情報の扱い方やツールの使い方を学べる環境で生徒の好奇心を刺激、「社会を切り拓く力」を育む/兵庫県立加古川東高等学校

学校DATA
■生徒数(2023年度)955名(男子435名、女子520名)
■進路状況(2022年度)大学274名、短大0名、専門学校1名、就職1名、進学準備等35名

画像 兵庫県立加古川東高等学校 SSH担当 新氏、探究担当 傍士氏、教育企画部長 鵜飼氏、STEAM担当 谷口氏

好奇心と、挑戦する勇気を学びの起点に

 兵庫県立加古川東高等学校は、普通科と理数科で編成された学校だ。2006年度から現在まで、国のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校として、科学技術系人材の育成に注力。2020年度から2022年度にわたり、兵庫県のSTEAM教育実践モデル校として、Science、Technology、Engineering、 Art、Mathematics を組み合わせ、生徒が課題解決や価値創造に挑む教育も推進。そうした学習を推し進めるための環境として、高性能パソコン、3Dプリンタ、レーザー加工機、VRゴーグル、ドローン、プログラミング教材等も校内に取り揃えた。その充実したデジタル環境の中で、同校では、特に生徒のどんな素養を高めることを目指してきたのだろう。

 STEAM 教育の柱に据えたのが「好奇心」「関与力」「課題解決力」の向上だ(図1)。なかでも重視したのが「好奇心」だという。SSH担当で、STEAM教育にも関わってきた新友一郎氏は、その理由を次のように語る。

 「本校は2018年に育てるべき生徒像を設定し、『将来において「正解」のない社会を切り拓く力』の育成を目指してきました。その中で、生徒に今一番足りないのは『新しいことに挑戦する勇気』ではないかという課題感を持ったのです。だから、ワクワクして自ら新しいことに踏み出すような『好奇心』を根底として育てようと」。


図1 STEAM教育の目標


デジタル社会だから可能な「思考」や「挑戦」

 SSHとSTEAM教育の主な活動をまとめたのが図2となる。教科横断型のSTEAM教育は、通常授業でも行うが、軸となるのが夏休みの特別講座だ。企業や大学、OBと連携し、2020年度に13講座から始め、2022年度は27講座を実施。AI研究、電子工作、デジタル作品づくり、行動分析、地域デザイン等幅広い内容で、希望者が好きなだけ受講できる。そして自分が興味を持った分野で、デジタルツールやデータサイエンスにもふれる。

 こうした講座は、「理系の生徒はもちろん、普通科の文系の生徒により大きな変容をもたらした」と新氏は言う。

 「例えば地域デザインの講座では、ビッグデータを分析して加古川市の課題を発見し、政策提言することに挑みました。すると、『データを活用して根拠あるアイデアを出せた』のが面白かったそうで、以降も生徒達が勝手に動き出したのです。分析が合っているか知りたい、と言って、市役所や地元企業への取材も行い、政策アイデアコンテストにも出場して賞を取って。他の講座も含めて、その分野に興味のある仲間で集まり、互いに高め合える環境だったのも良かったのだと思います」(新氏)。

 STEAM特別講座、及び長年のSSHの知見を生かした探究活動・課題研究は、生徒の思考力を高めることにも一役買っている、と探究担当の傍士知哉氏は言及する。

 「文系の生徒の探究活動でも、コンピュータで統計データの分析やテキストマイニングを行い、科学的な実証まですることが増えました。生徒に対する意識調査でも、1年次と3年次を比較すると、『分析力』や『課題発見力』の項目で大きな伸びが見られるのです」。

 その成長に手ごたえがあるからこそ、大学入試では「生徒の探究心や思考力の面もぜひ評価してほしい」という。

 「本校の生徒のことは、以前は『まじめで一生懸命勉強するが、ちょっと大人しい』と思っていました。ですがそれは、踏み出すチャンスをもたらせなかった学校の責任でもあったと今は感じています。好奇心を刺激し、科学的思考やテクノロジーも使って学ぶ場があると、生徒はどんどん伸びていく。そう実感しましたから。今後も、生徒の中に潜在的にあるものを発掘して伸ばすような取り組みを広げられたらと思っています」(新氏)。


図2 課題研究・探究活動(全員)とSTEAM特別講座(希望者)の位置づけ



(文/松井大助)




【授業】国語の授業で批判的思考力を磨く

同校は「批判的思考力」の向上にも力を入れている。批判的思考とは、次の3つの要素からなると定義。

  • 知識……考える対象に関する知識、論理学の知識等
  • スキル……知識を使いこなす技術(練習で磨ける)
  • 態度……他者や自分を批判的に捉えようとする態度

これらを高めるために、生徒が論理や論証の基礎を学び、討議や論文作成を通して批判的思考のレッスンも重ねる、という国語の授業を行っているのだ(理数科は学校設定科目「科学を考える」、普通科は「現代の国語」「論理国語」で実施)。そこで鍛えた思考力が、探究活動や課題研究にも生かされる。


【課外】好奇心に火をつけるSTEAM特別講座

特別講座1年目はSTEAM(Science、Technology……)の頭文字に沿って講座を開設、理系寄りだった。2年目からはそこに縛られず「ワクワク」をキーワードに幅広い講座を開設(詳細はホームページで確認できる)。文系の生徒も参加しやすくなり、各自が興味ある分野で科学的思考やテクノロジーを使いこなす学びに進化した。


画像 地域デザイン講座でデータ分析に挑戦、プログラミング×電子工作の講座



【授業】探究活動や課題研究で仮説形成・検証・実験

理数科の課題研究や、普通科の探究活動は、生徒が「仮説形成→検証→実験→考察→発表」のプロセスに則って課題発見・解決に向かえるように後押し。また、コンピュータを使った分析やクラウドのデータの協働編集等、デジタルツールの活用も促す。そうしたサポートを全教員で担えるよう、指導や助言のポイントを共同検討する職員研修会も実施。教育企画部長の鵜飼義人氏は「SSHやSTEAMの方針を理解して協力し合う体制が整ってきた」のを感じているという。


画像 デジタル環境が充実したSTEAM教室



【課外】STEAMデーで学びの成果を発信

STEAM特別講座については、生徒がオンラインの仮想空間で学びの成果を発表する機会(STEAMデー)や、生徒が講師役となって地元中学生にも体験してもらう機会(STEAMオープンデー)を設けている。現STEAM担当の谷口正明氏は、昨年度は3年生の担任を務め、「特別講座に熱中した生徒達が学校推薦型選抜でも力を発揮した」のを体感したそう。好奇心を持って学び、アウトプットもしていくこの活動で、生徒の力をさらに引き出したいと考えている。


画像 アプリで絵本制作する「かがくえほん講座」



【印刷用記事】
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