地域の課題解決のための実践を通じて「変革者」を育成する/福島県立ふたば未来学園高等学校

福島県立ふたば未来学園高等学校


 2022年度の現行学習指導要領の施行とともに高等学校で始まった「総合的な探究の時間」。各校はどのようにカリキュラムを作り、生徒を伸ばしているのか。実践事例として福島県立ふたば未来学園高等学校を紹介する。取り組みの詳細を同校教諭の塩田 陸氏に伺った。

POINT
  • 福島県双葉郡に2015年に開校した県立高校。全日制総合学科に「アカデミック系列」「トップアスリート系列」「スペシャリスト系列(農業・工業・商業・福祉)」の3つの系列が設けられている。2019年には中学校が開校し、併設型中高一貫校となった。入学定員は中学校60名、高校160名。
  • 開校以来、地域の課題を探究し解決するためのプロジェクトを企画・実践する課題解決型の探究学習に取り組んでいる。


福島県立ふたば未来学園高等学校 企画研究開発部 主任 塩田 陸 氏

地域・世界の課題と自身の夢を重ね合わせ、当事者として自ら行動できる生徒を育てる

 福島県立ふたば未来学園高等学校(福島県双葉郡)は、2011年に起こった東日本大震災と福島第一原子力発電所事故により住民の多くが避難を余儀なくされた双葉郡において、教育の継続と地域の復興を担う高校として2015年に開校した。

 開校当初より、復興の課題を乗り越えるとともに、全国・世界の課題解決に貢献し、持続可能な世界を実現していく「変革者」の育成を目指して、地域の課題を探究し解決するためのプロジェクトを企画・実践する課題解決型の探究学習に取り組んでいる。

 探究学習のカリキュラム設計と運営を担う企画研究開発部で主任を務める塩田氏は、探究学習を通じて育成を目指す人材像として次の3つを挙げる。

 「地域や世界の課題と自身の夢や進路の希望を重ね合わせ、当事者として自ら行動できること。多様な立場や価値観によって対立・緊張状態にあるような場においても、互いの納得解を見つけて協働的なネットワークを作っていけること。そして、地域の資源に価値を見いだしたり、地域に新たな価値を創造したりできること。これらの力を身につけた生徒を卒業させたいと思っています」

 そのために、3年間の探究学習のカリキュラムを下図のようにデザインしている。


図 探究学習の3年間の流れ
図 探究学習の3年間の流れ

 まず、1年次前半に取り組むのが、地域の課題を知り、演劇で表現する活動だ(学校設定科目「地域創造と人間生活」2単位)。双葉郡内を巡るバスツアー等を通じて地域住民にインタビューを行い、そこから見えてきた課題について演劇を創作し発表する。

 「本校はトップアスリート系列を中心に全国から生徒を受け入れていますし、双葉郡出身者に限らず県内外の様々な地域から生徒が入学してきます。そうした生徒達が双葉郡の課題を知り、理解を深めるには、演劇を通じて地域の人になりきることから始めるのがよいだろうと開校当初から取り組んでいます。加えて最近は、学年開きや協働性を育むためのコミュニケーション教育としても位置づけています」(塩田氏)

 そして、1年次の後半にはプチ探究等を通じて探究の基礎を学びながら、自身の探究テーマを検討。2年次進級時に所属ゼミを決定し、1年間、ゼミの担当教員の支援を受けながら探究活動を進めていく。その内容や成果は3年次5月の生徒研究発表会「Futaba Mirai Expo」で共有し、その後は進路との接続を意識しながら自身の取り組みと学びを振り返るレポートの作成等に取り組む(学校設定科目「未来創造探究」。2年次2単位、3年次1単位)。

 同校の特徴として、2・3年次はゼミに所属して探究活動を進めていく点がある。「原子力災害・伝承探究」「地域社会・経済産業探究」「自然科学・地球環境探究」「共生社会探究」「人間科学・文化・芸術探究」「スポーツ医・科学探究」の6つのゼミがあり、1つのゼミを複数の教員が担当して所属生徒の探究に伴走する。

 「開校当初は、『アグリビジネスゼミ』『メディアコミュニケーションゼミ』等、双葉郡の復興を前進させるための課題に焦点を当ててゼミを設けていました。郡内全ての地域で順調に復興が進んでいるとは言いがたい状況ではありますが、復興のフェーズの変化をふまえ、生徒達の興味・関心を出発点に徐々にアカデミックな物事につなぎ、高度な知見やグローバルリーダーとしての素質を持って卒業できるよう、数年前にゼミの編成を改めました」(塩田氏)

調査のアクション、解決のためのアクションを重視

 1年次後半〜2年次の探究活動では、課題設定、調査、課題解決のための実践(プロジェクト)、考察、新たな課題の設定を繰り返していくが、近年力を入れているのは、調査をもとに問いや課題を見いだすことと、そのうえで解決のためのアクションを起こすことだという。その狙いを塩田氏は次のように話す。

 「開校当初から『課題解決のためのアクションを起こすことが大事』と言ってきたこともあり、これまで、イベントや商品開発等、多くのプロジェクトが実践されてきました。ただ、なかには『なんとなく』から裏付けのないまま課題を設定したり、『キラキラしたアクションをしてみたい』という動機が先行したりする生徒も見られるため、そうではなく、地域の方々へのヒアリングや調査を丁寧に行い、そこから課題を見いだし、そのうえで自分ができることや興味・関心を生かした解決のアクションを積極的に行っていこうということを伝えています。調査が甘い生徒もいますが、活動しているうちに少しずつ問いが更新されて深まっていくよう、伴走しています」

 同校では長年の取り組みから、教員の伴走の仕方として「インストラクター」「ファシリテーター」「メンター」「ジェネレーター」の4つの役割を生徒の探究のフェーズに応じて使い分けるというモデルを構築している。

 「問題発見や課題設定、現状分析のフェーズでは、生徒が現状を正しく捉えられるよう、知識等をレクチャーしていくインストラクターの役割を務め、解決のための仮説立案・実践のフェーズでは生徒が本当に取り組みたい内容を引き出したり、ほかの問題とつなげたりするファシリテーターの役割に徐々に移行していく。そして、生徒が実践を振り返り、新たな課題を設定し次のアクションを検討・実践する等自走し始めるときには、メンターとして生徒を勇気づけたり、振り返りを支援したりする役割へと変容していく。加えて、探究に共に取り組むジェネレーターとしての役割も務めるというモデルです」と塩田氏は説明する。

課題を設定し、解決のためのアクションを起こす姿勢が培われている

 3年間の探究学習を経て卒業した生徒からは、「大学の学びに適応しやすい」という声を多く得ているという。「自分でプロジェクトを回してきた経験から、大学でも、問いを立てて調査する、課題解決の取り組みをするといったことをスムーズにできるし、その過程で各種ICTツールも適切に使うことができるようです。また、大学の先生方からは、熱量を持って物事に取り組めることや、分析する力を評価いただくことが多いです」と塩田氏は話す。

 加えて、他者を理解し受け入れようとする態度も育まれているという。

 「地域の人や初対面の人とも積極的に対話しようとする土壌ができていることを感じます。本校は希望者を対象にドイツやニューヨークへの海外研修の機会を設けていますし、海外からの訪問者も多く受け入れています。また、中高6学年という幅広い年齢の生徒や探究アドバイザーとして認定NPO法人カタリバの方々がいて日々交流が生まれていますし、もちろん、地域の方々にもたくさんお世話になっています。こうした多様な人々との豊富な関わりから『自分達が受け入れてもらったように私達も』という気持ちが作られているように思います」と塩田氏は分析する。


写真 フィールドワークの様子
スポーツ医・科学探究ゼミで「温泉とアスリートのリカバリー」をテーマに探究に取り組むグループのフィールドワークでの一コマ。いわき湯本温泉を訪問し、現地の専門家や事業者から温泉の効能や効果的な温浴方法等について学んだ。



2年次のニューヨーク研修の様子
2年次のニューヨーク研修の様子。国連本部等を訪問し、職員や現地の大学院生、世界の同世代に向けて自身の探究の内容と取り組みから見いだした世界への提言等を発信し意見交換を行う。


 他方で、課題として塩田氏が挙げるのが、探究学習を経ての自己理解や進路への接続だ。

 「多くの生徒は、『探究での取り組みと進路先でやりたいこととはつながらない』という認識や、『探究を進路に使う/使わない』という考えを持ちがちです。しかし本来は、地域課題の解決を通じて培った力を日本国内や世界の課題の解決に生かしていくのが、本校が育成を目指す変革者やグローバルリーダーですし、培ってきた資質や能力、素養は進学・就職後にも必ず生きてくるもので、つながらないなんてことはありません。生徒一人ひとりが自分に培われた力を整理し、進学・就職希望先でやりたいこととのつながりを見いだす支援や、個々の探究の学問的な位置づけの提示を教員ができるようにならなければいけませんし、生徒自身も振り返り等によりメタ認知を働かせられるようなカリキュラムを作っていくことが課題です」と塩田氏は説明する。

 その一環として、これまで3年次の未来創造探究で取り組んでいた探究活動に関する論文執筆を、2026年度からは進路への接続を意識しながら自身の取り組みと学びを振り返るレポートの執筆に変えるとともに、教員との対話や近しい進路を志望する生徒同士での学び合い等を通じて、培ってきた力と進路をつないでいく時間を確保していくという。また、生徒研究発表会を、2026年度からは成果を競い合う場ではなく、自身の取り組みと学びを共有し、聴講者との対話を通じて新たな問いや気づきを得る場に位置づける等、生徒や高校を取り巻く状況の変化等に応じてカリキュラム改善を図っている。

 「進学するにしても、就職するにしても、人生はずっと探究です。生徒の探究人(たんきゅうびと)としての成長を見つめ、進路先でさらに探究できるよう、教員研修を通じた目線合わせや生徒からの意見収集等をしながら、カリキュラムをより良くしていきたいと思います」と塩田氏。同校のこれからに期待が高まる。


文/浅田夕香(2026/7/24)