「理論×物語」で全員参加型の中期計画を策定

「その一歩が、学校を変える。」
日々の業務の中にある工夫や挑戦。同じフィールドで奮闘する職員たちのリアルなストーリーから、あなたの“次の一手”が見えてくるかもしれません。
「Next up」は、学校の未来を担う私たち自身の知恵と経験をつなぎ、広げるための企画です。

氏名:進藤弘樹(しんどう ひろき)氏
学校名:龍谷大学
所属部署:グローバル教育推進センター事務部
2011年4月に学校法人龍谷大学に入職。国際部、教学部を経て、2019年5月より学長室(企画推進)で中長期計画の策定、新学部設置、ランキングマネジメントなどに携わる。2025年5月より、グローバル教育推進センター事務部で国際交流や留学生政策などを担当。
【サクセスエピソード】計画に余白を持たせることで創発を促す

龍谷大学の長期計画である「基本構想400」(2020~2039年度)第2期中期計画(2024~2027年度)原案策定に携わったことです。
2020~2023年度の第1期中期計画において、「事業数が多いなど実効性に乏しい。また、部署を架橋する事業の進捗にも課題がある」と総括されたことを受け、まずその改善に取り組みました。
具体的には、いわゆる「両利きの経営(Ambidextrous Management)」を導入。アクションプランの性質(探索・深化の2種)に応じたマネジメント体制を提案しました。また、アクションプランを精選し、それらの「到達点」を定めることにしました。
工夫した点は、アクションプランの到達点とその設定趣旨は示すものの、そこに至るまでの詳細な戦術を明示しなかったこと。敢えて余白を持たせることで、一人ひとりが具体的な方法を主体的に考え、さらに各部署内で対話を重ねることで「創発(Emergence)」がデザインできると考えました。また、創発を促すために若手職員を集めた勉強会や新規業務挑戦型のプロジェクトチームを作ったり、マネジメント層が部署を超えて中期計画をテーマに議論できる場を設けたりと場づくりにも注力したことで、皆が腹落ちできる中期計画を策定することができました。
これらをスムーズに進めることができたのは、計画に「物語性」と「独自性」を持たせることができたためだと思っています。
中期計画の策定は、一般的には学内外の様々なデータ分析と未来予測、そして経営学的知見に基づくものとされています。しかし、それだけに偏ると非常に無機質であり、多くの教職員にとって遠い存在になってしまう可能性があります。
また、私たち大学人が向き合うべき共通課題は、「Society 5.0」への挑戦(サイバーとフィジカルを融合させイノベーションで社会課題を解決する試み)に尽きますが、それをそのまま掲げたところで他校と差別化は図れず求心力も欠けたものになってしまいます。
これらを踏まえ、もっと構成員が自分事として捉えられ、かつ大学の理念にも結び付けた独自性ある計画にするために、「大谷探検隊」にヒントを得て、第2期中期計画に「サステナビリティへの『旅』―変革の加速へ―」という副題を設けました。
大谷探検隊とは、本学の設立母体である浄土真宗本願寺派(西本願寺)が20世紀初頭に海外派遣した学術探検隊のこと。歴史を参照しつつ、「旅」という言葉をアナロジー(類推)として用いることで、そこに込められた多層的な概念(挑戦、体験、共創など)を現代に呼び起こすことを意図しました。中期計画が「大学の歩みを体現する物語」として形を成し、学長をはじめとしたトップマネジメントにストーリー性をもって語ってもらえたことで、中期計画が生きたものになったと感じています。
【私の仕事術】「偶然」を重視し、知識と体験の幅を広げる
人間とAIの大きな違いは、当面の間、「人間は身体性を有していて、偶発性に開かれている」点にあると捉えています。そのため、偶然出会った人や、たまたま手に取った本、ちょっとした雑談を大事にしています。学内においても、薦められた本は時間が許すかぎり読み、薦められた音楽は聴いてみるといった姿勢を貫いています。視野が広がるだけでなく、その人の大切にしている視点に触れることで自然と目線合わせができ、会話の共通基盤が生まれるという効果があります。加えて、若手の頃から、学内の自主的な研修集団である「龍谷未来塾」に所属し、業務時間外に仲間と切磋琢磨できたこと、またそこでアドバイザーとして参画する管理職から助言を得られたことも非常に大きな支えとなっています。夜遅くまで会議室や居酒屋で未来塾の仲間と意見を交わした光景を忘れることはありません。
大学職員という立場は、教育・研究と法人運営を架橋する役割を担っています。固定的な価値観に縛られず、理論と実践、内部と外部を往還する視点を持ち続けることも強く意識しています。学内だけでなく学外を含めてさまざまな人の意見や助言に耳を傾けることにしています。このような姿勢は、まさに「旅」が内包する「架橋」と「往還」そのものでもあります。
【今後の展望】若手職員の語りの場を整備し大学の未来へとつなげたい
現代は、「コスパ」「タイパ」に象徴されるように、効率のみを優先する価値観が広がっているとされています。しかし、コスパ・タイパを追求できる領域は、AIが代替する領域とほぼ重なっています。そして、そうしたコスパ・タイパ偏重からはイノベーションも生まれず、人を動機づけることも困難です。
だからこそ今後は、若手職員が参加できる物理的な「語りの場」を設け、熱量を共有し、偶発的な情報交換ができる仕組みづくりに注力したいと考えています。意思と熱意をもって仲間とつながり、自らの言葉で大学の未来を語り合い突き進むことが、改革を推進する大きな力になると信じています。
私の信念として、「大学で働く」ということは、「未来を創造する」ことに等しい営みだと思います。時代が厳しさを増す中で、近い将来「大学とは何か」「大学職員は危機の時代にどう行動すべきか」という根源的な問いに向き合い、力強く取り組みを実践することになります。
そのときのために、いつ役立つかわからないような知識や出会い・体験が、思いもよらないところでつながり、大きな財産となります。私自身も、これまで何度も立ち止まり、迷いながら考え実践してきました。それでも、人と語り合う時間が、いつも次の一歩をくれました。未来を担う若手職員のみなさんへのメッセージとしては、とにかくご縁を大切にしながら、無駄を恐れることなく自分なりの挑戦をし続けてほしいと思います。

(文/伊藤理子)
