カレッジマネジメント Vol.234 Oct.-Dec. 2022

大学ブランドを決めるドライバー

編集長・小林浩が語る 特集の見どころ


大学のブランドを醸成するものとは

全入時代突入と年内入試シフトで重要となる早期の認知

 今回は、進学ブランド力調査15周年を一つの節目として、過去データの再分析から、何が大学ブランドを左右するのか、そのドライバーについて検証を行った。そもそも、なぜ大学のブランド力について調査しているのか。それは、「大学が学生を選ぶ時代から、大学が学生から選ばれる時代に変わった」からである。2021年には、私立大学全体の定員充足率は99.8%※1とついに「全入時代」突入した。さらに、年内入試へのシフトが進む※2なかで、早期に高校生に認知され、進学したい大学群に入っていることが「選ばれる大学」に向けて重要な要素になると考えられる。

変化する社会のニーズに対応した大学改革の推進が重要

 大学の志願度を見る際に非常に重要なのが、「高校生が何を重視して大学を選んでいるか」である。これは、①学びたい学部・学科②校風や雰囲気が良い③就職に有利、というのが“鉄板”の上位3項目である。しかし、これらを含めて高校生の進路選択行動や志向は社会環境に大きな影響を受けている。各大学には、多様化する社会のニーズに対応して改革を推進する力が求められる。例えば、社会のニーズに合致した学部・学科の新設・改編、新たな教育プログラムの導入、卒業までに学生が何を身につけるのか、そのためにどのようなサポートをしているのかといった点において、常に変化を恐れず改革を推進している大学の志願度が高まっている。その実現に向けて、近年では大学の統合や合併、地域や産業界との連携も積極的に進められている。

 都市部へのキャンパス移転も志願度向上に寄与するが、それだけでは志願度向上の効果は一時的となっている。オンラインでも十分学べる時代だからこそ、新たなキャンパスでどのような価値を生み出していくのかが重要となる。受験生は毎年入れ替わり、高校生は3年間で全て入れ替わる。だからこそ、改革の手を緩めることはできないのである。

学修者本位での1分で語れるストーリーを

 では、今後の大学ブランドを高めるためのドライバーは何か。これまでの調査結果に基づいて、4つのドライバーを提示した。①時代に合致した商品ラインアップの充実②将来のキャリアを見据えた学びのサポート③学ぶ場の価値の創造④強みの創造と差別化戦略である。

 特に④強みの創造と差別化戦略は今後重要度が高まると考えられる。「特徴がないものはランキングやグルーピングが指標になる」。これは、特集対談における社会構想大学院大学教授・四元氏のコメントだ。最近、「MARCH に行かせたい」という保護者の話を聞くことがある。もちろん世の中に、MARCHや関関同立といった名前の大学はないし、大学の特徴は全くと言ってよいほど異なる。しかし、高校生や保護者は、大学の特徴や個性、強みが分からないためにランキングやグルーピングでリスクを回避する「社会的証明」を重視してしまうとのことだ。

 そうしたグルーピングや偏差値の輪切りによる進学先選択は、入学後の学びのモチベーションに影響を及ぼす。近年、大学選択時の重視項目では「教育方針やカリキュラムが魅力的である」が上昇している。改めて大学のミッション、ビジョン、バリューを明確にし、メッセージを磨き込んでいくことが重要だ。大学の特徴や強み、魅力を1分で語れるか。特に、大学に進学する高校生が自分の将来の姿をイメージできるように分かりやすく伝えることが重要である。求められるのは、学生自身の学修者本位のストーリーだ。

 私は、日々多くの大学に伺っているが、肌感覚で実感していることがある。大学改革を推進している大学は、大学改革を推進することが当たり前で、留まることなく常に次の手を考えている。一方で、大学改革をしていない大学は、大学を改革すること自体が怖く、学内がまとまらずに停滞してしまうのである。この「組織文化」の差は、5年、10年経ったときに大学のブランド力に大きな影響を及ぼす。そうした「組織文化」をいかに醸成していくか。これも、大学のブランドを高めるための重要な要素なのである。


  • 日本私立学校振興・共済事業団「令和3(2021)年度 私立大学・短期大学等入学志願動向」より
  • リクルート「進学センサス2022」調査結果より

リクルート進学総研所長・リクルート『カレッジマネジメント』編集長 小林 浩

<第2特集>
早期化・長期化する受験活動
調査

22年卒 高校生の進路選択行動の実態
~進学センサス2022 より~

インタビュー

2021年&2022年入学者に聞いた入試方式決定の理由と意思決定プロセス

大学は求める学生にどのようにアプローチするか

早期からの検討・意思決定を受けた大学の入学者選抜の動き
東京女子大学 筑波大学

考察

高校生への調査から見えてきた、今後の進路選択
「自分のやりたいこと」起点の進路決定が主流に
学びの内容を重視して選択できるよう早期からの情報発信を

寄稿

「競争しない競争戦略」は大学でも有効か?【前編】
山田英夫 早稲田大学ビジネススクール 教授

TOP INTERVIEW

稲置慎也 学校法人稲置学園 理事長

連載 DXによる新たな価値創出

#4  事例レポート07 創価大学 MDASHリテラシー採択プログラム「データサイエンス副専攻」

事例レポート08 敬愛大学 MDASHリテラシー認定プログラム副専攻「AI・データサイエンス」

連載 入試は社会へのメッセージ

#5 改めて“高大接続”を問う

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入試改革、探究学習、キャリア教育…
京都の産官学が一体となって高大連携を実現

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#37 東日本国際大学
ICEルーブリックを通じた学生との学修目標の共有
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#98 業務の「外部化」と出資会社の活用──大学業務の構造改革の視点と課題
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進学ブランド力調査2022 データ集