文系・理系の枠組みを超え、科学的アプローチで 経営課題を解決できる人材を育成/東京理科大学 経営学部
文理横断・文理融合教育の推進が言われる中、先んじて1993年に理工系総合大学として初めて経営学部を設置し、30年にわたり科学的アプローチによる経営の理論と技法の研究・教育に邁進している東京理科大学。近年は、2016年にビジネスエコノミクス学科を、2021年に国際デザイン経営学科を設置し、デジタル分野の知識・技術を備えた企業経営に資する人材の育成に注力している。それらの取り組みと今後の方向性について、椿 美智子経営学部長に伺った。
デジタル技術と経営学の両方に長けた人材を育成
理工系総合大学であるからこそ持つ知識の体系を生かして、理学と工学、情報学の知識に基づいた数理的・実証的アプローチを積極的に活用し、文系・理系の枠組みを超えた新しい視点に基づく経営の理論と技法を研究・教育する学部として1993年に開設された経営学部。当初は経営学科1学科での構成であったが、2016年には、ビッグデータをビジネスの視点から素早く分析し、企業の意思決定に活用できる力を培うビジネスエコノミクス学科を、2021年には、先の見えない時代の複雑な問題をデザインの観点からデジタル技術を駆使して課題を解決する力を培う国際デザイン経営学科を開設。「時代や技術の変化をキャッチアップし、情報理工系のアプローチを生かした新しい経営学を構築・創造している」と椿学部長は話す。「AIやVR、AR等、ハイスピードで開発され続けている技術を海外の企業は積極的にビジネスに利用している。このDX時代に成功するビジネスを推進することができるのは、これらの技術と経営学の両方を理解している人材であると考え、デジタル人材の育成を目標の1つにしている」と続ける。例えば、昨今重視されているデータサイエンスに関しても「既存の理論や方法を活用できるだけでなく、新たな応用展開を牽引し、経営学に発展できるように教えている」(椿学部長)という。
3つの学科ごとに特徴あるカリキュラムを構成
学部として育成を目指すのは、「経営の諸問題や企業が取り組むような社会課題を自ら俯瞰・発見・解析することができ、その解決方法を創出・選択できるような主体性、自立性、共感性を持った人材」であるが、「各学科で目指す人材像は微妙に異なり、カリキュラムもそれらに合わせて学科ごとに構成している」(椿学部長)という。
具体的には、経営学科では、経営を俯瞰して戦略を立て、解析によって実証しながら科学的経営のできる経営のプロフェッショナルの育成を目指す。そのために、経営戦略や会計、ファイナンス、マーケティング等の知識をバランスよく学びながら、数学や統計学、プログラミングスキル等も鍛え、本質を捉えたうえでの解決策をデータによる検証分析から導き出せる力をつけるカリキュラムを組んでいる。
ビジネスエコノミクス学科では、数理モデリングとデータサイエンススキルを学んで数学的解析力とデータ分析力を身につけ、企業経営に不可欠な経済理論を基礎に数理的思考力に裏打ちされた最適な意思決定をスピーディに行うことのできる人材を育成するカリキュラムを組んでいる。「成功しているテック企業は、ビッグデータを分析した結果に基づいて経営者が意思決定をしている。そのような、理論とデータ分析をもとに経営に関する意思決定ができる力までを養うことがこの学科の特徴」と椿学部長は話す。
そして、国際デザイン経営学科では、デザインの観点からビジネスを捉える力と、デジタル技術を用いて問題解決につながるプロダクトやサービスの開発能力を養い、共感力と理解力の高い国際的なイノベーションリーダーの育成を目指す。「デザイン系科目の講義や演習を通じて生活者に寄り添い、見えないニーズや課題を拾い上げる観察力を養いながら、基礎的な数理分野やプログラミング、応用的なデータ分析やデジタル技術の活用法も学ぶカリキュラムを組んでいる」と椿学部長。
これらの学びを経て、卒業生は情報通信業や金融業、コンサルティング業等に就職。大学院に進学してさらに専門性を高める学生も約1割に及ぶ。「期待しているのは、入社後の業務における活躍のみならず、年数を重ねて経営の意思決定に関わる場面での活躍」だという。
3学科の共創による問題解決も視野に
学部組織としての文理融合も順調で「教員が文科系のアプローチと理科系のアプローチの違いを互いに尊重し、コミュニケーションがとれている」と椿学部長は話す。椿学部長自身が、組織をマネジメントするうえで「個々の先生方の学問を理解すること、また、学部内の様々な会議においてディスカションができる雰囲気を常に作ることに努めている」とのことだ。「自分とは異なるアプローチ方法や考え方に対して、自分の視野だけでコメントしていると組織はうまく機能しない。文理が融合すると新しいものが生み出せるのだという視点を持って、それぞれの先生方の目指すものとアプローチ方法を学び、多様な視点を尊重したうえで意見を集約していくことがマネジメントのポイント」と話す。
今後の学生の教育については、3学科の学生が混成でグループを組み、問題解決に取り組む科目の設置を検討する等、「さらに一歩進んだ融合型学部になっていきたい」と意気込む。「これだけ幅広い要素が整っている学部なのだから、3学科で共創することで、これまで解決できなかった難しい問題にも取り組みたい」と椿学部長。
また、経営学研究科が時間差で文理融合の学びを進めようとする学生の受け皿になるよう体制を整えていくことも検討しているという。「学部で経営学を学んだ学生が大学院で数理やデータサイエンスを、学部で工学や情報学を学んだ学生が大学院で経営学を学んでから社会に出て活躍するのも文理融合の一つ。どちらのタイプの学生が本学の経営学研究科に入ってきたとしてもスムーズに学びを進められるよう、他大学の先生方とも連携していきたい」と椿学部長。理科大が輩出する経営人材の今後の活躍に注目したい。
(文/浅田夕香)