カレッジマネジメント Vol.237 Jul.-Sep. 2023
未来をつくるデジタル人材と教育
編集長・小林浩が語る 特集の見どころ
これまでの延長線ではなく、産業構造の変化を見据えたデジタル人材育成を
Society 5.0社会の中核を担う現在の学生達
第4次産業革命が進行中である。IoTやビッグデータ、そしてAI等、通信技術やデジタル化のさらなる進展により、産業全体を大きく変える可能性が指摘されている。その先にある社会がSociety 5.0である。Society 5.0は、第5期科学技術基本計画において、わが国が目指すべき未来社会の姿として提唱されたもので、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)と定義されている。折しも、生成系AIであるChatGPT の登場や、AppleがMRゴーグルを発表したこともあり、Society 5.0が急速に身近に感じられるようになっている。現在、高校・大学で学んでいる生徒・学生は、まさにSociety 5.0の中核を担う人材であることは間違いない。
一方、そうした社会の到来に向けて、デジタル人材が足りないという掛け声は聞くものの、一体デジタル人材とはどのような人材なのか、どのように育成したらよいのかといった点については百家争鳴であり、まだまだ緒に就いたばかりともいえる。
文理分断から文理融合・横断・複眼へ今回の特集では、デジタル人材に求められるものは何なのかについて、有識者、各省庁や企業、大学、高校まで多くの取材を実施した。現状のデジタル人材は、企業からの求人上はかなり細分化されているが、今後技術の進歩によって、その区分が変化していく可能性も考えられる。全体としては、今後の社会でデジタル人材に必要とされる要素は大きく3つと考えられそうである。①最先端のデジタル技術を理解していること、②社会の変化や顧客の志向を理解していること、③ビジネス構造・業務プロセスを理解していること、である。そこで言われていたのが、文理融合、文理横断、文理複眼という観点である。
今号でご紹介した大学等の事例も、若干の違いはあるものの、文理の枠にとらわれず、社会課題やビジネスの課題について、デジタル技術を活用してどのように解決していくかという大きなコンセプトの部分では共通していた。高校においても、新学習指導要領において「情報Ⅰ」が必修となり、2025年の大学入学共通テストでも導入が進められている。そうなると、基礎レベルの情報は多くの高校生が身につけて大学に入学してくることになる。受け入れる側の大学は、全学的な共通教育の内容を見直す必要に迫られる。一方、リクルートの就職みらい研究所の調査では、従業員5000人以上の3割近く(28.4%)が、2025年以降の新卒採用において、「職務限定型(JOB型)」を検討しているとのことだ。一気にJOB型に移行するとは思わないが、こうした雇用環境の変化も視野に入れておく必要もある。今後、データサイエンス等Society 5.0に必須の知識については、英語とともに新たな共通教育に組み込まれていくだろう。そのうえで、各学部については、どの領域においてもより専門性を高め、高度化を進めるとともに、専門教育×データサイエンスといった視点が不可欠となるだろう。その点においては、共通教育、学部教育の双方に、大学の個性や考え方がより強く表れることになるだろう。
大学は、国が言うから、補助金が出るからという受け身な姿勢ではなく、主体的に将来を見通して各大学のミッション・ビジョンに合った人材育成を考えていく必要がある。これまでの延長線上ではなく、新たな社会を見据えた大学のあり方が問われている。
リクルート進学総研所長・リクルート『カレッジマネジメント』編集長 小林 浩
<総力特集>
未来をつくるデジタル人材と教育
Report
Talk 対談
デジタル人材育成のために大学と企業が進むべき方向性
吉武博通 学校法人東京家政学院理事長・筑波大学名誉教授
石原直子 株式会社エクサウィザーズ はたらくAI&DX 研究所
Report 企業取材
Case Studies
Society 5.0を担うデジタル人材の育成
東京理科大学 経営学部
文系・理系の枠組みを超え、科学的アプローチで経営課題を解決できる人材を育成
武蔵大学 社会学部 グローバル・データサイエンスコース(GDS)
社会学×データサイエンス×英語で社会課題解決を担う人材を育成する
南九州大学
データを取得・解釈して製品に落とし込むデジタル技術を用いた食品開発のプロを育成する
Report 進化する高校のデジタル人材育成
英理女子学院高等学校
アートや創作でなじんだテクノロジーを社会課題の解決にも生かすデジタル人材に
兵庫県立加古川東高等学校
情報の扱い方やツールの使い方を学べる環境で生徒の好奇心を刺激、「社会を切り拓く力」を育む
Contribution 寄稿
新しい情報科の目指すもの─高校の学習指導要領改訂で何が変わったのか
鹿野利春 京都精華大学メディア表現学部 教授
Case Studies
進化し続けるデジタル社会で新たな知を獲得するための社会人学習
青山学院大学 社会情報学部 ADPISA
多様なバックグラウンドの受講生に合わせて学習内容を最適化した履修証明プログラム
東京大学大学院工学系研究科・工学部 メタバース工学部
DXの課題を解決する人材のための企業のニーズを捉えたリスキリング講座
編集長の視点
<インタビュー>
2024年卒以降の新卒採用動向の変化
栗田貴祥 就職みらい研究所 所長
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TOP INTERVIEW
連載 データで見る高校生の今
連載 リカレント教育最前線
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松村直樹