総合学園として挑むオープン・イノベーション/立命館大学

立命館大学キャンパス


徳田 昭雄副学長

 立命館大学(以下、立命館)は2021年6月に起業・事業化推進室を設置した。何故立命館は起業を推進するのか。学校法人立命館副総長・立命館大学副学長の徳田昭雄氏にお話を伺った。

2030年に向けた学園ビジョンと大学中長期計画が示す社会課題解決の方向性

 学校法人立命館が2018年に策定した学園ビジョンR2030では、「挑戦をもっと自由に」をビジョンキャッチに、「新たな価値創造の実現」「グローバル社会への主体的貢献」「テクノロジーを活かした教育・研究の進化」「未来社会を描くキャンパス創造」「シームレスな学園展開」「多様性を活かす学園創造」の6つの政策目標を掲げている。それを受け、立命館大学は中長期計画「R2030立命館大学チャレンジ・デザイン」において「社会共生価値の創造」を掲げ、社会課題の解決に向けて価値創造とイノベーションに取り組む「次世代研究大学」の実現を目指すことを定めた。

学園のDNAに根差した原点回帰

 こうした流れを背景に開設したのが起業・事業化推進室である。設置の目的を、徳田氏はこう話す。「我々は、起業家マインドを持った学生を育成したい。本学に関わる人材が社会課題の解決を多様なレベルで実装し、『起業するなら立命館』という社会的評価の確立を目指して、また、アントレプレナーシップを育てる文化を醸成する必要性から、専門部署の開設に至りました」。専任職員は2名、研究部門等の兼務者5名ほどで構成される。

 図に示す通り、起業・事業化推進室は先行して展開していたRIMIX(リミックス)とBRITZ(ブリッズ)を包含する体制「SAND BOXりつめい」の要だ。それぞれの内容を見ていきたい。


図 立命館の起業・事業化推進機能「SAND BOX りつめい」全体像


RIMIX:社会事業家育成のプラットフォーム

 まず、2019年より展開するRIMIXは、社会課題を解決する社会事業家育成のプラットフォームである。社会課題解決のマインド醸成から起業支援までの一連の取り組みを可視化し、学園内外の連携等によって拡充を図り、起業・事業化までの伴走を幅広く行う仕組みだ。立命館は2つの大学と5つの附属校を抱える総合学園であり、学園全体で行うアントレプレナーシップ教育としてこの仕組みが設計された。初等中等教育で進む探究学習のアウトプットの1つとして、良い波及効果を学園全体にもたらす期待も込められている。

 事業の軸となるのは学生・生徒のアイデアだが、思いだけで事業化に至るほど甘くはない。RIMIXではソニー(株)が提供するSSAP(Sony Startup Acceleration Program)と連携し、社会ニーズに対する問題意識の磨き直しやビジネス化に必須のファイナンスも行い、最終的には年末に実施される「総長PITCH THE FINAL」に挑む。2020年度は合計29チーム・93名の学生・生徒が挑戦した。現在3期目を迎える。

BRITZ:研究シーズを事業化する支援体制

 もう1つのBRITZは、教員・大学院生・卒業生を対象に、テクノロジーを軸にした研究シーズを事業化し、社会還元する目的で設立された事業だ。発掘→価値創造→事業展開→会社設立・事業開始の4つのフェーズに分け、外部協力機関との連携のもと、各シーズに応じた支援を実施する。従来は研究部が所轄していたところ、推進室設立のタイミングで移管された。「即時性・即効性がなくても将来性のあるシーズにはきちんと投資して、マネジメントしながら継続性を担保したい」と徳田氏は言う。研究高度化に加え、社会への実装を意識した研究を蓄積していくという。

2つのランキングを重視し社会課題解決を推進する

 こうした社会への価値創出を強化するに当たり、立命館が重視する指標が2つある。1つは、イギリスの高等教育専門誌「Times Higher Education」による、大学の社会貢献をSDGsの枠組みで評価する「THEインパクトランキング」。もう1つは、高等教育の世界的評価機関 Quacquarelli Symonds社によるQS世界大学ランキング。論文業績が色濃く反映されるため、理系中心のBRITZで特に指標とされている。一方で、立命館が目指す次世代研究大学とは、決して理系に閉じた話ではなく、いかに人文社会科学系も含めた研究力を総合的に向上させていくのかは大きな課題だ。「ランキングありきで文理分断せずに、本気の文理融合の研究大学を目指したい。だから、研究から社会実装へのプロセスの中で、理系と文系の先生が同じチームでプロジェクトに当たるようなスキームを構想しています」と徳田氏は言う。テクノロジーとマーケットは離れているため、それぞれに秀でた専門家が協働することで大きな価値になる。こうした「実践知」を立命館の軸足に、学園の将来像を描いていくという。

挑戦をもっと自由に

 立命館がこうした動きを加速する理由がもう1つある。「日本は失敗を許さない文化が根強く、PoC(Proof ofConcept:実証実験)ばかりで実装が少ない。でもそれでは社会課題は解決せず、アントレプレナーシップどころか、叩かれるのを恐れて何もしない人が成功するような歪んだ風潮を助長することになる」と徳田氏は危惧する。それではいずれ、新しい価値創出を担う人がいなくなってしまう。イノベーションを理念とする大学として、そうした危惧は捨て置けない。立命館が掲げるビジョンは「挑戦をもっと自由に」だが、「『SAND BOXりつめい』の中では『失敗をもっと自由に』を掲げたい」と徳田氏は笑う。立命館発のベンチャー企業は2017年度に26社だったところ、2020年度には60社と2.3倍にもなった。2025年には、起業・事業化推進室に関連する企業の価値・評価総額300億円以上を目指すという。

 社会への価値創出の実践を大学の中長期的な軸に据えた立命館。現在の日本に絶対的に不足するイノベーション人材供給の今後に引き続き注目したい。


(文/鹿島 梓)


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