【Interview】博士後期課程を新設しAI情報分野の拠点に

「その一歩が、学校を変える。」

日々の業務の中にある工夫や挑戦。同じフィールドで奮闘する職員達のリアルなストーリーから、あなたの“次の一手”が見えてくるかもしれません。
「Next Up」は、学校の未来を担う私達自身の知恵と経験をつなぎ、広げるための企画です。

氏名:田口 崇(たぐち そう)

学校名:京都橘大学

所属部署:企画課

名古屋大学卒業後、学習塾講師を経て高校理科教員を約10年間務める。教育の現場だけではなく、高等教育の企画設計に携わりたいとの思いから大学職員を志し、2025年4月に京都橘大学へ入職。企画課に所属し、新規事業や将来構想に関する企画立案・制度設計を担当。

【サクセスエピソード】「AI・情報分野の拠点をつくる」という一大プロジェクトに挑戦

2027年4月に開設する大学院工学研究科工学専攻博士後期課程(情報工学コース)の設置プロジェクトに参加し、実現に導いたことです。

本学は2021年度に工学部・経済学部・経営学部を同時開設し、文系・理系・医療系が一つのキャンパスに集う総合大学へと成長してきました。さらに、2026年4月にはデジタルメディア学部、工学部にロボティクス学科、健康科学部に臨床工学科を新設。学びの領域が拡がることで、学部学科の枠を越えた新たな教育・研究の可能性が生まれています。

現在、日本においてはAIやデータサイエンスなど情報分野の人材ニーズが高まる一方で、この分野の研究者やスペシャリストの不足が深刻な課題となっています。このような社会的背景を受け、本学は工学部や大学院情報学研究科修士課程を通じて、情報分野の教育研究を積み重ねてきました。しかし「情報分野の学びの拠点は京都橘大学だ」という存在感を示すためには、研究者や高度専門人材を自ら育成できる博士後期課程の設置が不可欠であるとの結論に至り、本プロジェクトが始動しました。

一方で、他大学の状況を調査すると、博士後期課程を設置していても学生募集に苦戦しているケースが少なくありませんでした。つまり、設置すれば学生が集まるわけではない。だからこそ私達は、「学びたい人が挑戦しやすい環境、制度とはなにか」を考え続け、研究に集中できるカリキュラム設計、短期・長期履修制度、経済支援、そして社会人学生が働きながら研究を継続できる環境整備等、学習者の視点に立って制度を検討しました。

なかでも、働きながら学ぶ人やキャリアチェンジ等を目指して学び直す人にとって、時間と費用の両面でハードルを下げること、そして、研究者養成課程であっても学びへの入口をできる限り広く開いておくこと、この2点の両立を強く意識しました。

その中、私が担当したのは、主に認可申請です。前職は高校の理科教員だったため、大学設置基準や大学の財務構造等を一から理解する必要がありました。さらに、情報学研究科情報学専攻修士課程から工学研究科工学専攻博士前期課程への名称及び課程の変更手続きや、大学・高専機能強化支援事業への対応も並行して行わなければなりませんでした。この支援事業は情報系分野を対象とし、大学院レベルの取り組みが必須要件とされていたため、博士後期課程の構想との連動が求められましたが、性質の異なる複数の業務を同時に進めることは大きな挑戦でした。

分からないことも多くありましたが、一つ心がけていたことがあります。それはまず自分で徹底的に調べることです。本学の前例や他大学の先行事例、法令や告示、設置の手引き等を読み込み、自分なりの仮説や提案内容を整理してから相談する。そうすることで、単に答えを教わるのではなく、より本質的で具体的なアドバイスを得ることができました。結果として、自分の理解も深まり、業務の質やスピードの向上にもつながったと感じています。

認可を受けた時は「これまで取り組んできたことが実を結んだ」と大きな安堵感がありました。さらに大学・高専機能強化支援事業(支援2=高度情報専門人材の確保に向けた機能強化に係る支援)にも選定され、大学院の教育研究基盤を強化するための長期的な支援を受けられる見通しが立ったこともうれしかったですね。人や設備への継続的な投資が可能になったことは、将来構想に携わる立場として大きな喜びです。

【私の仕事術】まず社会の変化を捉える。そのうえで、大学の強みを考える

企画を考える際に大切にしているのは、「今、社会は何を求めているのか」という観点です。

市場や社会のニーズ、他大学の動向、そして本学の強みを整理しながら、本学だからこそ実現できる価値を考えます。どれほど優れた計画を立てても、社会のニーズと結びついていなければ意味がありません。博士後期課程で履修制度や経済支援の設計に踏み込んだのも、社会のニーズや他大学の状況を分析したからこその判断でした。

そのうえで意識しているのは、目的を明確にすることです。他大学にはそれぞれ独自の強みや築いてきた文化、歴史があります。他大学の魅力的な取り組みを見ると、多くの要素を取り入れたくなりますが、目的が曖昧になると本来目指すべき方向がぶれそうになります。 「何のために、この企画を行うのか」。目的が明確であれば、迷った時も原点へ立ち返って考えることができる。理想を詰め込みすぎて、実現可能性が低い施策とならないためにも、これらを常に意識して取り組んでいます。

【今後の展望】学びたい人に開かれた大学を目指したい

京都橘大学は、世代や学歴、国籍等に関係なく、誰でも学びにアクセスできる大学でありたいと考えています。学ぶ人のニーズと社会のニーズが重なる領域に、適切な学びの入口と出口を用意したい。この思いは、今回の博士課程の設計にも反映されています。

AIや情報分野をはじめ技術や社会が急速に変化する時代だからこそ、学び直しのニーズは今後さらに高まっていくでしょう。時間や場所に捉われず、ライフステージに応じて学べる環境を整える。単位や学位だけではなく、学生自身の言葉で成長を語れることが、その人の人生を支える豊かな経験になると思います。

また、教員時代の経験を活かし、高大連携の取り組みにも関わりたいと思っています。大学入学前から生徒の成長につながる企画を動かしていきたいです。

また、「周囲に褒められること」や「認められること」だけをやりがいの源泉にすると、思うような評価が得られなかった時の反動も大きくなってしまうと感じています。そのため、「人のため(学生のため)」「組織や地域社会のため」という思いを、自分の幸せと結びつけて考えるようにしています。

幸せのために行動した結果が、周りや組織をも幸せにする――上司から言われた言葉ですが、大学職員にこそ必要であり、大切にすべき考え方だと思っています。



(文/伊藤理子)