リカレント教育最前線[15]社会連携機構 地域人材育成部門 共同教育講座/新潟大学
現場で見いだされた課題を起点にリスキリングプログラムを次々開設。
地域協働・共同研究と歩みを揃え地域産業の創出を目指す


現場課題を起点としたプログラム展開を支える「共同教育講座」というスキーム
2026年3月18日、「新潟県リスキルプラットフォーム」の主催により「リカレント教育シンポジウム」が開催された。文部科学省や新潟大学からの発表に続き、「外国人建設技術者リーダー・リスキルプログラム」を受講したベトナム人技術者や「企業変革リーダー・リスキルプログラム」を受講した県内建設会社の女性社員が登壇。新潟大学が地域社会と協働で進めてきた社会人向けリスキルプログラムの実績と今後の展望を、広く共有する場となった。
新潟大学の組織的なリスキリングプログラムは、2022年度「地域社会インフラ整備の担い手育成リスキルプログラム」にはじまる。この日も登壇した新潟大学社会連携機構副機構長の阿部和久特命教授は言う。「私が長く関わってきた建設業界では、新規入職者の減少と技術者の高齢化が進む一方、自然災害の激甚化やインフラ老朽化対策へのニーズが増大し、深刻な人材不足に直面しています。このプログラムは、現場の強い課題感に対しどうすれば貢献できるか模索していた我々教員と地域企業との対話からスタートしたもの。折しも経済産業省の補助金事業のタイミングが重なったことで具体化しました。大学教育を受けていない若手技術者や中途採用者を対象に、大学だからこそ提供できる理論や原則と、企業によるすぐ役立つ技術教育を組み合わせた教育課程を構築。アップデートを重ね、今年度も多くの技術者が受講しています」。

この事例は学内に波及。他分野への水平展開を促した。「『自分達も現場の課題解決に貢献したい』という声が上がりました。例えば『次世代健康経営共創講座』は医学部の教員が主導して立ち上げたベンチャー企業との連携からスタートしたもの。『Smart化を推進するためのICT講座』は、情報通信技術の分野で課題を感じていた情報系の教員が起点となっています」(阿部氏)。冒頭で触れた2つのプログラムもこうした取り組みの一環であり、地域人材育成部門が実施するプログラムは2025年度実績で5つまで増えた。
これらの機動的なプログラム展開を支えているのが、同部門の「共同教育講座」というスキームだ(図1)。これは、共通の課題を持つ地域企業をコンソーシアムとして組織化し、大学と協働で次世代型の教育プログラムを開発・実施する枠組み。機構がニーズの集約から産業界との組織の形成、そしてカリキュラム設計や運営をサポートしていくことで、講座の立ち上げのハードルを下げようという仕組みである。起点となるのは現場の教員が地域の企業とやり取りするなかで見つけ出した課題だ。

「しかし、そこから産業界共通のニーズを集約し、現場だけで形にしていくというのは大きな負担。そこで、私をはじめ地域人材育成部門のスタッフが中心となり、関係者との対話から連携体制の構築、プログラムの設計まで支援。以降、教員や企業の方々が主体となって進められるようサポートしていきます」(阿部氏)。
現在、社会連携推進機構(図2)地域協働部門では「社会インフラマネジメント」や「おいしさDX」等、多様な社会課題解決のプロジェクトが進行している。これらの活動が進むにつれ「企業の安全文化を診断する人材」や「フードビジネスの担い手」等、プロジェクトを推進するための新たな人材育成ニーズが必然的に生じてくる。「担当教員や企業の方々と日々意見交換を行いながらそうしたニーズを探索。実現可能性の高い案件を共同教育講座の仕組みに乗せ、対象分野を拡大、プログラムを増やしていきます」(阿部氏)。

社会人を対象とする人材育成は地域の魅力ある産業の創出への近道
新潟大学は現在、FLAGs(未来を先導する世界トップレベル大学院教育拠点創出事業)、J-PEAKS(地域中核・特色ある研究大学強化促進事業)といった大規模事業に採択され、日本の研究大学群の一翼を担うべく教育・研究体制の改革を進めている。また3月には、オイシックス・ラ・大地株式会社と共同で、大学院に新たな学位プログラムとして「フードテック・イノベーションプログラム(仮称)」の設置準備を開始したと発表。経済産業省が推進する「契約学科制度」の趣旨に添い、世界の食産業にイノベーションを起こす人材の育成を図ろうという計画である。
社会人を対象とする取り組みは、大学全体の将来構想においてどういった位置づけとなるのだろうか。理事として社会連携・経営戦略を担当する川端和重氏はこう語る。
「新潟という地域は、食や農をはじめ様々な資源に恵まれる一方で、地域産業の空洞化という課題を抱えています。『食』をはじめ地域の特性を表すような魅力ある産業を大学を核として創出し、地域の産業自体を発展させていくこと。それこそが、我々が地域に拠点を持つ国立大学として果たすべきミッションだと考えているのです。
ですから、新潟大学におけるリスキリング教育は、単なる個人のスキルアップ支援を目的とするものではありません。最前線の地域課題をイノベーションのテーマとしてその担い手を育成し、魅力ある産業を育成していくうえで一番の近道にある取り組みだと考えています」。
こうしたダイナミックな動きを大学全体として推進していくうえで課題となるのが、大学組織の「縦割り構造」「社会との結束点の不足」の解消。その鍵となるのが、本誌240号でも紹介した「UA職(University Administrator)」の組織的な展開である。「UAを戦略的に採用することで、これまで個人の教員に依存していた連携活動を、事業化を知っている専門人材によってマネジメントできる。そうした組織体制を構築しています。制度の整備を進め、学内に点在する知と現場の自発的な活動を大学全体の経営戦略へと直結させていきます」(川端氏)。
(文/乾 喜一郎 リクルート進学総研特任研究員[社会人領域])
