アートや創作でなじんだテクノロジーを社会課題の解決にも生かすデジタル人材に/英理女子学院高等学校

学校DATA
■生徒数(2023年度)536名(女子のみ)
■進路状況(2022年度)大学114名、短大12名、専門学校27名、就職2名、進学準備等11名

画像 英理女子学院高等学校 理事長・校長 髙木暁子氏、情報科 古山智基氏

テクノロジーを生かして価値を生み出す人に

図1 ⅰグローバル部の教育方針、図2 英理女子学院高等学校の学部制

 横浜市にある英理女子学院高等学校は、2019年度に新学部「iグローバル部」を設立、重点分野にICT&理数リテラシーを掲げた教育に乗り出した(図1)。また、既存の4つの専門学科(普通・商業・情報・家庭)についても「キャリア部」の4コースに改編(図2)、情報デザインコースでは、アートとテクノロジーを組み合わせた学習を推し進めている。学校設備も刷新。IoTを提唱した坂村 健博士の監修のもと、全館Wi-Fi対応、プロジェクター完備、電子工作スペースも備えた学習環境を整えた。

 改革を主導したのが、現理事長・校長の髙木暁子氏だ。かつては大手メーカーでマーケティングを担当し、ロンドンのビジネススクールでMBA 取得後、教育界に飛び込んだ経歴を持つ。ビジネスの現場と比較して「学校教育はこのままでいいのか」と常々感じていたという。その思いを加速させたのが、2010年代半ばに、のちに学習環境の監修を依頼する坂村氏の講演を聴いたことだった。

 「IoT やAI が世の中に与えるインパクトを分かりやすく話して下さって、目から鱗が落ちるほど衝撃を受けたのです。いつでもどこでも世界中の人やモノとつながることのできる情報社会は、結婚や出産等ライフステージごとに環境が変わりやすい女性の生き方の可能性も広げます。115年前、曾祖母の髙木 君は、福沢諭吉の話に感銘を受け、『社会で信頼され、役立つ女性』を育てようと本校を作りました。私も坂村先生のお話をお聴きし、これからの世の中で女性が活躍するための教育というのを、本気で考えるタイミングがきたように感じたのです。そこから一連の改革の準備を進めていきました」。

 目指すのはICTスキルの習得だけではない。教科授業、課外活動、探究活動を組み合わせ、テクノロジーを使った「創造」「課題解決」のための思考力や行動力も育む。

 「デジタル製品をただ使う『消費者』になってほしいわけではないのです。どんな分野でもいいので、自分達の課題解決のために、デジタルツールを自ら作って使ったり、既存のツールを目的に応じて使ったりして、『新しい価値を生み出す人』になってほしいと思っています」。

若者はデジタルツールを活用したがっている

 情報社会やデジタル社会に対する「生徒の受け止め方が変わってきた」とも髙木氏は感じている。一昔前、同校の「情報科」を志望する女子は限られていた。しかし現在の「情報デザインコース」はキャリア部の中でも人気のコースであり、新学部「i グローバル部」にも意欲的な女子が集まるようになった。背景には、同校が「アートやビジュアル作品等、女子が興味を持ちやすい分野にテクノロジーが役立つことを示した」こともある。加えて、今の生徒達は、そうして自分の興味のある分野でテクノロジーになじむほど、日常生活や社会課題解決にも、デジタルツールをどんどん活用していこうとする素地を備えていることが分かってきたのだ。

 「特に女子生徒には『情報や体験の差し出し方』が重要なのだと感じています。最近では大学の情報・理数系でも女子生徒の枠を広げる動きがみられますが、従来型の発信のままでは、生徒の目にとまりづらいかもしれません。それだけに、高大連携等で女子生徒がデジタル分野にワクワクするような情報や体験を増やし、一緒に間口を広げていくことができればありがたく思います」。



(文/松井大助)




【授業】情報Ⅰで高めるリテラシー思考力、コミュニケーション力

2022年度から必履修科目となった情報Ⅰでは、プログラミング等の「情報技術」、情報を安全に責任を持って使うための「情報モラル」、効果的なコミュニケーションを行うための「情報デザイン」等を学ぶ。授業を受け持つ古山智基氏は、教科書に準じつつ、今の時事問題について生徒がディベートやレポート作成をする活動も導入(ロシア・ウクライナ戦争のサイバー集団の活動の是非を議論する等)。「世の中に出たときに必要なことを学ぶ」授業を心がけている。


情報Ⅰのディベートの授業



【授業】情報系科目で作品づくり手に職となるスキルを磨く

キャリア部情報デザインコースでは、「情報テクノロジー」や学校設定科目「情報デザイン」の授業で、プログラミングやデザインソフトの使い方を学びながら、アートとテクノロジーを融合させた作品制作に挑む。誰に何を伝えるかまで意識して、パッケージデザイン、ポスター、スタンプ、動画、ゲーム等を作るのだ。目標は、フリーランスでも就職先でも生かせる創作スキルの習得。3年次には作品を1冊の「ポートフォリオ」にまとめ、大学入試にも活用する。


生徒が自作・販売までしたスタンプ



【授業】探究活動で、社会課題をデジタル技術も使って解決

英理女子学院の探究活動のゴールは「自分なりの行動で1cmでもいいから世の中を変えること」。生徒は3 年間の活動で、自ら見据えた社会課題の解決のために、デジタル作品の創造や、デジタルツールの活用を行う。啓発ポスターを自作し、街中に掲示してもらえるよう企業や官公庁に働きかけたり、海外の教育支援のクラウドファンディングを立ち上げ、失敗を乗り越え成功させたり、子宮頸がんワクチン啓発のWebサイトを自作したりする、というように。


社会に働きかけるポスターやサイト



【課外】有志の講座やクラブ活動で好きな創造や探究にのめりこむ

 希望制のプログラミング講座では、オンラインで大学の先生や大学生からアドバイスをもらいながら、数週間にわたり、生徒達がビジュアルプログラミングの作品づくりに挑戦。アニメーション部の生徒は、外部講師によるイラスト作成講座でも学び、ワープロ部の生徒は、文書作成ソフトによるチラシづくりも行っている。放課後サイエンスクラブの生徒達は、製パン会社による小麦栽培研究プログラムに参加、小麦を育てながらデータ分析にもいそしんでいる。


プログラミング講座の様子



【印刷用記事】
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