【Interview】近畿大学発ベンチャー起業支援プログラム「KINCUBA」の周知に注力し、217社のベンチャー創出を後押し

「その一歩が、学校を変える。」

日々の業務の中にある工夫や挑戦。同じフィールドで奮闘する職員達のリアルなストーリーから、あなたの“次の一手”が見えてくるかもしれません。
「Next Up」は、学校の未来を担う私達自身の知恵と経験をつなぎ、広げるための企画です。

氏名:田村真悠(たむら まゆ)氏

学校名:近畿大学

所属部署:経営戦略本部 起業推進室

2021年に大学卒業後、メーカーの営業を経てリクルートで教育機関向けの営業に3年間携わる。2025年4月に近畿大学に入職し、「近畿大学発ベンチャー」創出をミッションとする起業推進室に配属。近畿大学発ベンチャー起業支援プログラム「KINCUBA」の周知活動や、プログラムの企画・運営、起業に興味を持つ学生のサポート等を行っている。

【サクセスエピソード】「KINCUBA」の認知度が上がり相談件数年間1000件超に

近畿大学発ベンチャー起業支援プログラム「KINCUBA(キンキュバ)」の認知拡大に取り組み、一定の成果を上げられたことです。例えば、プログラムの1つである「新規事業開発プログラム」では、2025年度の応募者数を前年の16名から77名へと4倍超に増やすことができました。近畿大学発ベンチャー217社(2026年5月現在)の創出にも、貢献できていると自負しています。

近畿大学では、2017年から学生の起業支援に取り組んでいます。2021年には起業推進室を立ち上げ、2022年より「KINCUBA」(KINDAIとINCUBATIONを組み合わせた造語)を運営しています。

起業推進室の目標は、“近畿大学発ベンチャー”の数を増やすこと。岸田首相(当時)は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、スタートアップへの投資拡充を推進しました。しかしながら、支援の対象は一定の規模・分野に集中する傾向にあり、スモールビジネスに対する支援は、必ずしも十分とは言えない状況です。本学では、こうしたスモールビジネスに挑戦したい学生を大学として応援するためにも「KINCUBA」を提供しています。

具体的には、学生の興味関心レベルごとに「起業憧れ層」「起業予備層」「起業準備層」の3段階に分け、それぞれに合ったプログラムを提供しています。東大阪キャンパス正門前に24時間365日利用可能なインキュベーション施設「KINCUBA Basecamp」を開設する等、環境面からも支援を行っています。

また、先輩起業家によるメンタリングや審査会を経て、株式会社の場合は最大30万円の法人登記費用を支払っているプログラムも用意しています。

「起業は自分には関係ない」と感じている学生も一定数いますが、カフェやラーメン屋等身近なスモールビジネスも立派な起業です。選択肢を与えることが我々の役割だと思っています。

学生の「起業は特別な人がするもの」というイメージを取り払うためにも、まずは「KINCUBA」のプログラムを知ってもらうことが重要です。そこでこの1年、各学部に働きかけてオリエンテーションの時間を頂いて説明したり、学生が興味を持てるようなイベントを企画してチラシやポスターで周知したりと、地道に取り組んできました。

その結果、新入生を対象とする「KINCUBA」説明会の参加者は、開設初年度の89名から、今年は過去最高の515名へと大きく増加しました。また、前述のように「新規事業開発プログラム」の応募者が急増したほか、2025年からスタートしたフードビジネス体験講座でも、当初予定していた20名を大きく上回る60名の申し込みがありました。起業に関する学生からの相談件数は、年間1000件を超えるまでになりました。

さらに、高校生向けのオープンキャンパスでも「KINCUBA」のPRや高校生ビジネスアイデアコンテストの開催に注力しています。近畿大学のオープンキャンパス(2025年度)の総来場者数4万8933人のうち、「KINCUBA」への来場者は5386人と、約9人に1人が訪れています。「起業するなら、近畿大学へ」というイメージが少しずつ浸透し、起業に関心のある新入生が年々増えていると感じています。

【私の仕事術】「まずはやってみる」の姿勢で経験値を上げることを意識

普段から「バッターボックスに立つ」「数字を毎日見る」「足を使う」の3つを大切にしています。

「バッターボックスに立つ」を意識しているのは、完璧に準備を整えてから動こうとするとチャンスを逃してしまうと考えているからです。数をこなして経験を積むことで得られるもの、見えてくるものもあるため、「まずはやってみる」を普段から意識しています。

「数字を毎日見る」の「数字」は、主にイベントの申し込み人数を指します。毎日チェックすることで、打ち手のタイミングを逃さないようにしています。例えば、申込者が少なければ、学生向けSlack内の「起業ナビ」という、起業に関心を持つ近大生が参加している3500人規模のコミュニティーで周知する等、こまめに対応策を考え実行しています。

「足を使う」を心がけているのは、「KINCUBA」の周知のために労力をいとわないという思いからです。学内認知活動のために各学部に出向いて対面で説明会を行っており、奈良、和歌山、広島、福岡といった各キャンパスにも積極的に足を運んでいます。

実際に学生や教職員に会い、話をすることで、起業に対する思いに触れたり、プログラムに関する気づきが得られたりします。例えば、「どのキャンパスにいても起業について気軽に相談したい」というニーズに気づき、「KINCUBA」公式インスタグラムに無料相談フォームへの導線を設けました。足を使ったからこそできたことも数多くあります。

【今後の展望】裏方にとどまらず、自ら主体的に行動し挑戦し続けたい

今よりもさらに多くの学生に、「起業って自分にもできそう」と思ってもらえる環境を作っていくのが私の目標です。起業は、キャリアを築くうえでの一つの選択肢でもあると思いますが、「自分には関係ない」とその選択肢を排除してしまうのはもったいないことです。

もっと自分ごととして捉えてもらうべく、心理的ハードルを下げるイベントの企画・実行等、周知活動を続けていきたいです。

アントレプレナーシップを養うことは、自ら考え行動する力につながります。変化が激しく先行きが不透明な時代においても主体的かつ柔軟に対応できる力を、「KINCUBA」を通じて養ってほしいと願っています。

そして、学生に「起業してみたい」と思ってもらうには、私達職員が挑戦している姿を見せることも大切だと考えています。「やってみなければ分からない。まずは挑戦してみよう」と伝えるためにも、今まで以上にバッターボックスに立ち続けたいと考えています。

大学職員は裏方というイメージがあるかもしれませんが、私はもっと幅広く活躍できる役割だと考えています。既存の枠にとらわれず、挑戦していける仕事だと信じています。大学を取り巻く環境が大きく変化している今だからこそ、職員が主体的に行動する意味は大きいはずです。一緒に大学を「もっと面白い場所」にしていきましょう。



(文/伊藤理子)