大学を強くする「大学経営改革」[111]人口減少社会のデザインと大学の未来 吉武博通

吉武博通 学校法人東京家政学院理事長・筑波大学名誉教授

大学の「視線の先」を長期や未来に伸ばす

 日本の総人口のピークは2008年の1億2808万人であり、2010年に一時的に前年比増を記録したものの、それ以降は減少の一途を辿り、2025年には1億2322万人となっている。

 これらは各年10月1日現在の値であるが、本稿執筆時点の直近の確定値である2026年3月1日現在を見ると、総人口は1億2281万人であり、前年同月比61万人の減少となっている。ここで特筆すべきは、日本人人口が86万6000人減少しているのに対して、外国人人口は25万6000人増加しているという点である。(以上の数値は「人口推計」(総務省統計局)による。)

 一方で、コロナ禍以降急速な減少が続いていた出生数にはわずかながら増加の兆しも見られるものの、2025年の合計特殊出生率は1.14と、人口を長期的に維持するのに必要とされる人口置換水準(2.07)をはるかに下回っている。

 国や自治体はこれまで、人口減少を食い止めるべく多様な施策を講じてきた。しかし、減少を抑える取り組みと並行して、人口減少を前提とした地域・社会づくりにも力を注ぐ必要があり、その重要性は今後一層増していくものと思われる。そのためにも長期的な視野に立った戦略が不可欠である。

 大学にとって人口に関する最大の関心事は言うまでもなく「18歳人口」であるが、中教審答申などの影響もあり、その視線の先は2040年あたりに留まりがちである。

 しかし、教育機関として見据えるべき時間軸は、今20歳の若者が現役世代を退く45年〜50年後、あるいはそのさらに先でなければならない。また、知の創出の観点からも、直面する社会課題の解決に注力するだけでなく、50年、100年先を見据えた研究に腰を据えて取り組む必要がある。

 人口減少という巨大なうねりの前で悲観主義に陥るのではなく、この問題を、地域・社会のあり方に加えて、組織や経営のあり方、さらには私たちの生き方・考え方を根本から問い直す契機とすべきである。これらのことにより能動的に関わり、貢献することで大学は自らの未来を切り拓いていかなければならない。それが本稿の主張である。

2070年の総人口は2020年に比べて約7割

 議論を進めるにあたって基礎となる数字を確認しておきたい。

 国立社会保障・人口問題研究所(以下「社人研」)による最新の人口推計は、2023年4月公表の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」である。令和2(2020)年国勢調査の確定値を出発点に、2021年から2070年までの人口を推計したもので、参考として「長期参考推計」(2071〜2120年)も示されている。

 2つの将来推計人口の中から主な数値を一覧表にしたのが表1である。いずれも出生中位・死亡中位のケースであるが、日本の総人口は2020年国勢調査による1億2615万人が2070年には69.0%の水準まで減少し、8700万人となる。

 年齢階級別の構成をみると、0〜14歳が11.9%から9.2%へ、生産年齢人口である15〜64歳が59.5%から52.1%まで減少するのに対して、65歳以上は28.6%から38.7%へと10ポイント上昇している。

 現役世代が高齢者の社会保障を支える現在の仕組みを問い直し、世代間配分のあり方を抜本的に見直す時期にきていることは明らかである。

 出生中位における合計特殊出生率は、2020年実績値1.33が2023年の1.23まで低下、以降上昇に転じた結果、2070年には1.36へと推移すると仮定されている。これを出生低位・死亡中位に置き換えると、2070年の総人口は8024万人まで減少する。これは2020年比63.6%の水準である。

 注目すべきは、総人口が減少する中での日本人の減少と外国人の増加である。外国人は2020年の275万人が2070年には939万人となり、総人口に占める比率は1割を超え(10.8%)、15〜64歳に限れば14.9%である。就業者の7人に1人が外国人という状況も当然想定しておく必要がある。

都道府県別・市区町村別に大きく異なる減少幅

 また、社人研は、2050年までの5年ごと30年間の都道府県別・市町村別の人口を推計した「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」を、2023年12月に公表している。

 表2では、地域ブロックを5つに括り、2020年に対する2050年の人口を指数で表している。南関東が95.5に留まる一方で、北海道・東北は70.2まで減少し、その他地域ブロックは概ね80という姿が確認できる。

 都道府県別に指数をみると、東京のみ100を上回り(102.5)、以下指数が大きい順に、沖縄94.8、神奈川92.3、千葉90.5、埼玉90.3と並ぶ。小さい順に並べると、秋田58.4、青森61.0、岩手64.7、高知65.2、長崎66.2となり、これら5県を含む11県が3割以上減少すると推計されている。

 市区町村別にみると、5000人未満の市区町村の割合が2020年時点の16.4%から2050年には27.9%まで上昇する一方で、5万人以上の市区町村数は523から411に減少する。この30年間で総人口が半数未満となる市区町村は約2割に達するとされている。

 また、都道府県内の市区町村の推移をみると、県庁所在地など主要都市の人口減少が緩やかな一方、他の市区町村の減少幅は総じて大きく、道府県内で主要都市への人口集中が進みつつあることが分かる。


日本の総人口及び年齢3区分別総人口の推移


危機と呼ぶべき極めて深刻な事態に直面

 人口減少、とりわけこれまで経験したことのない速度と規模での減少は、日本にとっても地域にとっても、危機と呼ぶべき極めて深刻な事態である。

 最大の問題は、人口を前提として組み立てられてきた社会の仕組みそのものが維持できなくなるという点にある。主な問題を「経済」「社会保障」「地域」「国家・国土」「教育・文化」の5つの観点から整理すると、以下の通りである。
①経済活動における労働力不足や市場の縮小
②社会保障における現役世代の負担増と担い手不足
③地域を支える諸機能の低下と地域社会の衰退
④国家・国土を維持・保全する能力の低下
⑤教育・文化における地域格差の拡大と継承困難
このような問題に対して、国もこれまで様々な取り組みを重ねてきた。

 1990年の「1.57ショック」を契機に少子化が政策課題として認識され、1994年の「エンゼルプラン」を皮切りに、2003年の「少子化社会対策基本法」、2014年の「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」、そして2020年代の「異次元の少子化対策」へと、政策の対象と範囲は拡大してきた。2023年には子ども家庭庁が発足、「こども未来戦略」が策定されるなど、少子化対策は一層拡充された。

 このように、国の取り組みは、少子化を子育て支援の問題として捉える段階から、社会・経済の持続可能性に関わる問題へ、さらには地方の人口流出や地域の衰退を含む総合的な問題へと、文字通り焦点を深化・拡大させてきたことが分かる。これらの政策により、子育て支援や働き方改革など、具体的な施策も相当程度拡充されてきた。しかしながら、これだけの取り組みにも拘わらず、少子化と人口減少の流れを食い止めるまでには至っていない。

AIと専門知が示す未来像- 地方分散型と風の谷

 今問い直すべきことは、何を目的とした取り組みであり、実現すべき未来をどう描くかであり、そこに到達するまでの過程で生じる問題をどう克服するかである。

 いずれも容易に答えを得られる問いではないが、国主導だけでなく、研究者や専門家が結集して未来を構想する様々な検討・提言も行われている。

 その一つが、AIを活用したシナリオシミュレーションによる政策提言である。京都大学の広井良典教授ら研究者と日立製作所日立未来課題探索共同研究部門(日立京大ラボ)の研究チームは、2017年9月に「AIを活用した、持続可能な日本の未来に向けた政策提言」を公表している。

 同シミュレーションによれば、日本社会の持続可能性を実現していくうえで、「都市集中型」か「地方分散型」かが最も本質的な分岐点であり、人口や地域の持続可能性、健康、格差、幸福等の観点からは「地方分散型」が望ましいという結果が示されている。

 2025年7月にはこの「グローバル版」が公表されている。詳細は省くが、7つのシナリオの中で、相対的に望ましい未来像を示しているとされているのは「地域分散・成熟シナリオ」と「グリーン成長・協調シナリオ」の2つとされている。

 慶應義塾大学の安宅和人教授の著書『「風の谷」という希望』は、「このままでは、都市にしか人が住めない未来が来る。数十年後、主要国では人類の9割以上が地球表面の1割にも満たない都市空間に集中し、この残りの広大で、豊かな歴史を持ち、人類の文化の多くを育んできた場所に人が住めなくなってしまう。私たちはそんな未来を次世代に残したいのだろうか?」という問題意識から出発している。本書は、様々な分野の専門家が7年間をかけて議論を重ねてきた成果をまとめたものである。

 このプロジェクトは、「人間はもっと技術の力を使えば、自然と共に豊かに、人間らしく暮らすことができる空間を生み出せる」との考えに立ち、「都市対地方」ではなく「都市(密空間)対疎空間」という独自の図式を設定している。その上で、「人類と地球の共存」と「人口調整局面のしのぎ方」という2つの大きな課題に挑み、「少なくとも200年以上続く運動論の最初の型を立ち上げる」ことを活動目標としている。

知の結集と包摂力で地域・社会の未来をひらく

 人口減少や地域創生の問題において、国の役割が重要であることは論を俟たないが、それ以上に地域の主体的な取り組みが重要である。加えて、「政策提言AI」や「風の谷プロジェクト」に象徴される、多様な知の結集による、変革のための新しく豊かな発想の創出も不可欠である。大学こそ、こうした 営みの「場」を提供するに最も相応しい組織であり場所である。その意識を強く持って未来を構想しなければならない、ということが本稿で最も強調したい点である。

 一大学の枠組みや専門分野を超えて研究者が集まり、実務家や市民と議論を重ねる。また、将来世代になりきって未来の地域や社会のあり方を考えるフューチャーデザインにおいては、学生や中高生の参画も欠かせない。

 生産年齢人口が減少するなか、教育面では生産性の向上とイノベーションを牽引する知の創出と、次世代を支える人材の育成・輩出が強く求められている。

 さらに、将来推計が示す通り、地域における外国人の比重も確実に増していく。職業人としての送り出し、子女への教育機関の提供、そして異文化の対立を豊かさへと変える学びと対話の場の形成は、これからの大学に期待される重要な役割である。日本語教育やキャリア形成支援、地域住民との協働学習、多文化共生に関する研究と実践を一体的に進めることで、大学は地域社会の包摂力を高める基盤となり得る。

 包摂力という観点では、地方における女性活躍をはじめとするダイバーシティの推進も急務である。大都市圏に比べて課題の多い地方において、大学こそが地域全体を巻き込むダイバーシティ推進の拠点とならなければならない。

 近年注目される「関係人口」の創出を通じた新しい地域づくりにおいても、大学は大きな役割を果たしうる。地域に定住する人口だけでなく、多様な関わりを持つ関係人口を如何に増やすかは今後の大きな課題である。大学は、学生交流や研究交流等を通して、当該地域に関心や愛着を持つ若者や専門人材を惹きつけ、地域と深く交わる機会を提供することができる。

 筆者は、本連載105(本誌244,2025.4-6)「需要縮小時代の大学経営を考える」において、7割規模で成り立つ体質を作り上げるべきとの主張を行った。18歳人口の減少を踏まえると必須だと考えているが、人口減少社会は、大学にとってその機能を拡張し、高度化する契機でもある。人口減少社会という歴史的環境変化を解釈し、意味づけることを通して、それぞれの地域、そして大学の未来を構想していく必要がある。

新しい文明社会の構築と未来を拓く人材の育成

 歴史人口学者で静岡県立大学学長を務めた鬼頭 宏氏は、日本の人口を歴史的な時間軸から捉え、そのダイナミクスを解き明かしてきた。こうした長期的な視座を踏まえ、次のように未来への展望を語っている。

 人口は何らかの制限を受けなければ増加する傾向を持つ。しかし人口増加の結果として土地や資源、エネルギーなどの相対的な不足に直面するとき、その増大は停止する。

 日本は今、縄文後期、平安・鎌倉、江戸時代後半に続く、歴史上4回目の「人口減退期」にある。人口減退期は、それまでの経済成長と人口増加を支えてきたシステムが限界に達した時代であると同時に、新しい資源、技術、生活様式、制度が生まれ、次世代の文明を育んだ転換期であった。

 首尾よく出生率が上昇に転じたとしても、その回復には長い時間がかかる。「人口減少の抑制戦略」を講じることはもちろん、それに加えて、人口減少を前提とし、その現実に対応する「人口減少社会への適応戦略」を第一に据えるべきである。具体的には、SDGsの実現を通じて新しい文明社会の構築に努める必要があり、その歩みこそが地域の魅力を高めることにもつながる。

 ここで必要なことは、「自立」「共生(協働)」「循環」「持続」をキーワードに、地域を新しく構築し直すことにほかならない。前例のない未来をつくるためには、これからの時代を担っていく若い世代の参加が不可欠である。若者はいわば「未来からの留学生」である。自らの人生を豊かにするためにも、新しいライフデザインと社会デザインの構築に主体的に参画し、自信を持って未来を創造してくれることを強く期待したい。

 産業文明から新たな文明社会への移行が避けられない今、大学が果たすべき役割は、既にある知識をただ伝えることではない。地域、企業、行政と手を組み、まさに地(知)の拠点として、未来を拓く気概とアイデアを持った人材の育成に力を注ぐことが求められている。

【参考文献】
安宅和人『「風の谷」という希望』英治出版. 2025
鬼頭 宏『人口から読む日本の歴史』講談社. 2000
公益財団法人静岡県文化財団(執筆:鬼頭 宏)『ふじのくにの人口史』ことのは社. 2023
小峰隆夫『地域と人口減少の経済学』中央公論新社. 2026
永吉希久子『移民と日本社会』中央公論新社. 2020
吉川 洋『人口と日本経済』中央公論新社. 2016



【印刷用記事】
大学を強くする「大学経営改革」[111]人口減少社会のデザインと大学の未来 吉武博通