これまでの延長線ではなく、産業構造の変化を見据えたデジタル人材育成を(カレッジマネジメント Vol.237 Jul.-Sep.2023)

Society 5.0社会の中核を担う現在の学生達

 第4次産業革命が進行中である。IoTやビッグデータ、そしてAI等、通信技術やデジタル化のさらなる進展により、産業全体を大きく変える可能性が指摘されている。その先にある社会がSociety 5.0である。Society 5.0は、第5期科学技術基本計画において、わが国が目指すべき未来社会の姿として提唱されたもので、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)と定義されている。折しも、生成系AIであるChatGPT の登場や、AppleがMRゴーグルを発表したこともあり、Society 5.0が急速に身近に感じられるようになっている。現在、高校・大学で学んでいる生徒・学生は、まさにSociety 5.0の中核を担う人材であることは間違いない。

 今回、SDGsに対して、実際どのように認識しているのかについて、高校生にアンケートを行った。すると、高校生の4人に3人がSDGsに「興味・関心がある」と回答している。その一方で、17の目標について日常生活のなかで、大切にしたり、注意して行動しているものを尋ねたところ、3割が「関心があるものがない」「分からない」と回答している。進学先を選ぶ際にSDGsに取り組む大学かどうかを参考にするかという問いについては、参考にする、しないがちょうど5割ずつという結果だった。

 興味・関心はあり、授業での取り組みも始まってはいるものの、現実的には身近なものになっていないのではないか、大学での学びやその先のキャリアとの関係性もそれほど強くないのではないかという現状も見えてきた。

 企業に目を向けると、日本経済団体連合会でもこれからのSociety 5.0の創造・実現を通じSDGsに貢献することを明確にしており(図)、事業戦略立案の重要な要素としてSDGsを置く企業も増えている。また、ESG投資が浸透してきており、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)といったサステナビリティに関する取り組みは、ビジネス機会に直結し、企業価値を高める一方、対応を放置しておくことは企業リスクになるとまで考えられるようになってきた。SDGsの社会的認知度や期待が高まる一方で、「SDGsウオッシュ」と呼ばれるような実態を伴わないうわべだけの貢献アピールをする企業も出てきている。

SDGs実現のためには、連携、協働、共創が重要に

 では、大学はどうだろうか。そもそも、SDGsが採択される以前から、当然のように社会課題解決に取り組んできた。そういった意味では、今回の特集でも、これまで取り組んできたことをSDGsという枠組みを使って整理し直して、教職員や学生と共有したり、教育・研究に取り組んだり、社会に分かりやすく発信するという大学が多かった。現在の社会課題はより複雑化し、単独の学問分野では解決しづらいものとなっている。そうした課題に対して、大学が人材育成や研究、社会貢献としてどのように取り組んでいくのかが問われている。現在、政府で議論されている文理融合、横断、複眼教育はその一つの例であろう。学問分野の壁や組織の壁を越えた連携や協働、共創も重要なポイントとなる。そうした意味において、SDGsを独自の特別なものと捉えず、ビジョンやパーパスの実現に向けて、あらゆる意思決定のなかに柔軟に組み込んでいく必要があるのではないか。

 2015年の国連サミットで採択された文章の正式名称は、「Transforming Our World(我々の世界を変革する)」である。SDGsはそのなかの一部に記載されているものだそうだ。SDGsの本質が世界の変革なのであれば、未来社会をどのように「変革」していくのか、大学はその重要な一翼を担っていくという覚悟が求められるのではないだろうか。


図 日本経済団体連合会 包括提言「Society 5.0 ─ともに想像する未来─」 


 

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リクルート進学総研所長・カレッジマネジメント編集長

小林 浩

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