社会学×データサイエンス×英語で社会課題解決を担う人材を育成する/武蔵大学社会学部 グローバル・データサイエンスコース(GDS)

 ここ数年、データサイエンスに関する学部・学科等を開設する大学が相次いでいる。2017年に開設された武蔵大学社会学部のグローバル・データサイエンスコース(GDS)はその先駆的存在だ。社会学部でデータサイエンスが学べること、英語教育をもう1つの柱としていること等、他大学と比べても独自色が強いGDSの狙いや教育内容について、社会学部学部長の粉川一郎氏、同学部メディア社会学科教授の庄司昌彦氏にお話を伺った。

画像 武蔵大学 社会学部学部長・教授 粉川氏、社会学部メディア社会学科教授 庄司氏

GDS設置の背景にあった当時の状況への危機感

 「GDS開設の背景にあったのは当時のデータサイエンスへの社会的な認識に対する危機感でした。データの利活用が社会的に活発になるなかで、データサイエンスの理系的な側面にばかり注目されているように感じたのです。しかし、データサイエンスは、まず何らかの解決するべき課題があり、それを解決するためにデータを集め、加工し、分析する学問です。このうち最も大事なのは課題を発見することであって、計算さえできればいいわけではありません。それに対して、私達社会学部では、社会課題に関する学びから、調査・分析に至るまで長年にわたって取り組んできています。この蓄積を活かしてデータサイエンス教育に関して独自の貢献ができるだろうと考えたのです」(粉川氏)

 社会学部ならではの強みはカリキュラムの面でも明らかだ。庄司教授は次のように説明する。

 「他大学のデータサイエンス学部・学科等とカリキュラムを比較すると、GDSの学生たちは『○○と社会』といった科目を非常に多く学んでいます。教育、ジェンダー等様々な社会課題を専門的に学ぶことで、社会に対する理解を深めることができるのは、社会学部だからこそといえるでしょう」

 また、コース名に“グローバル”と冠しているように、英語教育に力を入れていることも大きな特色の1つだ。

 「データを集めるときに、国内のデータしか利用できないのでは限界があります。世界中にあるデータにアクセスするためには、そこで尻込みしないよう基礎的な英語力を身につけておくことは非常に重要です」(粉川氏)

 英語に関しては、1年次の海外英語研修や2~3年次の英語を活用したボランティアやインターンのほか、英語のデータで分析を行うゼミも新たに始まっている。

 加えて、外部企業と連携した授業や企業インターンシップ等、実践的な教育が充実しているのも特色の1つだ。

 「例えば、コンサルティング会社のADKマーケティング・ソリューションズと連携した授業では、実際のマーケティングデータを用いた商品やサービスの提案等も行います。企業インターンシップは長期にわたり企業の現場に入って学んだことを実践するプログラムです。即通用するほど甘くはないので、学生は打ちのめされて帰ってくることもありますが、その経験が成長につながり、卒業論文等に活かされています」(庄司氏)


図1 問題提起から提案まで、全体をデザインできるスキルを磨く


GDS卒業生に期待されるのは“編集者的役割”

図1 問題提起から提案まで、全体をデザインできるスキルを磨く

 なお、GDSでは、データサイエンスや英語等の専門的な教育は1, 2年次に集中させ、3,4年次は、社会学部のGDS以外の学生とともに学ぶ機会を増やしているという。GDSの学生は学科内の様々なゼミに分散していく。

 「一般社会と同じ構図です。多様な学生がいるなかで、データサイエンスや英語という強みを活かしてどのような貢献や提案ができるかを自分で考えて研究に取り組んでいく。それによってデータサイエンスにとどまらない幅広い視野や協働する力が養われていきます」(粉川氏)

 一連の教育を通してGDSが育成を目指すのは、前述のように、社会課題の発見から、データ分析、それに基づく解決策の創出までを一気通貫で行うことができる人材だ(図1※)。そのニーズは、特定の業界や職種に限定されるものではない。

 「DXが時代のキーワードになっているように、今や行政であれ大企業であれ中小企業であれ商店であれ、どのような組織においてもデータに基づいて変革が起こせる人材が求められています。私達も、データ分析だけが得意という人を育てようとは考えていません。GDS卒業後の人材像としてイメージしているのは、様々な組織で、問題を設定して、その問題を解決するための方法やチームをデザインできるような“編集者的役割を担う人”です」(庄司氏)

 開設から5年。すでに3回卒業生を送り出し、実際に幅広い業種にまたがる企業や省庁で活躍している。

 一方、GDSのこうした取り組みが企業や受験生にまだ十分に浸透していないことは今後の課題だという。

 「GDSの教育内容を企業の方に話すと、『まさにそういう人材を求めているんです』という声が返ってくるのですが、個別に説明しないとなかなか伝わらないのが実情です。また、受験生に関しては、社会学部ということで理系の生徒の選択肢に入りにくいという問題もあります」(粉川氏)

 データサイエンスに関する社会の理解も徐々に進んできているなか、状況に合わせてどのように広報や情報発信に取り組んでいくかが目下の課題だという。



※図1 情報源 https://www.musashi.ac.jp/faculty/sociology/gds/



(文/伊藤敬太郎)


【印刷用記事】
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