地域課題探究を通じて、地域の課題に向き合う姿勢を育成/長崎県立松浦高等学校

2022年度の現行学習指導要領の施行とともに高等学校で始まった「総合的な探究の時間」。各校はどのようにカリキュラムを作り、生徒を伸ばしているのか。実践事例として長崎県立松浦高等学校を紹介する。取り組みの詳細を同校教諭の鶴田高悠氏に伺った。
- 長崎県松浦市にある1962年創立の県立高校。全日制地域科学科(定員:1学年80名)、商業科(同40名)からなる。
- 2017年度より、地域の課題について調査し、その解決策を考え実践する地域課題解決型の探究学習に取り組んでいる。
- 地域の行政・事業者との関わり等を通じて、他者と積極的にコミュニケーションをとる姿勢や、困難や課題に直面した際に乗り越えていく力等が培われている。

地域の課題について調査し、解決策を考え実践する3年間のカリキュラム
長崎県立松浦高等学校(長崎県松浦市)が取り組んでいるのは、地域の課題について調査し、その解決策を考え実践する地域課題解決型の探究学習だ。2017年度より2年次の取り組みとして開始し、2020年度より3年間のカリキュラム「まつナビ・プロジェクト」に発展させた。1年次を「プレまつナビ」、2年次を「まつナビ」、3年次を「ポストまつナビ」と位置づけ、1年次は地域について理解を深めながら探究のスキルを身につけ、2年次に班ごとに設定したテーマに沿って探究活動を進め、3年次は1・2年次の学びを進路につなげていく(図)。
育成を目指すのは、「情報理解・収集力」「プレゼンテーション力」「テーマ設定・課題発見力」「コミュニケーション力」「論理的思考力」「キャリア形成力」「ふるさと貢献力」と同校が設定した7つの資質・能力だ。「これらの資質・能力をもとに、将来的には郷土愛を持ち、生涯にわたって地域の課題に向き合っていく姿勢を育むことを主な目的としています」と鶴田氏は説明する。
図 「まつナビ・プロジェクト」概要
(松浦高校 2026年度「ふるさと教育」体系図より)
地域の仕事・人・課題を知り、自身の興味・関心とすり合わせて探究テーマを設定
具体的な取り組み内容を見ていこう。1年次は、地元企業での3日間のインターンシップや地元企業による企業説明会「松浦未来発見講座」、松浦市役所による「松浦再発見研修会」等を通じて地域について理解を深めながら、学年末までに2年次の探究活動のテーマを設定する。併せて、産業能率大学が提供する「協働的学習者育成プログラム」を受講し、グループワーク等を通じて情報を収集・整理する力や意見をまとめる力を培っていく。
それぞれの狙いについて鶴田氏は次のように説明する。「インターンシップは、地域の中の仕事と今後探究活動で関わっていく地域で働く人々を知るとともに、情報収集や電話でのアポイント取得、インタビュー等のスキルを培う機会としています。また、自身の将来について考える進路探究の機会にも位置づけています。松浦未来発見講座は、企業の方々に事業内容や松浦で事業を行う意味、今後探究学習で協働可能な取り組み等をお話しいただきます」
松浦市役所による「松浦再発見研修会」は、2年次の探究テーマを考える場だ。事前アンケートで生徒達が興味を示した市役所の業務分野から、6〜7つ程度の担当課の職員に来校を依頼。各課が抱える課題と解決のための取り組みについて話してもらう。「市が直面している課題と、自身の興味ややりたいこととを照らし合わせながら、2年次に探究していきたい課題と自分なりのアプローチ方法をまずは個人で考えていきます」と鶴田氏は説明する。
2年次の探究活動はグループで行うが、まずは個人単位でテーマを考えるのが同校の進め方だ。プレ構想発表会で各自の構想を発表したうえで、テーマに類似性や関連性がある生徒達で班を組み、改めて班ごとに探究課題とアプローチ方法を決めていく。その狙いを鶴田氏は「最初からグループを組むと、意見の強い生徒のテーマになってメンバーのモチベーションに差が出てしまったりする場合があることから、まずは個人単位で考えることを大事にしています」と説明する。
そして、2年次は班ごとに設定したテーマに沿って探究活動を進めていく。これまでの取り組み例を挙げると、地域の防災意識や災害対応力の向上を目指して松浦市が推進する「自主防災組織」を同校に立ち上げた班や、市の名産品であるアジフライの製造過程で大量廃棄されるアジの鱗の利活用策として、鱗に含まれるコラーゲンを用いたハンドクリームの生産・販売を目指した班、アジフライの製造で生じる廃油を用いた石鹸開発に挑戦した班等があるそうだ。
(左)自主防災組織を立ち上げた班が地元の建設会社と制作した防災ベンチ。平常時はベンチとして使用し、災害時には食料の調理や暖をとることが可能/(右)松浦高校の知名度向上を目指し、同校のマスコットキャラクター・まつドリーと中高生に人気のキャラクター「おえかきさん」のコラボ靴下を開発し販売
考えを実践・行動に移すことを重視
各班のテーマや取り組みは、1年次末の班別構想発表会、2年次6月頃の中間発表会、10月頃の課題探究発表会で校内外に発表・共有する機会を設けているが「課題探究発表会がゴールではない」ということを生徒達には伝えているという。
「自分の興味のあることを突き詰めていくことこそ、探究学習の本質です。だからこそ、生徒達には発表会をゴールとするのではなく、解決したいと決めた地域課題をどのように解決していくのかを突き詰めてほしいと伝えています。これまでも、課題探究発表会では途中経過を発表し、その後も自主的に企業さんとやりとりをしながら商品開発を継続したり、気になることを調べたりして活動を続ける生徒がいました」と鶴田氏は話す。
加えて、鶴田氏は個人の考えとして「『動く』ということを大事にしてほしいと考えて全体を運営しています」と話す。「従来の調べ学習とは異なり、考えたことを実践するところにこそ探究学習の面白さがあります。行動するからこそ、失敗すれば修正に動き、うまくいけばより良くする方法を考える等、周りの意見をとり入れながらどんどん前進していくことができる。だから、生徒達には行動に移すよう言っていますし、年に1日だけではありますが、まる1日探究学習に取り組む『フィールドワークの日』も設定し、普段の週2時間のなかではできないような遠方へのインタビュー調査やフィールドワーク、イベント等に取り組む時間としています」と続ける。
なお、まつナビ・プロジェクトの様々な場面で協力を得ている企業・団体の多くは、2022年度に同校の探究学習の支援を目的に設立された「まつうら高校応援団」の参加事業者だ。松浦市役所や松浦商工会議所、市内外の事業者、長崎大学、長崎県立大学等、約60の組織が参加し、生徒が各事業者に直接連絡をとることの了承も得ているという。また、2年次の探究活動では、長崎県立大学の学生が1班につき1人、壁打ち相手となって助言を行う体制をとっている。
また、課題探究発表会後の2年次冬から3年次は、探究のまとめに取り組んだうえで培った力や学びを進路につなげていくことを目指し、進路探究に取り組むカリキュラムが組まれている。3年次に早めに進路が決まった生徒は、「ふるさと恩返し探究」として、お世話になった市への恩返しとしてできることを考え、実践する。
他者との積極的なコミュニケーション姿勢が培われている
3年間の探究学習を通じて、「育成を目指している7つの資質・能力については、しっかりと身につけられていると感じる」と話す鶴田氏。そのうえで、生徒達のコミュニケーション能力と困難や課題にぶつかった際に乗り越えていく力の伸長に目を見張るものがあると話す。
「強く感じるのは、大人に対して臆することなく積極的にコミュニケーションを取ることができるようになることです。それは、本校の教育活動に地域の方々がたくさん来てくださり、また、生徒達が地域の事業者の皆さんに電話をかけたり協力を依頼したりした際に嫌な顔ひとつせず受けて入れてくださる環境があるからこその成長だと感じます。そうして地域の方々に受け入れられてきたからこそ、進学・就職に向けて面接練習をする際にも自分の意思を素直に話すことができる生徒が多く、非常に心強く思います」
今後の課題としては、「探究学習と進路・キャリアとの接続」と「3年次の探究活動のあり方」の2点を挙げる。
「『探究してきたことを大学でさらに深めたい』と探究学習がキャリア形成につながっている生徒がいる一方、結びつかない生徒もいるという現状があります。例えば、個人探究も可能な体制や、探究したことと進路とのつながりを生徒が意識できる教員の働きかけ方等を模索していければと思っています。また、3年次のふるさと恩返し探究は毎年ゼロベースで3年生に考えてもらっているので、もう少しうまく運営できる仕組みを考えたいですし、探究に終わりはないと言いながらも実質的には2年生の秋の課題探究発表会で区切りをつけている面があるので、3年次も探究活動を継続したり、あるいは、新たなテーマで取り組んだりする時間を作れないか、発表会の時期等も含めて模索していきたいと考えています」と鶴田氏。同校の探究学習のこれからに期待が膨らむ。
文/浅田夕香(2026/8/25)
