2024年卒以降の新卒採用動向の変化
コロナ禍を経て企業の採用意欲の回復傾向が見られる昨今。学生をとりまく就職環境の現状と今後の展望について、
株式会社リクルート 就職みらい研究所所長・栗田貴祥氏に、
同研究所が発表している『就職白書2023』『就職プロセス調査(2024年卒)』などをもとに聞いた。
企業の堅調な採用意欲により就職活動は早期化・長期化傾向に
まず、直近の新卒就職・採用活動の動向として、2023年春に卒業した学生(以下、2023年卒学生)と、現在就職活動を進めている2024年卒業予定の学生(以下、2024年卒学生)の活動結果ならびに活動状況について聞いた。栗田氏によると、学生の就職活動時期・期間は「早期化、長期化」の傾向にあり、2023年卒学生においては「第一志望群の企業に入社する学生が増加した一方で、入社予定企業への入社に納得している学生は減少」という特徴が見られたという。
具体的には、2023年卒学生においては、3月卒業時点での大学生の就職内定率は96.8%と前年と同水準であったが、月ごとの内定率を見ると、2022年2月1日時点(13.5%)から6月1日時点(73.1%)まで、現行の就職・採用スケジュール(卒業年次前年3月に広報開始、卒業年次6月に選考開始)となった2017年卒以降の最高値で推移。2024年卒学生においても、2月1日時点(19.9%)から5月15日時点(72.1%)に至るまで前年を上回る内定率で推移している。4月1日時点での内定率を経年で見ると、2022年卒では28.1%、2023年卒では38.1%、2024年卒では48.4%と約10ポイントずつ増加している状況で、就職・採用プロセスが早期化していることが分かる(図1)。参考データになるが、大学院生においてはより顕著で、4月1日時点で72.3%、5月1日時点で88.2%と過去2年よりもさらに高い水準で推移している(図2)。
早期化の要因について、栗田氏は「企業の採用意欲の高さと、オンライン化による採用プロセスの効率化」の2点を挙げる。「労働力人口が中長期的に減少していくことが明らかであること、また、コロナ禍も4年目に入り、企業がコロナ禍を前提とした成長戦略を描けるようになり、かつ、景気の回復局面にある状況に乗り遅れたくないという考えから、若手人材を確実に採用していきたいという意欲が高まった。また、コロナ禍で一気に進んだオンラインを活用した採用手法によって、採用の各プロセスが効率化され、結果として、業種や企業規模によらず全体的に内定が出る時期が早くなっている」と栗田氏は分析する。
さらに、2024年卒学生の就職・採用活動の早期化傾向には、これら2点に加えて「2023年卒採用において採用予定数を充足できなかった企業の多さ」も影響しているという。「2023年卒採用で採用予定数を充足できた企業は40.4%で、約6割の企業が未充足(図6)。未充足分を取り返すために早い時期から学生にアプローチし、状況を見定めながら二の矢、三の矢を打つ想定で採用活動を進めている企業が増えているのではないか」と栗田氏。
他方で、2024年卒学生の進路確定率は、4月1日時点で28.5%、5月1日時点で41.5%と、内定率の伸びに比べるとやや落ち着いている(図3)。この点については「学生の心情として、内定は得たものの大手企業の内々定が出る6月までは活動を続けようと思っている学生が一定数いるため」と分析する。
これらから、学生にとっては、活動時期が早まっており、人によっては活動開始から入社企業決定までの期間が長くなる場合があるというのが、現在の就職環境であると言える。そして、マクロで見ると内定を得やすい状況でもあり、「人気企業にこだわりすぎずに、仕事をするうえで大事にしたいことや自分の強みをどのような仕事で生かせるのかなどについてしっかりと追求していけば、自分らしく働ける1社に巡り合えることができるはず」(栗田氏)とのことだ。
第一志望群に入社する学生が増加。ただし、「納得して入社」の学生は減少
もう1点、栗田氏が近年の特徴的な傾向として挙げたのが、「第一志望群の企業に入社する学生が増加傾向にある一方で、入社予定企業への入社に納得している学生は減少傾向にある」という点だ。2023年卒学生において、入社予定企業が就職活動開始当初からの第一志望群であった学生は61.5%で、前々年よりも約11ポイント、前年よりも約6ポイント増加したが(図4)、他方で、入社予定企業等に就職することに「納得している」ことについて「当てはまる」「どちらかというと当てはまる」と答えた学生の合計は72.4%で、前々年よりも約5ポイント、前年よりも約1ポイント減少した(図5)。この要因について栗田氏は、「あくまで推測だが」と前置きしながら「コロナ禍にあって自ら主体的に決めて行動した経験が少ないと感じている学生が多く、対話を通じた客観的な自己理解、仕事理解を深めきれなかったからではなないか」と分析する。「自分らしさや自分の強みは、主体的に取り組んだ経験のなかから紐解いたり、人と比べて『自分はどうだっけ?』と相対化したりして内省を深めていく部分がある。しかし、コロナ禍でその機会が限られてしまったために、『自分らしい選択を』と言われても何が自分らしい選択か分からず、自身の決定に対する自信のなさや不安が納得度に表れているのではないか」と栗田氏。そして、「学生が『自分らしさ』や『自分の強み』を探索し、それらを発揮できる企業・環境を探索していくプロセスは、大学が大いに支援できるところ」と続ける。
マス型から個別型へ。今後必要とされるキャリア支援
学生が自分らしさや強みを知り、それらを発揮できる企業を探索するための支援として、大学は何ができるのか。栗田氏は「マス型から個別型のキャリア支援に軸足を移していく必要がある」と指摘する。「『強み』や『自分らしさ』は一人ひとり異なるため、それらを一括りにして『こういう業界にいけばこうなれる』といった話に対して、学生はフィット感を覚えなくなっている。また、就職ガイダンスも、その内容が就活のスキル・ノウハウに関するものであればあるほど、『タイムパフォーマンスが悪い』と敬遠し、YouTube等にあふれている類似の内容を倍速で見て学ぶ傾向にある。マス向けの発信ではなく、一人ひとりの学生の『らしさ』や『強み』が何で、どのような仕事・職場であれば貢献感や自己効力感を持って働けるのかを一緒になって考えていくような支援がより重要になってくる」と栗田氏。
さらには、学生の視野を広げるサポートの重要性も指摘する。「学生からすると、今の就職市場は追い風が吹いていて、学生の狭い視野のなかで定めた企業や仕事に就きやすい状況にある。その分、自己探索や環境探索が不十分な状態で入社し、『思っていたのとは違う』となる可能性もはらんでいる。個々の学生の『らしさ』や『強み』をふまえて『あなたがやりたいというこの職種だけでなく、関連するこの職種も見てみれば?』等と視点をピボットして広げていけるようにするのは、支援のあり方の一つ」とのことだ。
2025年卒学生から「インターンシップ」と呼べる取り組みが限定的に
学生への支援のあり方を検討するうえでも押さえておきたいのが、インターンシップをはじめとした学生のキャリア形成支援に係る取り組みが4つに類型化されたことだ。2022年6月、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の合意による「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」(3省合意)の改正により、日数や目的、就業体験の有無などに応じて「タイプ1:オープン・カンパニー」「タイプ2:キャリア教育」「タイプ3:汎用的能力・専門活用型インターンシップ」「タイプ4:高度専門型インターンシップ」の4つに分けられ、2025年卒業予定の学生が参加することになる種々のキャリア形成支援プログラムから適用される(図7)。
それぞれのおおまかな違いは、タイプ1は就業体験を必須とせず、単日で個社や業界に関する情報提供やPRを行うことを目的とするもの、タイプ2は就業体験を必須としない、働くことへの理解を深めるための教育(日数は任意)、タイプ3は就業体験を通じて学生は自らの能力を見極め、企業は学生の評価材料を取得することを目的とする5日間ないし2週間以上のもの、タイプ4は修士・博士課程の学生を対象とし、就業体験を通じて学生は自らの実践力の向上を、企業は学生の評価材料の取得を目的としたもので、タイプ3とタイプ4のみを「インターンシップ」と呼ぶこととされている。
従来、大学が正課で「インターンシップ」と呼んで行ってきたものの多くは、この分類においてはタイプ2の「キャリア教育」に該当するため、「これまで企業と連携して行ってきた取り組みを、今後どのように展開していくのか、改めて設計し直す必要が出てくるかもしれない」と栗田氏は話す。とはいえ、企業にとってタイプ3を実施する負荷は大きく、「実施するかどうかはまだ様子見の企業も多いため、大学としては、これまで実施してきたタイプ2の取り組みを生かしながら、どのような内容が学生にとってより良い支援になるのかを考え、企業との連携のあり方や取り組み内容のブラッシュアップをしていくとよいのでは」とのことだ。
また、類型化を受けた企業の動きとしては、手軽に学生と接点を作ることのできるタイプ1の取り組みが大きく増える可能性も考えられると栗田氏は予測している。「学生にとってもタイプ1は単日で手軽に参加できるため、視野や選択肢を広げる目的で参加するのに適した取り組み。関心が低い業種・職種のものであっても、参加してみて興味を持つことができれば選択肢が広がるし、やっぱり興味を持てないと思えばそれも初職を決めるうえでの判断材料になる。タイプ1に参加したうえで、興味を持った業種・職種について深く知るためにタイプ3の取り組みに参加するというような形で、目的を持って活用していくことが大事になってくる」と続ける。
なお、2026年卒業以降の学生を対象に、タイプ3のインターンシップのうち専門活用型インターンシップで、かつ、卒業年次前年の春休み以降に実施されるものについて、所定の要件を満たせば、3月1日から選考を開始できるとする現行の就職・採用スケジュールを、一部、弾力化するという考えが2023年4月に関係省庁より出されている(図8)。
「学ぶ」と「働く」のより良い接続のために大学ができることとは
就職・採用活動のあり方については、選考の時期を中心に長年議論がなされているが、「一律のルールを課すことに限界が来ているのかもしれない」と栗田氏は指摘する。「価値観や一人ひとりの背景が多様化しているなかで、皆が同じタイミングで就職・採用活動をすること自体が難しくなっており、現行の就職スケジュールに沿って活動できない学生も見られる。柔軟性や弾力性を持たせるべく新しい試みに挑戦することは大事なこと」と話す。その萌芽として、2025年卒以降の採用で職務限定型(ジョブ型)採用を「導入する予定」「導入を検討している」という企業が14.2%見られ、特に従業員規模が5000人以上の企業においては28.4%に上るという。多くは初任配属のみを確約し、その後は職務変更の可能性も想定している「初任配属確約採用」とも言えるものと見られている。
この採用形態の導入背景として、栗田氏は「専門領域の経験を積んだうえで、必要に応じて転職も含めた社外での活躍を志向する学生が過半数になってきていることを受け、企業として初任配属を確約することで内定辞退を抑止し、優秀な人材を確保したいという意向がある」と指摘する。加えて、「この形の採用が広がることで、個々の学生の大学での学びに企業が着目し、学問的な専門性のみならず、論理的思考や学び続ける力などの汎用的能力も含めて評価する動きが加速するかもしれない。さらには、それらを発揮できる仕事への配属を確約するという接続がなされるようになれば、より『学ぶ』と『働く』の接続が強化され、高校・大学・社会の接続がもっともっと生まれてきやすくなる」と期待を寄せる。「大学での学びに着目し適切に評価するという観点が企業に不足していることには大きな課題があるが、大学側もどのような情報を出していけば企業が評価、判断しやすいかという点に目を向けて一層の工夫をお願いしたい」と続ける。
さらに、キャリア支援のあり方として、「大学や課外活動における学びを内省し、概念化・言語化してまた新たな場面で実行・実践するという経験学習サイクルを学生が回せるよう、大学の先生方一人ひとりが意識的に支援してもらえれば」とも期待を寄せる。「専門的な知識・スキルはもちろん重要だが、アップデートが必要になるものでもある。時代の要請に合わなくなっても、新たな環境の変化に適応できるよう主体的に行動できることや、学び続けられることが新卒学生にも期待されている。この点を意識して、ゼミや授業などにおいて、学生が自らの経験を振り返り、言語化してアウトプットする訓練を行っていくことができれば、自分らしく活躍できる職場に巡り合える可能性は高まると思う」と栗田氏。
新卒就職・採用活動には多様な課題があるが、学生一人ひとりが「自分らしさ」や「強み」を見つめ、それらを発揮できる企業や仕事に巡り合えるよう支援していくことは、これからも大学・企業にも求められることであろう。この視点が失われることなく支援がなされることを期待したい。
(文/浅田夕香)
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