大学を強くする「大学経営改革」[110]淘汰・再編の時代に「存続の意味と形態」を考える 吉武博通

吉武博通 学校法人東京家政学院理事長・筑波大学名誉教授

法政大学との連携強化で新たな発展をめざす

 2026年3月、学校法人東京家政学院は、学校法人法政大学との間で連携強化に関する基本合意書を締結し、両法人連名で公表を行った。

 既に新聞等で報じられているが、本連載で大学経営改革について論じてきた者として、自らの言葉でその経緯や思いを伝えることに意味があると考え、編集部の提案を受けて今回のテーマとした。なお、法人間の連携や将来に向けた経営戦略に関わる事項には、その性格上、公にできる情報に限界があることをあらかじめお断りしておきたい。

 基本合意は、「相互の信頼関係に基づき、将来の連携強化と発展をめざして」締結したものであり、その主たる内容は以下の2点である。

  • 2027年4月1日から、東京家政学院中学校・高等学校を法政大学の系列校とし、校名を「法政大学千代田三番町中学校・高等学校」(予定)に変更する。
  • 法政大学と東京家政学院大学における単位互換をはじめとする教育面での連携を推進する。

 中高系列校化については、本年4月1日に、法政大学附属女子高等学校と共学化後の法政大学附属国際高等学校で校長を務めた和仁達郎氏が校長に就任、新たな学校に向けた中高改革を主導している。また、附属校の2名の教諭が本校教諭を兼任する形で教育活動に加わっている。

 大学については、本学の千代田三番町キャンパスと町田キャンパスが、それぞれ法政大学の市ヶ谷キャンパス、多摩キャンパスに近接し、千代田区、八王子、相模原・町田等コンソーシアムの枠組みの中で、単位互換や地域課題の解決手法を学ぶプログラムの共同実施等連携関係を築いている。これらの連携をさらに推進すべく検討に着手したところである。

 これらの取組を総合的に推進すべく、両法人の総長・理事長及び関係役員を構成員とする「連絡協議会」を設置し、連携強化に向けた具体的な内容の協議を開始している。

 また、本法人では、本年6月に理事任期満了を迎えることから、新たな理事会体制として、12名の理事(本法人の寄附行為上の理事定数は11名から13名)のうち校長を含む4名を法政大学が指定する者とする予定である。

 2027年4月からは、学校法人東京家政学院の下に、東京家政学院大学と法政大学千代田三番町中学校・高等学校が併置されることになり、その点で特異なケースといえるかもしれない。同じ学校法人が運営する附属校とは位置付けを異にするが、設置者変更を行うことなく、校名と学則の変更を届け出ることで、法政大学との連携を深めた新たな教育体制を実現できる点で、双方にとって最良の選択と考えた。

 将来の法人統合の可能性については、選択肢の一つとして排除はしないものの、現時点で明確なことは既述のとおりである。中高の系列校化と大学間連携の推進で、この連携を実効あるものとすることが最大の課題であり、それを通して本法人としても経営基盤を確かなものにしていきたい。


東京家政学院の新たな体制と目指すもの<2027年4月1日以降>


歴史・伝統と立地に恵まれながら近年は低迷

 東京家政学院は、文部大臣の命により英国留学した大江スミが、東京女子高等師範学校教授を続けながら市谷富久町の自宅に「家政研究所」を開設した1923年を創立の年としている。

 2年後の1925年2月、東京家政学院の設立が認可され、4月に家政高等師範部、家政専修部、家事実習部の第1回入学生を迎え入れている。建学の精神は、Knowledge(知識:物事を深く知り、考え、判断する能力)、Virtue(徳性:他者を思いやる人間性)、Art(技術:知識を実社会で活用する力)。頭文字をとってKVA精神と呼んでいる。中学校・高等学校の前身となる高等女学校の開学は1939年4月である。

 このような歴史と伝統を有し、千代田区三番町という恵まれた場所に立地しながら、中高は足元で回復が見られ、SDGs教育で文部科学大臣賞を受賞する等の成果も出ているものの、入学者数の水準自体は低迷が続いている。また、大学も女子大学と家政系学部の志願者がともに減少するなか、定員充足率の低下に歯止めをかけることができていない。

 大学に関しては、私立大学における家政系学部の志願者減少が著しく、直近10年間の減少幅は44%に達している(日本私立学校振興・共済事業団『私立大学・短期大学等入学志願動向』各年度版より筆者集計)。

 一方で、外的要因だけに帰すことのできない構造的な問題があることも事実である。大学も中高も教員の多くは学生・生徒に向き合い、日々の教育活動に真摯に取り組んでいる。素直な学生・生徒が多いことも東京家政学院の良さである。しかしながら、少子化や18歳人口減少、かつ変化の激しい時代にあって組織的変革に取り組んできたかと問われれば、不十分だったと言わざるを得ない。

 また、長期スパンで経営を振り返ってみると、収支を悪化させる部門が常に存在していたことがわかる。それが将来に向けた投資を困難にし、比較的堅調だった部門の競争力も弱める結果となった。

 また、需要の高まりに応じた郊外立地や新学部・学科の設置等も、一時期は経営に大きなプラス効果をもたらしたものの、環境変化の中でこれらがマイナス要因として経営に重くのしかかっている面も大きい。本法人だけに限らず、同様の課題を抱える学校法人も少なくないだろう。結果論になってしまうが、一時の需要増や熱狂の中にあっても長期を見据えた冷静かつ戦略的な判断が法人経営には求められる。

撤退、連携、自力存続・発展の3つのシナリオ

 学外理事を6年務めた後、2020年7月に理事長に就任した。就任直後に当時会計監査を担当していた公認会計士の話を聴き、それまでの理事会の認識を超えて経営の切迫度が高いとの見方を共有した。

 直ちに取り組んだのが経営の可視化である。決算承認の理事会に計算書類を示すだけでは、財政の状況と課題に関する認識の共有はできず、改善も改革も進まない。理事・評議員だけでなく教職員にもわかる形で要点をわかりやすく解説して示すことにした。企業経営であれば当たり前であり、それがあって初めて会社全体あるいは部門単位になすべきことが明確になり、改善に向けた取組が加速される。

 同時に、「撤退」「連携」「自力存続・発展」の3つの選択肢を用意することにした。撤退については自身で試算し、シナリオを考えることでおおよその目処はつけられる。連携については持ち込まれる話を全て聴くようにした。

 その上で、あくまでも自力での存続・発展を目指すこととし、その方策については、教職員が知恵を出し合う形で検討を進めた。この検討に関しては的を絞りきれず、広げ過ぎたことと、当時は非常勤の理事長だったこともあり、全体を上手くコントロールすることができず、大きな成果にはつながらなかった。

 自身の手の内での検討にとどめた撤退について、全面的に募集停止した後も大学は最低4年、中高は最低3年、経営を維持していく必要があることからその間のキャッシュアウト総額を見積もった。その上で、千代田三番町の土地を一旦売却した後に4年間借り入れた場合、賃借料と退職金総額も含めて売却代金で賄える粗い試算を行った。土地に関心を寄せる金融機関やディベロッパーもあり、再開発の提案も受けていたことから、このようなスキームでの撤退のフィージビリティは高かった。

 仮にこのような選択をした後に残るのは、キャンパス跡地に建つマンションと国庫に帰属する残余財産である。これらの結果とこの土地で教育を続けることのどちらが社会的に正しい選択か。自身の中でその結果は自明であり、連携か自力か、学院名を残すか否かは別にして、社会的に意味のある教育機関として存続・発展することが最良の道との決意を固めることができた。

 理事長2期目からは、私立大学改革で豊富な経験と実績を有する福島一政氏を法人経営と学生募集を担当する常任理事に迎え、鷹野景子学長とともに学部改組、共学化、入試改革の3つを柱とする大学改革に取り組んだ。改革初年度の2025年度は入学者数をさらに減少させたが、本年度は久々に回復し、減少にようやく歯止めをかけることができた。ただ、依然として厳しい水準にある。

対等な立場で互いを尊重した対話を重ねる

 自力存続・発展のための改革と並行して、連携に関する情報や提案に関しては機会と捉えて話を聴き、経営の選択肢を増やすように努めた。

 この6年間でもたらされた情報や提案は少なくない。そのうち最も多くの関心が寄せられたのが中高である。附属校や系列校を増やしたい大学は多く、立地面での優位性もあることから当然といえる。もう一つは23区内に4年制大学を置きたいと考えるケースである。直接持ち込まれることもあるし、金融機関等を介して提案を受けることもあった。

 重視したのは、教育機関としての実績と信頼、連携の目的と意義である。特に、相手方にとって、本法人にとって、そして社会にとって意義のある連携となり得るか見極めるように努めた。

 それらの中のいくつかの提案に対しては、守秘協定を結んだり、独占交渉権を付与したりしながら、真摯かつ誠実に交渉を重ねてきた。規模も小さく、厳しい経営環境に置かれた本法人に関心を示し、魅力ある構想を提案いただいた関係各位にこの場を借りて感謝の意を表したい。

 交渉を通して、東京家政学院が客観的にどう見られているのか、強みや課題は何か、改めて気づかされることが多かった。また相手側の戦略の一端を垣間見ることができ、貴重な機会となった。

 そのなかで、最終的に法政大学と合意に至ったのは、2つのキャンパスが近接し、これまでも連携関係にあったことに加えて、法政大学が家政学の学問的・教育的意義を評価し、維持することに理解を示してくれたことが大きかった。

 ダイアナ・コー総長と互いの考えを確認し合った上で、具体的な交渉は代表業務執行理事である西田幸介理事と行った。理事会・評議員会に加えて、全15学部の理解を得ながら交渉に臨むためには、慎重な検討と丁寧な説明が必要だったと思われる。

 西田理事を支え、交渉の場を実際に回してくれたのが総長室の酒井聡子部長、杉浦洋介次長、根本雅弘課長であり、事務局同士で様々なやりとりをする中で、本学のスタッフも多くのことを学ぶことができたはずである。

 交渉である以上、考えが食い違う場面もあったが、規模の大小を超えて互いに対等な立場に立つとともに、なによりも法政大学が本学の歴史の中で育み、培われてきたものを尊重し、話し合いに臨んでくれたことで、幾多の課題を乗り越えることができた。筆者を含めた本学サイドも、法政大学の歴史と伝統に加え、スーパーグローバル事業に象徴される近年の改革には深く敬意を表するところである。

幅広いステークホルダーに対する丁寧な説明

 並行して、本学内でも広く理解を得るために説明と対話を繰り返した。特に、理事会と評議員会においては、初期の段階から連携交渉の状況を逐次報告し、理解を得ながら進めていった。

 また、中高については系列校化に向けた検討に早めに着手する必要があることから、若手・中堅教員を中心に検討メンバーを選任し、協力を求めた。当初は戸惑いもあったと思うが、現在まで一人の教員も欠けることなく、新校長のもとで日々の教育活動を行いながら、系列校化に向けた準備に尽力してくれている。

 最も配慮したことは中高の在校生・保護者、4月入学予定の新中1・新高1の生徒・保護者への説明である。説明前に報道されることがないように予定を組みながら、生徒と保護者を分けて、筆者自ら直接話をすることにした。また、その場で新校長予定者も紹介した。生徒の反応は概ね好意的なものだったが、保護者の質問に対しては時間を区切ることなく丁寧に疑問に答えるように努めた。

 大学と高校の同窓会、大学の学生・保護者、教職員・組合等への説明にも最大限時間を割くようにした。幅広いステークホルダーの理解と協力を得ない限り、いかなる改革も成果に結びつかない。

法政大学の期待に応える系列校づくりと家政学の発展に貢献しうる大学づくり

 基本合意はゴールではなく、本学にとっては新たなスタートである。

 中高は法政の名を冠するものの、本法人が設置する系列校である。法政大学の各学部から一人でも多くの推薦枠を得て、期待に応えられる生徒を送り出していかなければならない。併せて、法政大学の附属3校にはない特色も出していきたい。和仁校長を中心に進められる中高改革を法人として力強く後押しすることが第一の課題である。

 大学については、3つの柱から成る改革をさらに強化しながら、法政大学との連携を含む新たな施策を展開し、競争力を格段に高めていく必要がある。それを通して、家政学の学問的、社会的、教育的価値を高め、家政学と家庭科教育の発展に貢献したいと考えている。女子大や単科大学の中に閉じられていた家政学が、多様な学問分野を有する総合大学と連携することでどのような化学反応を起こすか。どうすれば法政大学にとっても意味のある成果をもたらすことができるのか。これらのことを追求しながら改革を加速させていきたい。

 今回の連携で大学はさらなる改革の時間を得たことになるが、それも3年から5年程度の猶予に過ぎない。その上で、大学と中高を支える法人の経営基盤を強固にしていく必要がある。職員育成やDXをはじめとする業務構造改革等も、大規模総合大学である法政大学に学ぶことは多いはずである。

 本年4月に財務省が示した「2040年までに、少なくとも学校数は250校程度、学部定員は18万人程度の縮減が必要」との推計が波紋を呼んでいる。

 その是非は別にして、大学の淘汰・再編が進むことは避けられない。AIの急速な発展により、人材需要に大きな変化が生じつつあるともいわれている。

 関係各省が示す政策への目配りは必要だが、それ以上に、大学自ら社会が直面する現実を直視し、その中で自校の存続・発展の意味と形態を問い直す必要がある。

 本稿で取りあげた連携は、特にその立地において恵まれた特殊なケースともいえるが、考え方やプロセスにおいて今後の改革に資することが少しでもあれば幸いである。



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