単に理系人材を増やすのではなく、産業構造の変化に対応できる人材育成が重要に(カレッジマネジメント Vol.249 Jul.-Sep.2026)

 経済産業省の2040年就業構造推計※1によると、産業構造の大きな変化により、職種・地域・学歴間で大きな需給ミスマッチが生じるとされている。AI・ロボット等活用人材を含む専門職や現場人材が不足する一方、事務職が余剰になる。これにより、学歴別にみると大卒・大学院卒の理系人材が124万人不足し、大卒・大学院卒の文系人材は76万人余剰になるとのことだ。さらに、工業科の高校卒、高専卒は不足し、高校の普通科卒は余剰になるとしている。つまり、高校、大学、大学院全てにおいて、理系人材が不足し、文系人材が余剰になるということである。

 こうした予測に基づいて、国が支援する人材育成事業が始まっている。文部科学省は「成長分野を牽引する大学・高専の機能強化」に向けた約3000億円という基金を創設し、学部再編等による理系分野への転換や高度情報人材育成を支援する事業をスタートした。2023年からスタートしたこの事業の特に支援1(理系学部への転換支援)が現状どうなっているのかについて、本特集では募集状況を中心に分析を行った。それによると、これまでの3年間で210件が採択され、開設率は26.2%と4分の1に留まり、本格的な開設はこれからになりそうだ。分野は単独および複合いずれも情報系に偏っており、これは文系学部を中心とした大学のリソースの問題が大きく影響していると言えそうだ。採択案件の初年度定員充足状況は、その他の新設案件と比べてやや高い傾向が見られた。ただ文系中心の大学からの新設という点においては、厳しい募集状況の大学が少なくない。また、DPを達成するために必要な数学がAPや受験科目でどの程度課しているのかも課題ではないかとの指摘もある。

 その背景には、大学において理系シフト、文理融合への転換が動き出しているが、供給源となる高校でも同様に進んでいないと絵に描いた餅になりかねない。実際、3分の2の高校が文理選択を行っている※2。今回特集で実施した高校生へのアンケート調査においても、高校2年生からのクラス分けが大変とのことだ。高校2年生からのクラス分けに向けて、早いところでは高校1年生の夏休み前から文系・理系を選ぶための指導が行われる。しかし、高校1年生の段階で、自身の将来志向や将来必要な資質能力まで理解している高校生がどれだけいるだろうか。

 そのため、多くの高校生は、教科・科目の好き嫌いで文系・理系を選択している。今回の調査では、理系は得意な教科を中心に、文系は嫌いな教科を排除する形で、文理選択を行っていることも分かった。高1の夏の段階で、数学を捨ててしまえば、いざ大学の学部選択の際のリカバリーは困難である。そもそも、現学習指導要領で導入された探究学習は、身近な問いを見つけ、課題を解決する一連の学びのプロセスである。そこに文理の分けはない。文科省もDXハイスクールやネクストハイスクール構想において、高校改革を進めようとしているが、早すぎる文理選択による“文理分断”からの脱却が求められるだろう。

 将来の産業構造・就業構造の転換への対応は、日本全体として大きな課題である。本特集の三菱総合研究所へのインタビューにおいて、必要なのは単純なプログラミングや分析実務がこなせる従来の理系スキルはAI等に代替される可能性があり、AI等を活用して新たな価値を創りだすことが重要であるとの指摘があった。つい最近、MicrosoftやMetaは大規模なエンジニアのリストラを公表した。つまり、従来の理系人材の育成像を変えていく必要が、既に生じているということである。従来は、文系スキルと言われていた倫理観やマネジメントスキルも、今後は必要となってくるだろう。理系においても、ELCIと呼ばれる倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues)をプログラムに組み込む大学も出てきている。そう考えると、社会人の学び直しや学び重ねも重要な課題となる。理系の学部・大学院出身者であっても、時代に合致したスキルを獲得するためのリスキリングも必須となることは間違いない。

 単に理系人材を増やすとひとくくりにするのではなく、今後の産業構造・就業構造の変化を見据えて、常に人材要件を検証しながら、学部・学科カリキュラムの改革を進めていくことが重要となるだろう。

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リクルート進学総研所長・カレッジマネジメント編集長

小林 浩

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