フィジカルAI時代を生き抜く文理融合 2040年を見据えて挑む学部再編/金沢工業大学 情報デザイン学部・メディア情報学部・情報理工学部

【DATA】金沢工業大学
情報デザイン学部:定員100名
メディア情報学部:定員200名
情報理工学部:定員320名
石川県野々市市

金沢工業大学 学長 大澤 敏 氏


新時代の文理融合とフィジカルAI

 金沢工業大学は、2025年4月、これまでの4学部12学科から6学部17学科へと大規模な組織改編を実施した。この改革の背景にあるのは、2040年の未来予測を見据え、「AI時代の社会実装型総合大学」への進化を遂げるという明確なビジョンだ。

 「産業用ロボットや自動運転、建築現場など、現実世界の『ものづくり』にAIが組み込まれた『フィジカルAI』が、これからの世界を大きく変えていくでしょう。こうした新しいプロダクトを創出する際、多様化するユーザーニーズに応えるデザイン思考が不可欠となり、理系の知識だけでは完結しない領域が急速に拡大していきます。世の中では理系人材の育成が叫ばれていますが、理系側から見れば、真に不足しているのは『理系とコラボレーションできる文系人材』です。この未来のミスマッチを見据え、文理融合を具現化するために今回の新体制を作りました」(大澤氏)

 今回の再編では、従来のものづくりの理系学問を担う「基幹3学部」に、AIと人間との関係性を探求する「情報系3学部」を加えることで、2040年の社会変化に対応するグランドデザインを整えた(図)。新設された「情報系3学部」のうち、メディア情報学部と情報デザイン学部の2学部は文理探究型。もうひとつの情報理工学部は、AI・ロボットの先端研究に特化した理系学部として位置づけられている。


図 新学部体制図


学部再編とプロジェクト教育の刷新

 「これからの時代、一つの学部だけで学びが完成することはない」と大澤氏が語るように、「情報系3学部」と「基幹3学部」は、カリキュラムやプロジェクトを通じて学部を超えた横断的な学びができる体制を構築している。

 象徴的なのは、従来の座学中心の教育からの脱却を目指し、全学的なプロジェクトベース教育(PBL)への転換を推進している点だ。現在、企業や自治体との連携も含めた100以上のプロジェクトが進行しており、2026年2月には世界的半導体企業であるNVIDIAと学術連携協定を締結。フィジカルAI時代に向けた最先端のAI教育コンテンツを活用する環境も整った。

 また、文科省の「N-E.X.T(.ネクスト)ハイスクール構想」にも通じる「AIに代替されない能力や個性の伸長」は、AI時代における高等教育の大きな課題だ。大澤氏は「感じ取って表現する、感動する、誰かのために何かをする。これらは人間にしかできない。自分の感性をどう豊かにしていくかという『感性教育』も、これからの時代で非常に重要になる」と強調する。

 その実践の場として、同大のライブラリーセンター内に「デザインアートラボ」を新設。学生が自身の感性を形にするワークショップを展開しており、理系の学生からも「技術や研究の先にある『目的』を考える場所になる」と非常に高い評価を得ているという。

 さらに、文理融合の新拠点として2027年春には「クロスデザインラボ」が完成予定だ。企業との産学連携はもちろん、高大接続の場としても機能させる。こうした重層的な仕掛けが、新体制の実効性を支える。


クロスデザインラボ
クロスデザインラボ(2027年完成予定)
学生が未来の生活、社会を体感(体験)し、「専門分野×情報技術」で探究・実装する学部・学科を超えた文理横断的プロジェクト活動の推進拠点。小中高生や企業との協働の場を目指す



デザインアートラボ
デザインアートラボ
大学のライブラリーセンター内に併設されたデザインアートラボ。感性を重視した教育の拠点として「プロジェクト・ベースド・リベラルアーツ」、「プロジェクトデザイン入門」といった授業でも活用。また芸術家を招き、自身を表現するワークショップなども開催する。


文系学生の誘引と高大連携の実践

 新学部の入学者数は、直近2カ年ともに定員を充足する好調な実績を収めている。では、文系出身の学生たちは「工業大学への入学」というハードルをどう乗り越えているのだろうか。

 「実生活のなかでChatGPTなどの生成AIに触れてきた高校生達が、未来の社会を見据えて入学してくることも多い」と大澤氏は語る。また、工業大学ならではの就職実績も強いフックとなっている。過去には、経営情報系の学部に入学した文系出身の学生が、学内でデータサイエンスやプログラミングを修得し、海外留学を経て大手メーカーの技術系職種に就職した事例もある。文系大学にはないキャリアパスを描ける点が、大きな魅力として映っている。

 さらに文系学生に人気の心理学について「世界的には理系の領域である」という事実で、文系高校生の選択肢を広げる発信もしている。

 学内の体制にも工夫がある。入学後に懸念される数学などの理系科目への不安に対しては、習熟度別のカリキュラムを導入。未履修や遅れのある学生をフォローアップする体制など整備し、心理的ハードルを下げている。

 また、女子学生の選抜枠を初年度の43人から2年目には84人へと拡大。男子学生が多い環境でも萎縮せずに個性を発揮できるよう、オリエンテーションをはじめとする手厚いケア体制を用意している。

 さらに、高校との連携も強化している。文部科学省の「DXハイスクール」へのプログラム提供や高校支援を通じ、中高生が大学で学ぶ機会を創出。今後は総合型選抜において探究学習の成果を取り入れ、国公立大学を併願する学生に対しても多面的な評価ができる体制へとシフトしていく方針だ。

教員との合意形成と学部改変の実務

 こうした大規模な改編は、令和6年度の文部科学省「大学・高専機能強化支援事業」への申請後、翌7年度には学部再編を実施するという、極めて迅速なスピードで実行された。

 この迅速な決断と実行を支えたのは、全教職員との緻密なコミュニケーションだ。全教職員に対して全学部会や教授会等、100回以上開催し、徹底して丁寧なコンセンサス形成を図ってきた。さらに、教員の半数が産業界出身、半数がアカデミア出身という構成であり、社会のリアルな動向と最先端研究の双方を深く理解している組織風土が、スムーズな合意形成を強力に後押しした。

 教員配置については、基幹教員制度を最大限に駆使し、複数の学部をまたいで教員が兼任できる仕組みを構築した。これにより、既存の理系3学部にも特定成長分野の要素を組み込むことに成功。文科省が求める「スクラップ学科からの3割以上の教員ラインナップ変更」という厳しい申請要件をクリアしている。

 現在、理系学部の設置に悩む文系大学からの相談が絶えないという。金沢工業大学のスピード感あふれる改革とそれを支える実務ノウハウは、2040年に向けた高等教育界の構造改革に大きな示唆を与えている。


(文/木原昌子)





【印刷用記事】
フィジカルAI時代を生き抜く文理融合 2040年を見据えて挑む学部再編/金沢工業大学 情報デザイン学部/メディア情報学部/情報理工学部