入試は社会へのメッセージ[7]総合型選抜 探究力入試「Q」/奈良女子大学
「共に知を創造する仲間」を選抜する
奈良女子大学(以下、奈良女)は、2021年度入試から総合型選抜探究力入試「Q」(以下、Q入試)を導入した。その内容や検討経緯について、アドミッションセンター長の小川伸彦教授、同センター員の小野寺 香准教授にお話を伺った。
高大接続改革の羅針盤としてまずアドミッションポリシーを改訂
導入の背景には、国を挙げて議論された高大接続改革がある。国大協が掲げた「推薦・AO・IB等の拡大(入学定員の30%を目標)」というアクションプランも検討を後押しした。2016年からの奈良女子大学第3期中期目標・中期計画においては、「大学の教育研究等の質の向上に関する目標」のなかで、「入学者選抜に関する目標」として「学力判定に偏ってきた従来の入学者選抜を、学問研究に必要な感性、主体性、学力等を総合的に判定できるものに改めるために、入学者選抜方法の根本的な見直しを行う」と目標を設定し、その方法として、「アドミッションセンターを設置し(中略)あるべき入学者選抜方法を研究、開発する/アドミッションポリシーの全体的な見直しを行い、平成29年度までに改訂する」をはじめとする内容が示された。これを受け、2016年にはアドミッションセンターが設置され、2017年にはアドミッションポリシー(AP)が改訂されたという。
「APは入試制度を設計するうえでの羅針盤とも言えるものです」と小川氏はその意義を述べる。図に改訂前・改訂後のポリシーを示した。端的な箇条書きだった文章が、受験生に向けて語りかける内容に変わり、内容も相当な吟味を経て練り上げられている。全学的な議論の結晶とも言えるものだ。
また、今回のQ入試に関連するポイントを図の文章上に下線で示した。特に冒頭について、「大学とは知を創造する空間であると言い切ったのは勇気が要りました」と小川氏は述べる。大学の役割は教育・研究・地域貢献・産学連携等、様々あるが、その本質は何か議論を重ねた結果として、端的な表現に落ち着いたという。ここが起点になっているからこそ、「知の創造を共に行う探究者を求める」ことの一つがQ入試である、というストーリーが成立した。
なお、探究力入試「Q」のQとは、“question”、“quest”のQであり、探究・研究の「究」を組み合わせた表現だ。単に答えを出すのではなく、自分で問いを立ててそれを解き明かしていくことが好きな人を歓迎する入試で、理由は「大学とは、そのように知を創造していく場だから」というわけだ。大学にいるのは教師と教えを乞う生徒ではなく、教員も学生も共に「探究」する者として同じ地平に立ち、互いの知的関心を尊重しながら進んでいく。そこでは、基礎学力だけではなく、日頃から自らの問いを抱き、考え、答えを出し、さらにそれを疑い、さらなる問いにつなげていく力が大切となる。入試時点のその兆しと、こうした探究を継続できる力があるかどうかを軸に評価したい。「だから、探究の成果を問うのではなく、探究力を問う入試にしました」と小川氏は話す。多様な探究力を持つ学生が集うようにと入試設計が進められた。
探究力判定の中核を担うのは教員の見極める眼
Q入試の定員は大学全体の約10%を配当し、具体的な選抜方法は学部によるが、「共通テストは合否判定には用いない」「書類審査と探究力を問う二段階選抜である」の2点は共通している。
後者の「探究力評価」は口述試験・小論文・プレゼンテーション・実験等様々な手法が用いられる。解のない問いにきちんと対峙できるか、自ら問いを設定してその検証を行ったり、特定の領域について自分なりの論を示せるかといった点の確認が中心だが、評価の際の主軸にあるのは何なのか。
小川氏は、「主軸は教員が普段から培っている評価力、見極める眼です」と話す。「Q入試で問うのは探究力ですが、それは高校生と大学生とで本質的に異なるものではなく、高校までに育んだ探究力は大学での研究力にも資する形でつながっています」とのことだ。そして教員達は、「普段から学生と接するなかで、各自がよい問いを立てているか、ふさわしい方法で問いを深めているか、踏み込んだ思考を展開できているのかといった点を見抜くことを積み重ねて」おり、「その眼こそが、高校生の探究力を判定する際にも活かされている」のだという。研究者としての教員が日々の教育活動のなかで磨いてきた眼をフル活用して、「共に知を創造する仲間」を見出してゆくという好循環が、このQ入試にはあるようだ。
高校での探究活動へのヒントともなる入試
同大学は基本理念として、第一に「男女共同参画社会をリードする人材の育成-女性の能力発現をはかり情報発信する大学へ-」を掲げているが、APで「女性リーダーの育成」については言及されていないように見える。ただしこれは基本理念とずれているわけではない。「APでは、本学に入学して勉学や研究に励んで欲しいのがどんな人なのかを主に表現しており、基本理念のほうは入学後の修学環境等も含め総合的に達成されていきます」とのことであった。「学部ごとのAPも作成されており、"現代社会の各分野で諸課題にリーダーシップを持って主体的に貢献できる女子を育成することを目標としています"(理学部)等と、明示している場合もあります」と小川氏は補足する。
また、課題図書やテーマがある場合は、高校2年生の段階で公表して早めに取り組めるようにしている等、受験に至らずとも探究学習のヒントにしてもらえるのではないか、と小川氏は語る。「高校の教育の場において、また高校生個々人にとって、どんな探究活動がありうるのかをイメージできる題材としても本入試の課題を活用してくれれば」と小川氏は述べる。
探究力をキーワードにした入試への準備期間は、探究活動の成果や身につけた探究力と、入学後にできる探究・研究とをどう結びつけうるかを、受験生のそれぞれが自問する機会ともなる。「探究を通して大学入学後の学びをイメージしてもらえたら」と小野寺氏は言う。また、そういうプロセスを経て入ってきた学生は、入学後も意欲が旺盛な層として周囲に良い影響を与えることも期待できる。小野寺氏によると具体的な検証はこれからだが、Q入試で合格した学生へのアンケートでは、「自分がやってきたことを活かせるので大学でもこれを続けたい」「高校で自分がやってきた課題研究をプレゼンできる最高の場だった」といった肯定的な声が多いという。
問題を解く力だけでなく、問いを立てる力も入試で問うというのは容易ではない。選抜単位ごとに多彩な課題や選抜方法を工夫し、「共に探究に挑む仲間よ来たれ」という視点で探究力の見極めがなされる本入試は、まさに奈良女から社会へのメッセージと言える。翻って、どの大学においてもなすべきは、自学ならではの理念や価値をAPに平明に定義すること。そして、それにしっかりと結びついた選抜方法を制度設計して世に問うことではないだろうか。
(文/鹿島 梓)