拡大する理学系マーケット 情報系に偏る新増設・支援事業

高校生ニーズと大学側の供給のギャップという募集上の観点から、昨今の理工系分野の現状について、データをもとに概観したい。



カレッジマネジメント編集部
リクルート進学総研研究員
鹿島 梓



【1】学部・学科トレンドにみる理工系マーケットの現状

 入試における志願状況を系統別にまとめた「学部・学科トレンド2026」(248号特集)では、いわゆる理系系統について、前回分析(2021年データ)との比較において、以下のように考察した(図表1にピックアップ)。


図表1 理工系分野のトレンド(分野ピックアップ)


  • 理学系(数学、物理学、化学)は全体で募集定員5056名、志願者5万6140名のマーケット。物理学が募集定員・志願者ともに好調
  • 生物系は全体で募集定員(1万2355名)・志願者(12万4807名)ともに大きく拡大。特に生命科学と獣医・畜産学の志願者増加インパクトが大きい
  • 工学・建築・技術系は全体で募集定員2万8529名、志願者36万8955名。2021年データと比べるとやや減少。特に2008年より増加トレンドにあった情報工学が、募集定員はやや増加しているものの、志願者は7万3919名→6万251名(1万3668名減)と減少に転じている
  • ほか、募集定員・志願者ともに減少したのは、機械工学、通信工学、電気工学、電子工学、土木工学、経営工学。システム・制御工学、航空・船舶・自動車工学、建築学は募集定員・志願者ともに増加
  • ドローンや自動運転等が注目されロボットに関連する学問に人気が出ているようにも見えるが、分野人気というより工学内の分散か。建築学は近年女子大の家政学(住居系)からの改組が相次いでおり、情報学系と並んで女子大の工学系参画ではよく見かける系統になりつつある

【2】国が支援する理工系人材育成事業

 ここでは、文部科学省事業「成長分野をけん引する大学・高専の機能強化に向けた基金による継続的支援」(支援1)について、理系人材育成の状況を分析したい(数値はいずれも2026年3月31日調査時点)。

事業採択案件の開設率は3割未満
理工農系学部・学科設置の本番はこれから

 まず、本事業に選定された案件のうち実際に開設済の数を調べた。開設済とは、各大学での募集開始がHP等で確認でき、かつ入学者数が公表されているもののみをここではカウントした。事業採択された理工農系の方向性を断念し文系での開設に踏み切った例や、現実的な諸事情で計画を見送った例等もあるが、今回はあくまで理工系学部・学科として計画され、その通りに(あるいは少しのチューニングで)開設に至ったものがどのくらいあるのかという観点で集計している。また、事業採択と設置のタイミングは基本的にタイムラグがある(構想・計画段階で採択されているため)ことに留意しつつ、図表2をご確認いただきたい。なお、ここでの集計は学科数で、選定が学部単位で学科の詳細が不明なものは学部でカウントしているため、公式の選定件数とは必ずしも一致しない。


図表2 選定数、開設済数(学科数・2023-2025)


 事業初年度である2023年度は、選定数93件のうち、開設済は40件。同様に2024年度は86件のうち15件、2025年度は31件のうち開設済は0件となっている。合計すると3年間で選定数210件のうち、既に開設されたのは55件であり、開設率は26.2%というのが現状だ。つまり、大学に理工農系学部・学科が増えてくるのはこれからが本番ということになろう。

 なお、選定210件のうち単独分野(1分野)は112件、複合分野(2~4分野)が98件で、半数近くは複合分野。開設されているのは、単独分野112件のうち34件(30.4%)、複合分野98件のうち21件(21.4%)、98件のうち2分野の組み合わせが73件で、うち開設済は19件(26.0%)となっている。

単独分野でも複合分野でも多いのは情報系

 では、どのような作り方・分野の組み合せが多いのだろうか。今回の集計では、選定件数の多い順に、工学関係(単独)86件、工学関係+経済学関係22件、農学関係(単独)17件と続く。また、開設済件数で見ると、工学関係(単独)26件、工学関係+理学関係8件、工学関係+経済学関係6件、理学関係(単独)5件、農学関係(単独)3件と、単独分野が多い。これは実際の申請業務において、複合分野は様々な整合性をとる難易度が高いことも影響していると思われる。

 採択案件全体の初年度入学定員充足率(図表3)では、参考に置いた新設学科の初年度入学定員充足率の平均と比較してやや高い傾向があった。ただし、ローデータを見ると志願倍率の高低にはかなりばらつきがあることを申し添えておきたい。


図表3 事業採択案件の初年度入学定員充足率(平均)


 理工学分野に経済学が複合しているケースの多くはデータサイエンス分野である。紙幅の関係で詳細は割愛するが、初年度定員充足率を見ると、このデータサイエンス分野と理学関係(単独)が1.0を上回る。また、単独(工学関係/農学関係/理学関係)では概ね0.9以上となっており、それ以外の複合の組み合せは一段階低い水準にある。この状況からすると、データサイエンス以外の複合領域においては、組み合せた結果志願者が集まりにくい状況に陥っているというのが実態のようだ。

 また参考までに、先に挙げたデータサイエンス以外にも情報系は多いのではとの考えから、学部・学科名称に「情報」「データ」を含むものを「情報系」としてカウントした数を「うち情報系」に示している。2023年度は全40学科のうち26 学科(65.0%)が情報系、2024年度は15学科中12学科(80.0%)が情報系と、かなりのシェアを占めた。単独分野でも複合分野でも、集まる分野を作ろうとすれば情報系しか選択肢がないという状況にも見える。

 本事業への採択は、多くの理工系を持たない大学にとって、新たな分野に挑戦するブースターになったことは事実だが、展開する学部・学科の実態としては情報系にかなり偏っており、労働需給上不足すると言われている人材の育成にどの程度つながっているのかは見えづらい。


【3】学問系統別在籍者の男女比率

 最後に、学問系統別に理工系を見た時、現在の在校生における男女比率がどうなっているのかに触れておきたい。

 文部科学省の学校基本調査をもとに作成した図表4によると、理学系の女性比率は29.4%、工学系は17.9%と、他分野に比べても二段階程度低い。理工系学部を新しく設置する場合、こうした「現状理工系を選んでいない」女性を新設学部・学科のターゲットに置く大学が多いのも頷ける。


図表4 大学学部系統別在籍者 男女比率(2025年)


 理工系分野の女子獲得と言えば思い浮かぶのは女子入試だが、そこでは既に志願している女性志願者の受験機会の増加に留まっており、「新たな市場開拓につながっていない」例が散見される。新増設学部・学科においても、せっかく作るのに既存ターゲットの取り合いになっただけということがないよう、想定する市場の新規性には拘っていただきたいところだ。一方で、これまで文系中心の学部・学科で経営してきた大学にとって、理工系という新しい市場で新たな志願者獲得に成功するには、ただ作るというニュース性やこれまでの経験則だけでは不十分である。ターゲットニーズと社会要請を踏まえ、丁寧な募集活動が展開されることを期待したい。



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