、演劇や舞踊、音楽等の身体芸術にも対応できる優れた音響環境を実現。
4. 交流テラス「サブチェロ(Subcaelo)」
最上階に位置するこのエリアは、学科の垣根を超えた交流を促す「コモンズ(共有空間)」であり、学生や教職員をはじめ、本学の学びに関わる人々が自由に打ち合せや意見交換を行うことができる。本部棟5階。
5.キャンパスの象徴となる「大屋根」
建物全体を覆う大きな屋根は、中庭に向かって開放的な景観を作り出しており、学生たちが集い、賑わいを生むキャンパスの新たなシンボルとなる。
教育的価値の深化と、地域社会への貢献
学びを教室の中だけで完結させるのではなく、社会との接点を通じて深化させることを重視している。新棟での展示や公開講評、地域連携プロジェクトを通じて、学生は実社会の中で自らの表現を問い直す機会を得る。同時に、大学が持つ「美と知」のリソースを地域社会に広く提供することで、世田谷区という立地を活かした文化発展に寄与することを目指す。
この新棟は、単なる校舎の建て替えで¥はなく、創立90周年を迎えた多摩美術大学が次の100周年に向けて「創造性の拠点」として歩みを深める重要な一歩である。

本部棟屋外階段は幅1.9m。学生がゆとりを持って行き交い、視線が交差する開放的な動線を実現。

正門の大学銘板。1970年前後、本学を中心に展開された「もの派」への敬意。無加工の鉄の素地が、その精神を今に伝える。

本部棟の大屋根の下の開放的なテラスは、雨風をしのげる安心感とともに、世田谷の街並みを享受できる。

環状8号線に面するギャラリー「サーラブルゥ」は、透過度の高いガラスを採用し、外部からの視認性を高めている。

学生・教職員の交流テラス「サブチェロ」。広々とした寛ぎの空間が、自由闊達な意見交換を促す。

本部棟の5階テラスから。昼とは異なる夜景を楽しむことも。

本部棟2~4階の教室・スタジオは天井高を確保し、様々な授業・創作活動に対応している。

オクルスホール内観。演劇等も含めた多様な発表・展示に対応している。

交差点に面した開放的なオクルスホールの窓。街を行き交う人々や車列から、大学の日常をふと窺うことができる。

半円形のトップライトからは自然光が差し込み、木天井とともに安らぎを感じる空間を演出。
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