入試は社会へのメッセージ[17]高校で培った資質・能力と 大学教育を接合する仕掛けとしての入試を導入/京都橘大学 総合型選抜「デジタルクリエイション講座参加方式」

京都橘大学は、デジタルメディア学部デジタルメディア学科・工学部ロボティクス学科(26年設置)、工学部情報工学科(21年設置)の3学科の2026年度入試において、総合型選抜「デジタルクリエイション講座参加方式」を新設した。その狙いや検討経緯について、入学部長の内藤和彦氏、入学課長の毛利真介氏に伺った。
学園のマスタープランで社会ニーズに応じた人材育成を掲げる
当該方式は、大学が開催する講座に参加し、レクチャーを受け課題を制作・提出するプロセスを踏むことで受験資格を判定し、希望者は出願に進む形式である。情報・デジタルに興味があり、課題に取り組む積極性を備えた人材を広く公募した。
入試新設の狙いを、内藤氏はこう説明する。「本学は2021年に工学部を、今春デジタルメディア学部を設置しましたが、これは高度なデジタル人材の不足という社会課題に対して人材を育成・輩出する、という学園の改革の方向性に基づいています。今回の入試改革は、こうした方向性をふまえ、成長分野を牽引する人材を育成するために、知識だけでなく思考力・表現力・学ぶ姿勢等、実社会で求められる要素を多面的に評価する方式を検討したものです」。
その言葉通り、学校法人京都橘学園の第3次マスタープランでは、情報・工学系研究科を起点としたAI時代の社会課題解決や医工連携強化といった教育展開・地域連携の方策を示している。より社会から需要がある領域を拡張させていく方針だという。
同大学の総合型選抜の目的は、「ペーパーテストのように知識のみを判断基準として合否を判定するのではなく、思考力・表現力に加えて志望学科等に対する熱意や勉学意欲、高校における正課・課外活動などあらゆる角度から多面的に評価し、入学後もリーダーシップを発揮して意欲的に学んでいく人材を積極的に受け入れる」と募集要項にある。また、求める学生像として「大学での学修にふさわしい強い知的好奇心を持ち、入学後もその持続・発展ができる者」「大学入学までの学習に地道な努力を重ねてきた者」「大学の教学理念及び大学の目的に深い理解と強い共感を持ち、そのなかでの4年間の学修を熱望する者」の3点が挙げられている。
社会ニーズに即した学部学科教育に、高校までに身につけた資質・能力をフィットさせる高大接続の仕掛けとして、今回の入試は設計されたと言えるだろう。
求める資質・能力を見いだせる手法を愚直に設計
具体的な選考方法は図1の通りである。当初60名を講座の定員とし、認可申請による募集広報時期の制限もあるなか、オープンキャンパスや高校訪問等で広報を行った。「本学の工学系分野拡張を念頭に置き、広く遍く知らしめるというより、高校でこうした学びをしてきた生徒さんにぜひ、といった具合に、興味関心の高い層への案内を重ねました」と内藤氏は述べる。結果、定員を上回る問い合わせがあり、最終的な参加申し込みは97件にものぼった。受験生像を明確にしたニーズに加え、「ピタゴラと聞いて面白そうと思ってくれる生徒さんが多かったのではないか」と内藤氏は振り返る。毛利氏は、「受験生をひとつの場に集めて同じ条件で一発勝負のパフォーマンスをさせるというのは、他大学にはあまりないと思います。そうした点も面白がられたのでは」と補足する。なお、こうした入試に対しては「探究で作った成果物がこの領域のものなので評価してもらえないか」といった要望もありそうだが、同大学はそうしたニーズに対応する「探究・課外活動方式」も準備しており、多様な入試方式であらゆる高校ニーズに応えられる状態になっていることも補足しておく。

なぜ事前課題ではなく、運営負荷の高い当日パフォーマンスをさせる講座を設けたのかを問うと、理由は2点あるという。まず、入試としての公平性確保だ。「PCを使ってデジタルのアウトプットをするので、そうした環境が整えられる人とそうでない人の差が生まれないようにしたかった」と内藤氏。次に、本入試で評価したい能力ゆえの帰結だ。内藤氏は、「本入試では課題に対していかに完成度が高い作品を作れるかという表現力だけを求めているわけではなく、与えられた状況に対してどう行動できるかという姿勢、どういう狙いでこういうのを作ったのかを論理的に思考し、他者に伝わるように言語化できるかを問いたかったのです」と説明する。それは、3学科が共通で必要なカレッジレディネスとも言えるものであり、課題に取り組むプロセスそのものがなければ見いだせない資質・能力であるというわけだ。
入試はあくまで人材確保という目的に応じた方法論。同大学は各入試区分で想定する学生像と、そこに必要な要素を整理し、最終的に多様な人材が大学に集うようにアウトラインを引いている。だから問う内容も入試区分によって異なり、選考方法も定まるのである。
専門教育に必要な資質・能力を共通項で括り設計する柔軟性
もう1つ注目したいのは、3学科合同実施であることだ。通常、どの学科でも共通的に必要である知識・技能を中心に問う一般選抜はともかくとして、学科ごとのアドミッション・ポリシーに即した内容を設計する総合型選抜においては特に、複数学科で合同の入試を設計するのは考えにくい。しかし、「時代に応じた教育を設計している学科同士ならば共通項もあるのではないか。こうした話が議題に出ること自体が本学らしいとも思います」と毛利氏は述べる。
今回は、26年度設置であるデジタルメディア学科・ロボティクス学科のある種、目玉入試として、新学科の全体像が見えてきた段階から設計を構想してきたという。そのうえで、学科ごとの特色は持ちつつも関連性の高い3学科で合同企画とすることで、この領域におけるプレゼンスを確保する狙いもあったのであろう。3学科の要素を満遍なく持つ課題を考えるのと併せて、これまでの入試区分では問えなかった「取り組みの姿勢」「表現力」といった素養を問うものにするという目的も踏まえ、今回は「3Dの仮想空間でデザインを設計し、物理的な法則も踏まえて実態あるものを制作する」という課題となったという。
高校までの興味関心の延長線上にある講座で大学の学びに触れ、高校までで培った資質・能力を活用できる課題を用意し、それをクリアすることで本人の志願度も高まり、大学教育へのレディネスもクリアされるという仕組みだ。それを新学科設置と併せて他学科も巻き込んで設計するあたり、改革慣れしている大学ならではの柔軟性が垣間見える。

興味・関心の高い層が入学後の学びに触れ、積極的な出願につながる
では、どのような参加者が多かったのか。「講座当日の担当教員によると、受講生全員が非常に積極的で、前向きに取り組んでくれた印象が強いとのことです」と内藤氏は話す。いわゆる理系人材に限らず、文系目線で興味を持つ参加者も多く、理解のアプローチが異なる多様な結果になったという。「初めて触るソフトでも使い方を確認し、教員に積極的に質問しながら制作する参加者ばかりで、満足度も高かったようです」と毛利氏も述べる。
同大学は学科によっては文系型・理系型の入試を設計しており、そうした面も文系参加者の後押しになったようだ。こうした入試設計にしているのは、「絶対数として理系高校生が少ない」とう課題意識があるからだという。「情報工学科やロボティクス学科には、専門分野が人間情報学、デザイン学や発達心理学という教員もいます。理系の発想だけでなく、文系の観点やマネジメント力等が加わることで、社会実装も含めたいろいろなアイデアが生まれることが期待できます」。文系にも窓口をきちんと設けて、文理が混ざり合いながら学ぶと教育効果が高いとみる。「基礎的な理数スキルは入学前後に学ぶように仕組みを整えたうえで、それ以外の要素を入試で測るようにしています」(内藤氏)。
エントリーから合格までの結果は図2を参照されたい。各フェーズの歩留まりも「これくらいであってほしいという水準に近く」(毛利氏)入学後のイメージを膨らませて入学に至る学生層を確保できたという。

なお、紙幅の関係で詳細は割愛するが、当該入試の対象である3学科を含めた入試結果全体を俯瞰すると、公募推薦・併願制の活況がまずベースにあることに気づく。そのうえで年明け入試では高学力帯の受験生を選抜できる状態になっており、そうした母数を確保したうえで、多面的評価のターゲットである、この3学科に特化した資質・能力保持者を総合型選抜で獲得しているという構造だ。数を確保したうえで質に迫るのは、一般的に総合型選抜の戦略を立てるうえで鉄則とも言える。数が整わないうちに質にフォーカスしすぎると、理念は良いが実際の運用が回らなくなるという例は枚挙に暇がない。
しかし、内藤氏は、こうした構造を以下のように説明する。「本学の入試戦略は、複数の入試方式で受験生の受験機会を広げつつ多様な属性を確保することが第一義です。入試区分ごとに、その目的や特性を踏まえながら、全体として適切な構成を図っています」。
入学後の成長を検証し今後の改革につなげる
初年度入試を終えた現在の課題について聞いた。
内藤氏は、「講座の中身そのものは担当教員と共にブラッシュアップしていく前提で、高校生活で培った資質・能力と大学教育を接続するあり方について、現状に拘らず検証していく必要があります」と気を引き締める。また、「高校への認知や理解促進も、より丁寧にやっていきたい」と毛利氏も述べる。
この入試区分への学内の関心は高く、他学科からも興味を持つ声が挙がっているという。同大学は全入試区分で入学後の成長状況を、GPAや最終的なキャリア選択等を中心に検証しているため、そこで良い波及効果が確認されれば、今後検討を広げる可能性もありそうだ。
資質・能力起点に設計された高大接続的入試の今後に、期待が高まる。
(文/鹿島 梓)
【印刷用記事】
入試は社会へのメッセージ[17]高校で培った資質・能力と 大学教育を接合する仕掛けとしての入試を導入/京都橘大学 総合型選抜「デジタルクリエイション講座参加方式」
